俳句deしりとりの結果発表

第44回 俳句deしりとり〈序〉|「くう」④

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第44回の出題

兼題俳句

朝貢のラピスラズリや李喰ふ  日進のミトコンドリア

兼題俳句の最後の二音「くう」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「くう」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

車待つ炎天みづと塩飴と

佐藤さらこ

車来い滝汗流れ目はかすむ

佳辰

車でも乗れないタクシー天の川

森ともよ

車をらぬタクシー乗り場後の月

泉楽人

車待ち日を跨ぐのか朧月

真秋

車のサイン赤く滲みて過ぐ雨月

のりこうし

車のまま冬銀河まで走る

苫野とまや

都会だと最近はもうアプリで配車することが多くて、昔みたいな流しのタクシーは減ってるのだそうです。《佐藤さらこ》さんと《佳辰》さん、このまま待ち続けたら倒れるんじゃなかろうかと心配になりますわ……。乗りたくて待ってる人が多い中、運転手目線の《苫野とまや》さんが突っ走っていく対比がシュールでじわじわくる。「冬銀河まで走る」がロードムービーのような味わい。
“良き”

気読め夫の一言露寒や

つきみつ

気読むほど息苦し女郎花

藍創千悠子

気よみポチも離るる秋の風

星瞳花

気読めなんて言わずにアイスクリン

小鳥遊

気読めませんと一人山椒の実

山内彩月

気が読めない春の風ふうわり

いちの

空気を読む文化に苦しむ人&悠々とかわす人。苦しむのに共感できる分、《小鳥遊》さんや《山内彩月》さんの自分らしく過ごす姿は癒されるなあ。《いちの》さんの句も、だって私はこうなんだもん! て感じがしてかわいい。選ぶ季語次第ではとげとげしくなっちゃう可能性もあるんだけど「春の風」ならまったく無邪気で無害であります。
“ポイント”

想す赤毛のアンの島は夏

みそちゃん

想にふける少女に星月夜

丘るみこ

想の尽きぬ窓ぎわ秋の雲

城ヶ崎文椛

想の翼を一枚秋空へ

国東町子

想の翼広げよ星涼し

ピアニシモ

想の龍の飛翔画北斎冴ゆ

小川都雪

想の鱗の色と夏の色

宇野翔月

想の麒麟のラベルビール旨

沙魚 とと

想をしては曼珠沙華のあくび

だいやま

想の科学論じる月夜かな

小田毬藻

俳人の多くは空想好きなんじゃなかろうか。幼少の読書体験もそういう人格を形作るもとになってるのかもしれないねえ。いつきさんも『赤毛のアン』好きだって言ってたな。かくいう私は空想の生物とか化学も大好物。《小田毬藻》さんの句の元ネタはもしや柳田理科雄さんの『空想科学読本』シリーズでは? 昔我が家では空想科学読本が流行し、家族一同げらげら笑いながら読んでおりましたワ。ゼットンの火球鬼つええ!

“とてもいい“

クウガショー悪の死に様風光る

藻玖珠

クウガ展仮面ライダー夏のフェス?

とも女

ん、クウガは未履修なんだ。すまない。オーズと鎧武と、あと少しならわかるよ。またその時に来てくれよな。(いつだよ)

“ポイント”

中のライオン優し月あかり

あさり丸

中へ飛び出すぶらんこの重さ

紅紫あやめ

並べてみるとサーカスっぽい二句。月あかりがライオンのシルエットをやわらかく描き出すの、絵になるねえ。《紅紫あやめ》さんの句は「空中へ飛び出す」といわれるとサーカスの空中ブランコか? と錯覚しますが、ぶらんこの春の季感に忠実に読むなら日常で目にする公園や学校でのぶらんこと読むべきでしょうね。子どもの頃、漕いでるぶらんこからジャンプする遊びやってたんじゃないかな。ぶらんこの軌道から自分だけが離れていく瞬間の心許なさや異物感が「の重さ」によって鮮明に甦ってきます。
“良き”

