写真de俳句の結果発表

第61回「鯛焼屋の行列」《ハシ坊と学ぼう!⑫》

ハシ坊

鯛焼屋の行列

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

鯛焼や硝子に望む夫婦かな

柊木涙

夏井いつき先生より
「や」「かな」という切字が重なると、感動の焦点がブレるということで嫌われます。どちらかを外して、整えてみましょう。
“ポイント”

鯛焼きは魚板窮屈甘き煩悩

木香イバラ

夏井いつき先生より
「鯛焼きのルーツはお寺にある魚の形のあれか? と思い、調べたところ、あちらは『魚板』という木魚の原型になる物のようでした。人をほっこりさせる鯛焼きと魚板の対比が面白く感じて、作りました」と作者のコメント。

やろうとしていることは面白いのですが、少々情報が多すぎます。それぞれの言葉の優先順位をつけて、それが低い単語を外してみましょう。
“参った”

献血の百回達成たいやき屋

チバミロ

夏井いつき先生より
「献血」「百回」と「たいやき」の取り合わせは良いですね。ただ、「献血の百回」と書けば、「達成」は不要。更に、「たいやき屋」と店にするよりは、「たいやき」そのものを取り合わせるほうが、季語の実感が強くなります。
“良き”

鯛焼きや修道女の頬赤し

大和出ユウスケ

夏井いつき先生より
「鯛焼き」と「修道女」の取り合わせは、いいですね。中七下五の調べを整えたいところです。
“ポイント”

鯛焼や型押しつけらるる昏さ

佐藤儒艮

夏井いつき先生より
「リズムが悪いのが気になります。初案は〈鯛焼や型にはめられゐる痛み〉。中七下五を『押しつけらるる型昏し』にすればリズムは良いんですが、人を型に嵌めようとするのに抵抗したい気分です。『夏井いつきの一句一遊』の天・東京の銀紙さんの〈鯛焼の側面といふ真正面〉の衝撃が鮮烈すぎて、ついこの間の事かと思ったら2022年! もう三年前なんですね!!」と作者のコメント。

やろうとしていることは理解できますし、共感も抱きます。ただ、中七下五の意図が分かりすぎる点が、作品としての完成形ではないのだろうなと。銀紙さんの句のように、即物的に書いているのに、心理的な奥行きや寓意が読み取れるのは、カッコイイですね。
“難しい”

夏の喜望峰菓子かっぱらうマントヒヒ

やまだ童子

夏井いつき先生より
句材には惹かれますが、それぞれの言葉に優先順位をつけ、最も優先順位の低い単語を一つ減らしてみましょう。
“参った”

護国寺の豆大福や尾崎忌

藤井天晴

夏井いつき先生より
「和菓子屋さんの行列から護国寺駅近くの豆大福のお店を思い出しました。4月の雨の日、いつになく護国寺周辺に人が溢れていたら、その日は尾崎豊さんの葬儀でした。『尾崎忌』では通用しないかもしれないと思いましたが、護国寺といっしょなら伝わるかもしれないと思いました」と作者のコメント。

「豆大福」と「尾崎豊」の忌日という取り合わせには、不思議なミスマッチがあり、惹かれます。が、「『尾崎忌』では通用しないかもしれない」が、「護国寺といっしょなら伝わるかもしれない」という効果はありませんし、下五「尾崎忌」も四音で座りも悪く、どの尾崎さんの季語なのか、少々分かりにくい。少々長いですが「尾崎豊の忌」と「豆大福」の取り合わせとして、再考してみましょう。
“ポイント”

焼き型はくるり鯛焼生まる音

まっちゃこ

夏井いつき先生より
「生まるる」とすれば、人選です。
“ポイント”

小豆炊く銅なべ木べら今もなほ

おこそとの

夏井いつき先生より
「小豆炊く銅なべ木べら」までは、リズムもあって良いですね。下五「今もなほ」と説明してしまうのは、勿体ない。上五中七で、ずっと使っているのかなあ、と想像はできますので。
“参った”

待ち列のツムツムゲーム秋の空

岡本かも女

夏井いつき先生より
「ツムツムゲーム」がどんなものかは知らないのですが、「待ち列」を「待つ列」とすれば、人選です。
“参った”

浪花屋と言ふが麻布のたいやき屋

喜多輝女

夏井いつき先生より
「いふが」と平仮名書きにして、人選です。
“良き”

地方紙に包み鯛やき届きけり

おケイちゃん

夏井いつき先生より
この「地方紙」の名前を具体的に書くと、その地のイメージが一句に加わってきます。例えば、「北國新聞」みたいな。
“参った”

閉店や秋祭りは三年ぶり

黒猫

夏井いつき先生より
第61回『鯛焼屋の行列』〈秋祭り今は無きどら焼きの店〉(並)の推敲です。久しぶりに秋祭りに行ったら、小さな頃、行列のできていたどら焼きの店が無くなっていました」と作者のコメント。

うーむ……何が「閉店」なのか、却って分かりにくくなってしまったなあ。
“良き”

霧を脱ぐ朝明けのモンサンミシェル

風友

夏井いつき先生より
同じ句材で、動詞を替えただけのものが二句投句されていました。毎回二句しか投句できませんので、出来れば違う句材のものに挑戦してみて下さい。その方が、学びが深くなります。
“参った”

悴む手あんこ舐めとる君の舌

王朋亡

夏井いつき先生より
「舐めとるなら当然『舌』だろう、という声が聞こえてくるような気がしました。しかし、舌というフェチというかエロスというか、色気のようなもの、そこから目がはなせないのだという情景を詠みたいという気持ちもありました。また、表記についても漢字と平仮名の組み合わせで大いに悩む一句でした」と作者のコメント。

「悴む」が主役になっているか、という点。更に、「舌」という部位を艶めかしく描きたいのだとしたら、逆に「君」という恋愛の対象を思わせる言葉が邪魔ではないでしょうか。表現したい内容に対する言葉の質量の選択。挑んでみて下さい。
“参った”

鯛焼きに並んでもひとり

宇佐

夏井いつき先生より
尾崎放哉の〈咳をしても一人〉という名句があるので、少々分が悪いかと。
“参った”