写真de俳句の結果発表

第61回「鯛焼屋の行列」《ハシ坊と学ぼう!⑮》

ハシ坊

鯛焼屋の行列

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

行列の日傘に驟雨歌手公演

みやもとや

夏井いつき先生より
「炎天下、公演の開場を待っている時ににわか雨にあったことを句にしました。初めは〈行列の傘に驟雨や歌手公演〉としたのですが、傘だと炎天下であることが読み取れないどころか、雨の中差している傘ともとれることと、日傘に合う類似語が無かったので、敢えて『日傘』としました」と作者のコメント。

上五中七の季語を含むフレーズ、とても佳いですね。下五は、なんのために並んでいるかの説明になってしまったのが、勿体ないです。
“ポイント”

看板の屋号木目に冬の空

山本八角

夏井いつき先生より
中七の助詞「に」のニュアンスが、ちょっと分かりにくいかなあ。
“ポイント”

鯛焼きをふたつは寂しひとつより

朗子

夏井いつき先生より
「一人なので『ひとつ』でいいのですが、それもわびしいので二つ買ったものの、もっと寂しさがつのります」と作者のコメント。

「鯛焼の」とすれば、人選です。
“参った”

脂っこい角煮沖縄の炎暑

鈍牛

夏井いつき先生より
第57回『沖縄県の郷土料理』〈脂っこい本場の角煮炎暑かな〉で、『かな』が利いていないので、体言止めの助言をいただき、手直しをしました。まだ切字の効果がわかりません」と作者のコメント。

原句〈脂っこい本場の角煮炎暑かな〉の場合は、中七で意味が切れるため、調べが途切れてしまい、「かな」の詠嘆が利いてこないのです。推敲案の〈脂っこい角煮/沖縄の炎暑〉は、/線のところに意味の切れ目がある句またがりで、前半九音、後半八音の破調です。このままでもよいのですが、一音字余りにして、「角煮」の後に「ぞ」あるいは「よ」などの詠嘆を一音入れると、調べがこなれます。
“ポイント”

キリギリス看板降りて刻を告げ

萌黄多恵

夏井いつき先生より
動物の季語は、特別な意図がない限り、片仮名書きにしないのが定石です。
“良き”

ホバリング老舗の暖簾嗅ぎ蜻蛉

和脩志

夏井いつき先生より
中七下五の季語を含むフレーズがよいですね。上五「ホバリング」と「蜻蛉」という言葉が、離れた位置にあるのが損。そもそも、「ホバリング」という言葉が必要かどうかも含めて、一考してみましょう。人選は目前です。
“ポイント”

口コミといふ流れの速し蜃気楼

青田道

夏井いつき先生より
上五中七に対して、季語「蜃気楼」のイメージが少々近すぎるかと。さまざまな季語を取り合わせてみて、その距離感を確かめてみましょう。歳時記を地道にめくっていくと、思いがけない「言葉の科学反応」を起こす季語との出会いがありますよ。
“難しい”

たい焼きの時代を偲ぶあの味覚

天龍蘇人

夏井いつき先生より
俳句においては、「偲ぶ」「思う」のような言葉は必要ないケースが多いのです。YouTube『夏井いつき俳句チャンネル』「凡人あるある脱出シリーズ」を参照して下さい。
“参った”

入店は三時間待ち昼寝の子

夏井いつき先生より
最後に「昼寝の子」が出てくると、状況が掴みにくくなります。行列で待ちくたびれた子が、だっこされたまま、あるいは乳母車の中で寝ているという光景ならば、それが分かるように書く必要があります。
例えば……

添削例
昼寝の子抱いて行列三時間
“ポイント”

煤けたる屋号の看板秋祭り

長谷部憲二

夏井いつき先生より
「中七の「看板」を「文字や」とすれば字数は収まるのですが、看板全体が煤けているとすることで、老舗であることを感じ取ってもらえたら、と思いました」と作者のコメント。

「煤ける」という表現で、老舗の感じがでるか否か。古ぼけているだけだと受け取られる可能性の方が、高いのではないでしょうか。それと合わせて、季語「秋祭」との取り合わせがベストか否かも再考する意味はありそうです。
“ポイント”

ずらり鯛焼跡取りは馴染み客

満生あをね

夏井いつき先生より
この「跡取り」とは、鯛焼屋の跡取り? 「馴染み客」は、鯛焼屋の客? それとも、鯛焼屋の跡取りが、どこかの店の馴染み客? そのあたりが明確に書けるとよいのですが。
“ポイント”

ふる里の間口2間の鯛焼き屋

上村 風知草

夏井いつき先生より
数字は、特別な表現意図がない限り、漢数字にするのが定石です。「二」とすれば、人選です。
“参った”

鯛焼きや男子弾かれ女子襖

上村 風知草

夏井いつき先生より
「女子襖」とは、どういう状況なのでしょう。襖のように囲っているという比喩?
“参った”

餌箱へ来てはさつさと去る日雀

佐藤さらこ

夏井いつき先生より
「兼題写真の行列を見て、山荘のベランダに置いた餌箱に、日雀が順番待ちしている姿を思い出しました。餌箱の横に、少し離れてとびとびに並んでいる姿が愛らしいのですが、どうしても高野素十の句〈甘草の芽のとびとびのひとならび〉が頭をよぎります。そこで並んでいる句は一旦お預けにして、日雀が餌箱へ飛んできては、すぐに翔っていく様子を詠みました」と作者のコメント。

写生という意味においては、「~はさつさと去る」あたりの描写の精度をあげることはまだ出来そうです。
“良き”

鯛焼きや手土産温しはしご酒

芳山

夏井いつき先生より
〈鯛焼きや/手土産温し/はしご酒〉斜め線のところに意味の切れ目がある三段切れです。「や」切字、「温し」の終止形で切れています。この場合でしたら、「や」を「の」とでもすれば、三段切れは解消します。
“参った”