襲だ防空壕だ原爆忌

しせき

襲の街にも同じ大晦日

北斗星

襲の爪跡激し壕の跡

北川茜月

襲の聞き取り手帖菊香る

百瀬はな

襲警報川辺は草いきれ

天六寿(てんむす)

爆がドット絵めいて肌寒し

西川由野

爆と飢餓終わりなきガザの夏

UVA桜

爆のガザの子供ら空の鍋

幸水

爆の空に繋がる冬の空

コミマル

挺団夏空を水母のごとく

葦屋蛙城

挺団九十九の島にひるがえる

風早 杏

挺団入隊の報革ジャンパー

咲山ちなつ

空襲、空爆、空挺団。軍事関連の言葉が並んでおります。戦争や軍事に関する内容を句にしようとすると、詠みたい内容が心の中で大きくなりすぎて、季語を入れ忘れてしまうケースが時々あります。《北川茜月》さんの寒々とした壕の跡、《幸水》さんのガザの子供の飢餓、《風早 杏》さんの空挺団のひるがえる上空に広がっているであろう季節の空の雄大さ、それぞれに季感は感じるのですが、明確な季語がないのが惜しい。
“ポイント”

母めく女房よゲゲゲ忌へ餃子

水きんくⅡ

こちらも軍事関係の言葉ですが「空母」を比喩に使いました。「ゲゲゲ忌」は『ゲゲゲの鬼太郎』などで有名な漫画家・水木しげる先生の忌日。2015年11月30日に亡くなられたので、季語としては非常に新しいものです。妻である武良布枝さんの自伝『ゲゲゲの女房』がNHKの連続テレビ小説や映画化されたこともあり、偉大な女房の存在はぜひ一句に同居させたくなりますなあ。水木しげる先生は従軍体験も漫画にしているので、そういう意味でも「空母」は気の配られた取り合わせであります。供される餃子が冬の食卓へ豊かな湯気をはなって美味しそう。
“ポイント”

閨にいかづち響くシーツを被る

九月だんご

席の目立つ完売月涼し

さ乙女龍チヨ

閨のなつかしくなる介助秋

明 惟久里

閨の夜陰を疼くゐのこづち

内藤羊皐

閨やそれはきれいな月なのに

加里かり子

閨や蚊に喰はせをる足の裏

いかちゃん

初めて知った単語シリーズ。「空閨(くうけい)」は夫婦の片方がいないために、独りで寂しく寝る寝室のこと、だそうです。《明 惟久里》さんの喪失感、《加里かり子》さんの清らかに恋い慕う心、「空閨」の意味がわかるとしみじみと良いなあ。一方で《いかちゃん》さんの淡々と過ごす描写も味わい深い。「喰はせをる」のだらっと身を任せた表現がリアルですねえ。自由と倦怠とほんのひとつまみ分の寂しさが「空閨や」の詠嘆から滲んできます。
“ポイント”

クーデグラ鹿は蛋白質となる

ふじっこ

なにそれ……? クーデグラ鹿っていう鹿の品種名……??

調べてみると「クーデグラ(coup de grace)」はフランス語で「とどめの一撃」または「慈悲の一撃」を意味するのだそうです。致命傷を負って助からないものを「楽にしてあげる」こと。または苦しませずに一撃で殺すこと。なるほど、それで鹿は肉=蛋白質になる、ってことかあ。昨今問題になってる熊も罠にかかったあととどめを刺さないといけないらしいしね……。あまりにも即物的で鹿の季感が薄い気はするけど、こういう言語の豆知識が増えるのは個人的にすごい楽しい。
“ポイント”

