第42回「降車ボタン」《ハシ坊と学ぼう!⑧》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
小春日や降車ボタン押せた吾子
朱葉
新緑にキレイと眺めあっボタン
たらお051646497
この字面では、なんのボタンなのか分かりません。
お花見や停車ボタンに幼児の手
京蛍
「お花見や」と詠嘆すると、すでに花見の場所にいると読者は思います。そこから、時間が逆行して「停車ボタンに」となるのが、一番の問題点です。
落椿降りし翁の乗り違え
はなハチコ
「普段は乗る事のない路線バスに乗り、旅をしました。ひとりのお爺さんが『間違えた』と言いながら降りていきましたが、その後無事に着けたか心配になりました。二時間程乗る中で、俳句のタネがたくさんありましたが、十七音にまとまらず苦戦しています。ハシ坊に掲載されている、皆さんの『一句しか出来ない』とか、『締め切り迫る』に同感です」と作者のコメント。
短く切り取る練習をしましょう。作者コメントの中にも、俳句のタネは色々ありますよ。「普段は乗らぬ路線バス」「間違えたと降りる爺さん」等々。
春眠や孝妣バス停通過して
モト翠子
この字面では、お墓参りだとは読み取れません。幽霊のお父さんお母さんがバス停に立っていた? という感じ。
汐の香や菜の花見えし下車急ぐ
竹庵
「見えし」ではなく、「見えて」ですね。
皺皺の母手感触(マザーズタッチ)や衣被
わおち
表現したい内容には共感しますが、中七、少々強引です。
白桃や「Hareca」ピッと烏城へと
わおち
行程を端折って書いた感じがします。中七、要一考。
ミラー越しに指見る眼差し寒夜のバス
ボンちゃんのママ
「最終バスで帰宅する際に、自分一人しかいなくなった車内で、いつも運転手さんにバックミラーで、いつボタンを押すかとチラチラ見られていました」と作者のコメント。
うーむ……、運転手さんの視線だと、どこまで読み取れるかなあ。微妙。
バス待ちの開花談義や猫の恋
そーめんそめ女
ボタン押し母見る吾子よ初雲雀
優花里
指で押す街未知なるや山笑う
こま爺
「指で押す街」は、地図上の街を指で押している? と読む人も当然いるはずです。これが、バスの降車ボタンだと分からないということです。
降車ボタン押し祖母草餅忘れ
天亨
降車ボタンを押そうとして、草餅を忘れる。この句材はよいですね。「祖母」まで書くと音数が溢れます。
添削例
降車ボタン押し草餅を忘れけり
春昼や乗り越し涙一年生
凛ひとみ
中七「乗り越し涙」が、原因と結果を述べるフレーズになっています。俳句は、この「原因結果」を書くことを嫌うのです。作者コメントの中に、小さな俳句のタネが幾つか入っていますよ。
満員のバスはユッケや鳥雲に
コンフィ
「上五中七の比喩の落差が、少し心配です」と作者のコメント。
心配の通り、少々強引です。季語「鳥雲に」が、完全に食われています。
夜行バスの通路に満ちる春の闇
喜多郎
「夜行バスの中まで、春の闇が支配しているような情景を詠みたかったのですが、この場合『夜行バスの』の『の』は必要でしょうか? 無い方がリズムはいいのですが、三段切れになりますか?」と作者のコメント。
この場合は、字余りになりますが、意味の上で「~の」はあったほうがよいと思います。更に推敲の余地があるとすれば、「~満ちる」という表現です。「通路に」とあれば、「春の闇」がそこにあるのは分かります。「満ちる」が最も的確な表現なのか。自問自答してみましょう。
下車鈴押し次は何処や卒業生
青井季節
書きたいことは分かります。ただ、季語「卒業」には、中七の思いはすでに入っていると思うのです。
ブザー押しひとりバス停朝桜
横須賀うらが
小雀やガチャ降車ボタン連打して
糸桜
「ガチャ」は、何を意味しているのでしょうか? そこが、イマイチ読み取り難いです。
降車ボタン誰も押さぬか蓮の花
咲野たまふく
季語が主役というよりは、トッピングされた感じ。別の言い方をすれば、季語は動きます。
多佳子忌に帰宅後忙し押したくない
まほろば菊池
長閑かな止まりを押すはバスガイド
ざるけん
「何故か降車ボタンがついている観光バス。バスガイドさんがボタンを押して見せます」と作者のコメント。
なぜバスガイドさんが押すのかな? そこが分かりにくいです。
汗引いてあくび連なる日誌かな
風井映七
「兼題写真を見てすぐに、教育実習中の帰りのバスを思い出しました。指導案や実習日誌を鞄から出して読み始めるのですが、眠気に耐えられなかったことを思い出しました。次の停留所まで行ってしまったこともありました。今ではキラキラした良い思い出です」と作者のコメント。
霞抜け降車ボタン時空越え
高橋 誤字
上五中七は良いです。下五が感想の説明。ここが勝負どころですよ。