写真de俳句の結果発表

第62回「バッテリースタンド」《ハシ坊と学ぼう!⑪》

ハシ坊 NEW

バッテリースタンド

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

スパートへ飲んで浴びるや冬尽くる

オアズマン

夏井いつき先生より
「マラソンのいつもの光景、この醍醐味もシーズンが終わると見ることが出来ない。残念!」と作者のコメント。

マラソンなのだということに、思い至り難いです。飲み放題の忘年会かと思いました。さて、どうする?
“ポイント”

寿ぎの落つ暖房のチューリップ

早霧ふう

夏井いつき先生より
第53回『火の山公園のチューリップ』〈会場の傾性ブーケチューリップ〉の推敲です。『暖房』と『チューリップ』の季重なりにすることで、チューリップが熱傾性で開くことを描けるかと思いました。ブーケが開いてがっかりした気持ちも込めました。句として成立すると嬉しいです」と作者のコメント。

「暖房」と「チューリップ」を取り合わせることが、ダメなわけではありません。暖房の効いた部屋に飾られているチューリップという光景は、実際にあり得ますからね。とはいえ、「寿ぎの落つ」の意味が解読しにくい。ご自身が表現したかったのが、「チューリップが熱傾性で開く」ことなのならば、そんなチューリップの様子を描写すべきでしょう。問題なのは、一句に「ブーケが開いてがっかりした気持ち」も一緒に入れてしまおうとしていることではないかと推測します。そこまでの情報を十七音に入れることは、言葉の質量として無理があります。二句に分けて、考えてみましょう。
“ポイント”

長き夜の蛸足ごときUSB

ゆきえ

夏井いつき先生より
語順が損です。例えば、「蛸足のごときUSB」を先にもってきて、残り三音の季語を取り合わせると、型として収まってきます。
“ポイント”

年惜しむやり遂げぬまま足りぬまま

しばのおはる

夏井いつき先生より
上五の季語+感慨。中七下五の心情には共感します。ただ、上五の季語「年惜しむ」の季語の成分も心情。映像が何もないのは、やはり俳句としては損です。
“ポイント”

大仏の胎内賽の音寒し

芝歩愛美

夏井いつき先生より
「地下街から大仏の胎内に発想を飛ばしました。昔、大仏の胎内で博打を行う事もあったそうです。(博打だけではなく逢瀬、浮浪者が焚き火をしてたそうです)」と作者のコメント。

「昔、大仏の胎内で博打を行う事もあったそうです」というところまでは、読み切れなかったのですが、この事実を知れば、このような書き方になってくるかと、納得はします。歴史的な知識を俳句にしようという意欲には、敬意を表したいと思います。とはいえ、俳句の筋肉をつけるという意味では、まずはご自分の体験を俳句にしていくという基本練習を推奨いたします。日々の記録のつもりで、俳句のタネをメモしていきましょう。
“ポイント”

レンタカー離るる指や鰯雲

福間薄緑

夏井いつき先生より
「『離れゆく指』や『指先』のバリエーションも検討した上で、ここに落ち着きました。自句自解は好かないので、このくらいにしました」と作者のコメント。

「レンタカー」から指が離れていく? ということが書きたいわけではないそうですね。誰かの指と自分の指でしょうか? 自分が表現したい内容が言葉で書かれているのか。「おウチde俳句くらぶ」の学びは、そこに重点をおいています。(自句自解ではなく)何を表現したかったのかを記していただけたら、それなりのアドバイスはできるかと思います。
“ポイント”

帰省路や喪服は壁に掛けたまま

折田巡

夏井いつき先生より
「バッテリースタンド→ガソリンスタンドからの、独身の頃の思い出です。祖母が亡くなり、校了明けの深夜、一人クルマを走らせていました。連日の寝不足がたたり、このままではきっと事故ると思いました。なのでサービスエリアで少し寝ようと。そのとき、クローゼットから出した喪服を、そのまま忘れてきたことに気づきました。戻れる距離ではありません。限界まできていた睡魔が一瞬で吹っ飛びました」と作者のコメント。

作者が書こうとしている内容に対して、調べがゆったりとしているのが少々損です。「睡魔が一瞬で吹っ飛びました」というその感じが、一句に出てくれば、ベストなのですが。
“ポイント”

丸子橋のおぼろなゐの日の家路

円海六花

夏井いつき先生より
「丸子橋は、東京の大田区と、神奈川の川崎を結ぶ多摩川に架かる橋です。 レンタルバッテリーが役立つのはどんな時かと考え、災害時が思い浮かびました。 この句は、実体験ではなく東日本大震災の日に、帰宅難民となった友人の話を元に作りました」と作者のコメント。

前半九音、後半八音、足して十七音の破調です。内容に対して、この破調はそれなりの効果は生んでいると判断できます。表記の点ですが、中七「おぼろな」と一瞬誤読してしまいました。季語は「朧」と表記したほうが佳いのではないでしょうか。それならば、人選にいただけます。
“ポイント”

バッテリースタンド横で着膨れて

ヒロヒ

夏井いつき先生より
「『着膨れて』は、もちろん、的場浩司さんの俳句〈職質をするもされるも着膨れて〉から引用しました。エネルギーを蓄電池内部に貯める様子から『着膨れ』を連想しました。あと、standing by a charging stand! から英語韻を想像しました。さらに、『で』と『れて』の音がよく似ている事に気付きました」と作者のコメント。

この場合は、「で」ではなく「に」とすれば、人選です。どういう違いがあるのか。「に」は、そこ(バッテリースタンドという場所)に存在しているという意味です。「で」は、そこ(バッテリースタンドという場所)で何かの動作をするという意味です。たぶんこの句は、バッテリースタンドの横に佇んでいるという句意でしょうから、「に」ではないかと推測します。
“難しい”

JAFを待つ路肩の先に秋の山

八一九

夏井いつき先生より
「~の先に」と説明しなくても、「JAFを待つ路肩」の後に意味上の切れを入れれば、その様子は自ずと読み手に伝わります。人選は目の前ですよ。
“ポイント”