亡の絵踏あなうら伽羅色に

岡根喬平

これも知らないなあ。どうも占いに関する用語のようです。辞書によると「空亡(くうぼう)」は十干と十二支を組み合わせたときに出来る余りの二支のことであり、空亡の種類には、戌亥・申酉・午未・辰巳・寅卯・子丑の六種類がある……そうです。うーん、聞いてもよくわからん。占いの体系によって天中殺とか大殺界といわれるのがこの「空亡」なんだそうです。むう、そう言われると俄然悪いことが起こりそうな感じがしてくるなあ……。春の季語「絵踏」は、その由来のため負の感情を刺激してくる季語。不吉を暗示させる空亡と罰当たりな絵踏をイメージの上で組み合わせつつ、中七下五でその足の裏を映像として描写する手堅さもお見事。
“ポイント”

集合も部分集合唐辛子

歩歩丸

……?? 数学の用語らしいんです……けど……。僕個人は習ってない範囲のやつです……ね……。辞書には「要素(元)を一つももたない集合。記号φで表す。」とありますが、解説をみても微塵もわからん……。数学の素養のある人なら唐辛子との取り合わせも含めて魅力的な句だったりするのか!? 教えて数学有識者ー!!
“ポイント”

谷の熊の跫音ずしずしと

水越千里

谷の跫音を待つ薔薇五本

うらん

「空谷(くうこく)」は人のいない寂しい谷間を意味します。が、実は《うらん》さんの句は「空谷の跫音」でひとかたまりの熟語のようです。だれもいないはずの山奥で聞こえる足音を意味し、転じて孤独なときに受ける珍しくてうれしい訪問や便りのたとえ、なんだそうな。なーるほど、その訪問を待ってる状態の「薔薇五本」ってことかあ。寂しさから「薔薇」の華やかさへの落差が良いねえ。

……実は《水越千里》さんの句も単純に空谷の熊を描こうとしたんじゃなくて、「空谷の跫音」を変則的に使っているんだろうか。うれしい訪問や便りとは真逆な災いな気がするけども……。獲物を待ってるハンター目線だとしたらギリギリあり得る……?
“ポイント”

クーベルタン男爵立てり秋の野に

たかみたかみ

「クーベルタン男爵」、フルネームはピエール・ド・クーベルタン(Pierre de Coubertin)。フランスの教育家であり、教育の革新とスポーツ教育の重要性を主張した人物だそうです。オリンピック復活を提唱して1894年に国際オリンピック委員会を結成、その2年後に近代オリンピックの第1回大会であるアテネオリンピックが開催された、とのこと。すげえ、オリンピックの父親みたいな人じゃん!! 背景を知ると、秋の野に立ってるのは競技場候補地の視察でもしているのか、野でスポーツに夢中になる選手達を眺めているのだろうか、と想像が膨らみますねえ。教育者として見守る目線の落ち着きに「秋」という季節が似合います。ちなみにお墓はスイス西部のローザンヌにあるけど、心臓は遺言によってオリンピックを夢見る原動力となったオリュンピアの遺跡に埋葬されたそうな。推しガチ勢感あっていいな……俺、クーベルタン男爵のこと好きになっちゃうよ……。
“ポイント”
第46回の出題として選んだ句はこちら。

第46回の出題

クウェートのスタンプ遠雷の万

駒月 彩霞

「クウェートのスタンプ」の九音+「遠雷の万博」の九音による字余り&破調の型。前半で映像を描写し一度切れを作り、後半へと展開する形です。

投句期間中はまだ万博の開催期間中だったんですよねえ。結局行けず仕舞いで終わってしまい少し寂しい……。万博の現場から「クウェート」という今回のしりとりに合った国名を見つけてくる取材根性がえらい!

パビリオンをwebサイトで見ると大きな翼のような外観が印象的でした。スタンプも同様に波打つような数本の線で構成されています。このスタンプの模様と、音に季語の重要なエッセンスを持つ「遠雷」との取り合わせが似合いますね。音もまた空気を伝わって届く波ですから。遠くの空で閃いた雷と、数秒遅れて聞こえてくる轟き。悪天にざわざわと帰るタイミングをはかり始める周囲の動きも感じられそうな生々しさが「遠雷」にあります。

ということで、最後の二音は「ぱく」でございます。 

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう! 
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!

“とてもいい“