写真de俳句の結果発表

第61回「鯛焼屋の行列」《ハシ坊と学ぼう!⑭》

ハシ坊

鯛焼屋の行列

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

鯛焼きや待合室で杖をつく

水野 淨子

夏井いつき先生より
同時投句〈鯛焼きや待合室に杖の音〉も同じ句材でした。投句したあとで、推敲を思い付いたのかもしれませんが、毎回二句しか投句できませんので、一句一句違う句材のものに挑戦してみることをオススメします。
“ポイント”

片っ端から食ふておくれな獺祭忌

おりざ

夏井いつき先生より
歴史的仮名遣いを選んでいるのならば、「片っ端」の小さい「っ」は、「片つ端」と大きくなります。更に、動詞「食ふ」が助詞「て」に接続する場合は、連用形になりますので「食ひて」となります。音便を発生させると「食うて」とも。
“ポイント”

猿酒をやるみんなにはナイショだよ

たけろー

夏井いつき先生より
「『みんなにはナイショだよ』は、『ゼルダの伝説』というゲームに出てくるお決まりのセリフです。 ゲームには『猿酒』は出てきませんが、ファンタジー要素のあるこの季語が、内容に見合っていると思い、取り入れました。 第52回『ハイカラ横丁』《並》〈待春の連打ミンナニナイショダヨ〉の推敲句です」と作者のコメント。

なるほど、そういう決め台詞なのですか。「みんなにはナイショだよ」で十音あるので、残りの季語を含む七音で、オリジナリティを出すのは、かなりハードルが高いですね。
“参った”

底冷に間口一間でたい焼きや

あらまち一駒

夏井いつき先生より
「に」「で」の助詞が散文的な使い方です。

添削例
底冷の間口一間たい焼き屋
“ポイント”

脱サラや一本焼きの彼岸花

林房恵

夏井いつき先生より
「一本焼き」は、鯛焼きのこと? 脱サラで鯛焼き屋を始めたのでしょうか。とはいえ、中七下五が「一本焼きの彼岸花」と意味が繋がってしまうので、このあたりの句意が読み取れません。
“良き”

大曲がり行列傍の大糸瓜

夏井いつき先生より
「大曲がりの」とすれば、人選です。
“ポイント”

百つ子の鯛焼あはれ東口

葉村直

夏井いつき先生より
「百つ子」は、「百個」でしょうか。他の意味があるのかなあ……。
“難しい”

懐中の鯛焼ぺしやんこ夜寒かな

理佳おさらぎ

夏井いつき先生より
「鯛焼」も冬の季語ですが、「夜寒」を主たる季語にしたいのでしょうか。とはいえ、中七の終わりに意味の切れ目があるので、下五の「かな」があまり利いてきません。下五「かな」の場合は、中七で意味の切れ目を作らないのが定石です。
“参った”

初試合で二位ごほうびに鯛焼き

凛ひとみ

夏井いつき先生より
「で」ではなく、「は」とすれば、人選です。
“ポイント”

季重なり

初紅葉たい焼き冷めぬ距離に孫

兎波

夏井いつき先生より
「たい焼き」が冬の季語なので、上五の五音分を季語ではない言葉に変えてみましょう。
“ポイント”

前任の流木放り風光る

はまちこ

夏井いつき先生より
第59回『色っぽい流木』の再考です。思い切って捨てる気持ちから『放り』を選びました」と作者のコメント。

推敲の句を送ってこられる時は、元々の句+どんな情景・心情を表現したいのか、という創作意図を明記して下さい。
「前任」の人が、流木を放ったという句意で間違いないのでしょうか。下五の季語が動きそうな気もしますが……。
“参った”

肉饅頭は今日も売り切れ塾帰り

天風さと

夏井いつき先生より
「塾に行く途中のコンビニに『肉まん、餡まん』の文字が見え、もうそんな季節なんだ、帰りに買って帰ろうと思っていました。でも帰りに寄ると『売り切れ』。翌日に行ってもまた売り切れ。『よし、明日こそ』と変な気合いが入りました」と作者のコメント。

上五を「肉まんは」とすれば、字余りを回避できますし、それならば人選に推せます。
“参った”

季重なり

冬茜吾子とたい焼き頬張りて

瑞風

夏井いつき先生より
「たい焼き」「冬茜」どちらも季語ですね。この場合でしたら、中七下五のフレーズは成立していますから、上五を季語ではないものに置き換えてみましょう。
“良き”

地震来る熱きたい焼き踏むかかと

峠の泉

夏井いつき先生より
「ふんわりとした日常のささやかな幸せの時を、非日常の恐怖へと落とし込む地震の発生。大地震の揺れを思い出して、その一瞬を切り取りました。初めは『津波来る』としていましたが、あまりにも生々しく恐ろしく思えて、『地震来る』にしました」と作者のコメント。

表現意図は理解できます。季語「たい焼き」と「地震」の取り合わせは、言葉の質量のバランスをどう取るのかが、非常に難しい。「熱きたい焼き踏むかかと」という書き方では、主役となるべき季語「たい焼き」は、「地震」を表現するために脇役になってしまいます。まずは、「ふんわりとした日常のささやかな幸せの時」を表現できる別の季語での再トライから。いつか「たい焼き」×「地震」の高難度の取り合わせにも挑戦できるよう、更に俳筋力を鍛えてまいりましょう。
“参った”

穂あかり」とふ言の葉降(ふ)るや麦の秋

宙朔

夏井いつき先生より
「何年か前に詠んだドキュメンタリーで、辺見じゅん氏が、敗戦兵として帰郷した父の角川源義氏を迎えて詠んだ短歌の中に、『麦の穂あかり』という言葉があり、いつかこの言葉を使ってみたいなあと、あこがれの思いがありました。この言葉自体季語ではないようなので、近すぎるかなとは思いなから、『麦の秋』を用いてしまいました。本歌取りなどいう気持ちはありませんが、一度トライしてみたかったのです」と作者のコメント。

カッコの一つが取れてしまってるのはイージーミスですが、他者の短歌にあった「麦の穂あかり」という言葉を使いたいという意図があるのなら、「~とふ言の葉降るや」という措辞では、食い足りません。自分の言葉として咀嚼できているとは言い難いものがあります。「麦の秋」と取り合わせるよりは、「麦の穂あかり」の「麦」を、堂々と季語として使って、このミッションを達成してほしいものです。
“良き”

胎児に水搔き鯛焼きに羽根の跡

うーみん

夏井いつき先生より
取り合わせの対比の意図は伝わります。ただ、主役となるべき季語「鯛焼き」よりも、「胎児」の「水掻き」のほうが目立ってしまっているというか、言葉の質量のバランスが気になります。
“参った”

雨女けふも尻から鯛焼を

水鏡新

夏井いつき先生より
「雨女」と「鯛焼」の取り合わせには、興味を持ちます。ただ、鯛焼を尻(しっぽ)から食べるという類想はかなりあるので、「雨女」と季語との取り合わせの接点としては、あまり説得力がありません。
“参った”

蔦茂り扁額読めぬ廃寺や

智隆

夏井いつき先生より
下五を「や」で終わらせるのは、バランスの取りにくい難しい型です。

添削例
扁額の読めぬ廃寺や蔦茂る
“ポイント”

たひやき食むイソツプのきつねもグリムの姫たちも

どゞこ

夏井いつき先生より
狙っているところは分かるのですが、調べに対する配慮が欲しい。このダラダラ感は、作品として得にはなっていません。
“参った”