第42回「降車ボタン」《ハシ坊と学ぼう!⑪》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
動き出す貨車の音長し兼好忌
沢井如伽
冬の子が狙い競うはボタン押し
百合崎
何のボタンなのか、この字面では分かりません。
春思う帰郷のバスで剥げた文字
百合崎
「小学生の頃にバス通学をしていたのですが、久々に地元のバスに乗った時に、ボタンも案内の字も禿げていて年月を感じました」と作者のコメント。
「バスで」の助詞「で」が、意味を分かりにくくしています。
うららかやおしゃべり弾み押し忘れ
野イチゴ
この字面だと、何を「押し忘れ」ているのか、そこが分かりません。
バス降りて父見舞う道ハナミズキ
いともこ
碁盤の目京紫や小春ゆく
美古都
「第39回「松山の路面電車」《並》⑦〈碁盤の目京紫のおっとりはん〉の推敲です。〈碁盤の目ゆるり路電の京紫〉も考えたのですが、これも季語がないので『小春ゆく』にしました」と作者のコメント。
「碁盤の目/京紫や/小春ゆく」と、三段切れっぽくなってしまいました。何が京紫なのか。そこも微妙に分かりにくくなってしまったか。
春の旅感を信じて降車する
アサギマダラ
中七は説明です。何を見たから、何がきっかけで、そこを書いて欲しいところです。
四つ先同じ笑顔に桜餅あり
青柳四万十
「四つ先」が、何の四つ先なのか。この字面では読み取れないのです。
指伸ばしためらう春の気まま旅
妙重
何をためらっているのか、この字面では伝わりません。
着膨れをかき分け押せしドアボタン
ぽんころん
「東北方面では電車の開閉ボタンがあり、自分で押して乗り降りします。慣れないと戸惑います」と作者のコメント。
「~押せし」の「し」は、過去の意味。今まさに、という臨場感が必要な句ですから、ここは……
添削例
着膨れをかき分けて押すドアボタン
寒詣で立て続けに鳴る降車ボタン
くう
「鳴る」は省略できそうですよ。
添削例
立て続けの降車ボタンや寒詣
ひと時の春眠めざめし大慌て
森田ゆり
「春のバスで、のんびりゆったり」と作者のコメント。
下五「大慌て」は、説明です。バスの中で寝ているのであれば、それを書くべきですね。
次だ良かった思いは同じ春日和
藤井あいな
風光る児が押すボタンガンダムへ
一徳斎
スクールバス押せぬ心や秋の蝿
ウルト
「学生時代に勇気が出ずに、なかなか降車ボタンを押せなかった体験を詠みました」と作者のコメント。
この字面だと、兼題写真を見てない人には、何を押せないのかが不明確です。
終電は今日も満月は雨後に
ウルト
助詞と語順を一考しましょう。
旗当番黄帽初々し春よ
きいこ
春愁や降車ボタン爺が負け
夢散人
何に負けるのか。押し負けるということが明確ではないですし、押し負けたのだとしたら、「春愁」という季語は、ストレートすぎます。
春光降車ボタンに小さな手
髙田 純佳
「春光」は、「しゅんこう」と四音ですから、あと一音入れたいですね。
「とまります」譲る季節か春のバス
太郎
何を譲るのか、明確に書くべきでしょう。更に、「~季節か」は必要ですか。
バスベルや新春ライブ我先に
笑道心文
描こうとしている時間軸が長すぎます。再考してみましょう。
バス暑し願えど点かぬ降車ボタン
ヤスジン
中七は要一考です。誰か押して欲しいという可能性だけでなく、押しても点かないという可能性も。ここは、作者の意図がきちんと伝わるように再考しましょう。
新学期降車ボタンちら見かな
もっさん
「かな」は詠嘆? 口語?
春の雷停まるはずなしバスジャック
白いチューリップ
空想が悪いというわけではありませんが、まずは、実体験を切り取るところから練習を始めましょう。
鳥曇吊り革揺れて母見舞い
かよちゅう
「句会ライブに先月参加して、チーム裾野、まずは季語+十二音からやってみようと思います。実家に帰ってバスに乗る=入院中の母親の見舞いということを思い出して、詠んでみました」と作者のコメント。
まずは、取り合わせの基本の型から。良き第一歩です。この十二音のフレーズの惜しい点は、時間軸がバラけているところ。「吊り革揺れて」「母見舞い」だと、二つの時間がたった十二音の中に押し込められているのです。「母を見舞いにゆく電車」だと、電車に乗っている時間が切り取られます。
子の声で初の地踏めば木の芽風
りひそ
上五の助詞「で」が散文的な使い方。更に、語順を考えてみると……
添削例
子の声に踏む初の地や木の芽風