第61回「鯛焼屋の行列」《天》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

天
第61回
人事異動鯛焼はみな吾を見上げ
古乃池 糸歩
一読、テイクアウトされた「鯛焼」の箱を思い浮かべました。職場の誰かが、おやつがてらにと買ってきたものでしょうか。上司からの差し入れかもしれません。そんなタイミングで告げられたのが、あまりにも突然の「人事異動」。
あまり喜ばしい異動ではなかったのだろうなと想像したのですが、そう思わせる原因はなんだろう……と考えてみると、中七下五「鯛焼はみな吾を見上げ」という描写力に他なりません。
嗚呼、このタイミングでの異動とは! まさか、あそこへ異動? 意に添わぬ異動は、引っ越しを伴う左遷でしょうか。はたまた、社内での窓際部署への人事でしょうか。
唖然とする「吾」を、同じ顔をして見上げているのは「鯛焼」たち。その顔つきが、あたかも「吾」を小馬鹿にしているかのように見えたのか、ご愁傷様と気の毒がっているように思えたのか。
焼かれてしまった鯛焼も「吾」も、まな板の上の鯉のように抗いようがない。そんな悲哀がヒタヒタと伝わってきます。
似たような食べ物には、今川焼だとか、回転焼だとか、ちょっと具材が変わるけどたこ焼だとか、色々ありますが、顔があり眼があるという「鯛焼」ならでは味わいの句であることは言うまでもありません。


