第44回 俳句deしりとり〈序〉|「くう」②

始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。


第44回の出題
兼題俳句
朝貢のラピスラズリや李喰ふ 日進のミトコンドリア
兼題俳句の最後の二音「くう」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「くう」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
空論か永久機関は千の風
時田チクタク
空論は机上のスイカの甘さなり
古み雪
空論の納めどころや新酒酌む
かなかな
空論の酷や机上の蝿を打つ
ガリゾー


九龍やひとり功夫練る月下
みづちみわ
九龍をかすめる翼秋灯
横山雑煮
九龍残暑ぽたぽた落ちてくる何か
千夏乃ありあり
九龍城崩れ蟄虫戸を坏ぐ
家守らびすけ


クーラーが強になってる仮眠明け
高橋寅次
クーラーの音だけでかいインドの夜
松本厚史
クウラアの室外機居留守使えず
スマイリィ
クーラーや扉へだてて拗ねている
令子
クーラー壊れ我も壊れたる夏
夢佐礼亭 甘蕉
くうらくうら涼を求めて影探す
老蘇Y
空調の温度紛争よるの蝉
佐々木棗
空調の効かぬパン車に秋暑し
天弓
空調の効きすぎた夜の冬薔薇
ノセミコ
空調の部屋に籠りて秋恋し
砂月みれい
空調の唸り蠢く夜半の夏
うめやえのきだけ
空調服のお兄さん夏の昼
櫻木うらら
空調服の季語になるらし暑苦し
真夏の雪だるま
空調服の背中ぷっくり炎天下
太之方もり子
空調服ふんわり畑の残暑
しみずこころ
空調服膨らむ灼くる万博
のりのりこ
空調服冷やしバナナに塩ふつて
赤味噌代
クーラー&空調&空調服。「クーラー」「冷房」は夏の季語になってますが、「空調」はありませんでした。涼しくするのも温かくするのも空調だから季語とは扱いにくいんでしょうなあ。その点「空調服」は悩ましい存在。もっぱら炎天下での作業員の負担を軽減するための道具として活躍しているので、夏だけに絞った季感を持ち得そうです。《真夏の雪だるま》さんが季語になる説(?)を書いてますが、いつかはそんな日がくるのかもしれませんねえ。少なくとも2025年現在は手元の歳時記には載ってないですが、技術の進歩が新しい季語を生み出す可能性を楽しみましょう。


空転す秋野に横転の車
十月小萩
空転や落ち葉時雨を噛む車輪
唯野音景楽
空転の思考回路や昼寝為す
甲斐杓子
空転する会議クーラーは静か
花岡貝鈴
「車に思考に会議まで。空転するものいろいろです。うまく動かないとか、まとまらなさとか、同じ状況をもっと長い言葉で言い換えることもできるのでしょうが「空転」のわずか四音が効いております。こうやって例句を並べると、物理的な意味にも精神的な意味にもつかえる言葉であるからこそ、「空転」の一語が多角的にままならなさを表現してくれてるのだなあ、と思えますね。《花岡貝鈴》さんの句は、「会議は踊る、されど進まず」と揶揄されたウィーン会議を思い出して、個人的にフフッてなりました。こういう辛辣エピソード読むのけっこう好き。


クーというフランス名の猫の恋
ときちゅら
「くぅ」と哭き"くぅ"という名になり日永
古都 鈴
クゥ泳ぐ昨日も今日も河童忌も
納平華帆
「くぅ」さんの載る俳句誌や秋日和
どこにでもいる田中
「くう」のお題我が名に感謝する晩夏
くぅ
空さんの届くる花や秋気澄む
ひでやん
《どこにでもいる田中》さんと《くぅ》さん、俳人同士の友情も微笑ましくてにっこりしちゃう。《ひでやん》さんの「空さん」は長年の組員さんにはおなじみの《空》さんあらため、《越智空子》さんだよね、きっと。いつもすてきなお花を仕立てて下さるお花屋さんなのよ~。「秋気澄む」が清澄な気品を感じさせてナイス取り合わせ!


くうくうと犬甘えをる秋の暮
細葉海蘭
くうくうと仔犬すりより秋の風
希凛咲女
くうくうと子犬と吾子と青田風
戸村友美
くうくうと箱の子犬や十三夜
小笹いのり
くうくうと甘えるうさぎへと抜菜
伊藤 恵美
くぅくぅと波うつ毛並み春うらら
はま木蓮
くうくうと寝たふりの子へ金木犀
千代 之人
くうくうと眠るペンギン春霞
里山子
〈③に続く〉



