第3回 俳句ラボ テーマ×季語で一句|皿 ×金魚①
俳句ラボへようこそ
皆さんようこそ、俳句ラボへ。
各回に提示されるテーマと季語の発想をかけ算して俳句を生み出す研究所です。
組み合わせからどんな化学反応が起こるかは、あなた次第。
さぁ、実験を始めましょう。
第3回のお題
はじめに
俳句ラボでは三つの観点から見て、それぞれの分野ごとに上位句の称号を贈ります。
題して、俳句ラボの三つのフラスコ。
最もテーマに優れた句に贈られるのが「輝けるテーマのフラスコ」。
最も季語を際立たせた句に贈られるのが「輝ける季語のフラスコ」。
そして最もわけのわかんない未知の展開を果たした句に贈られるのが「珍奇なる謎のフラスコ」。
毎回、それぞれのフラスコを一句以上選んでいこうと思います。
さぁ、それでは実験結果を見ていきましょう。
輝ける「皿」のフラスコ
水底の欠け皿の蔦金魚過ぐ
身の丈に合うか金魚に柿右衛門
「皿」をテーマに発想し、具体的な窯元や様式へと思考の指を伸ばしていきました。「柿右衛門」とは有田焼の色絵磁器様式の名前であり、その様式を創始・発展させた窯元「酒井田柿右衛門」一族の総称だそうです。欧州の王侯貴族の城館を飾った超格式高い日本磁器の代表格。「身の丈に合うか」ってお悩みが妙に生々しくて愉快でありますなあ。普通に読めば買うにあたって自問自答してる場面なのでしょうが、ひょっとしたら、金魚の身の丈に合うか、なんて読みもあり得るかもしれない? その場合は、家で大切にしてた柿右衛門が割れてしまって、その破片を金魚の水槽に入れてやるか、いやいや金魚に柿右衛門は贅沢では……なんて煩悶なのかもしれません。いずれにしても、赤の色使いが印象的な「柿右衛門」と「金魚」の取り合わせが相性良し。

紙皿に掬ふ金魚のフン長し
時々、千切れずに妙に長い状態のやつがあるんですよね。ちゃんとお世話する人はえらいなあ。掬ってすぐさまピッと捨てるんじゃなくて、わざわざ紙皿に載せてるあたり丁寧な暮らしって感じ。フンが長いと金魚の体調に問題がある場合もあるらしく、飼い主としての愛情でもあるのかなあ。びろ~んと横たわってる「フン」を描くことで、フンの載ってる紙皿を映像化しております。地味に効果的なのが下五の語順。「長し」で終えることで、「長いなあ」という感慨に軸足が乗っております。

給食はきらい金魚の尾のふわり
「皿」から想像を広げて、たどり着いたのが「給食」の場面。これ、給食苦手だった人間にはわかると思うんですけど、苦手を突き付けられてる時間ってすーごい苦痛なんですよね。当時は「給食残すな! 意地でも食え!」ってかなり強く言われてましたし。僕の時代はトレーも食器もアルミ製だったんだけど、あの軽薄な金属の手触りと向き合ってる時間が蘇ってくるようであります。逃避のように逸らした目線の先、悠々と泳ぐ金魚を無駄に見つめてみたりして。

金魚すいすい小鉢定食流行中
「小鉢定食流行中」、案外状況再現力のあるフレーズで面白いですねえ。一度に同じ物を大量に作っておけるのが定食システムの魅力だと思うんですが、それを何人も食べてる空間を想像させてくれるのが「流行中」の効果。お店の一角には店主が金魚を飼ってたりするのでしょう。常連さんがたくさんいる町の定食屋、って感じかなあ。あれ、なんだか今日は右を見ても左を見ても同じ「小鉢」を卓に載せてる人ばかり。じゃあ俺も同じものにしとくか……なんて思考に流れる人もいるんじゃないかしら。「皿」というテーマを際立たせるにあたって、一つの皿を丁寧に映像化したりするのではなく、数で印象付ける手もあるか、と膝を打った一句であります。

「皿」の試験管
手びねりで金魚は終の棲家かな
柑青夕理
金魚愛づ陶工の手の金襴手
百夏るみ
金魚ゆらりがめ煮盛られた飛び鉋
葛翁
金魚跳ね溢るる水や皿に満つ
雷坊
出目金の新居は青磁陶器市
山元残香
罅を継ぐ金や嫋やかなる琉金
海原夏帆
弔客のソーサー二つ金魚の目
つゐのひかる子
悠々と泳ぐ金魚や皿に鍵
渥美こぶこ
水盤へ移す和金の仮住まひ
沢田千賀子
膝の皿庇ふ暮らしの金魚かな
笑笑うさぎ
百年の青磁のみづに飼ふ金魚
東田 一鮎
金魚ゆうたり藍の絵柄の深鉢を
ほうちゃん
ボーンチャイナの手描き見本は黒出目金
ヨシキ浜
蘭鋳や青磁の皿に金を継ぐ
織部なつめ
皿でいいか婆にもらつた金魚だし
くるぽー
大皿や金魚に名前付け合ふ子
はなぶさあきら
姫皿で金魚を送つてやりませう
おりざ
取り皿の出目金水槽の金魚
舞矢愛
金魚金魚皿いっぱいの握り飯
日月見 大
泡皿の尾鰭透けたる金魚かな
めぐえっぐ
目止めして金魚を放つ粉引皿
萌黄多恵
金魚の死皿の欠片を墓碑とする
海里
古九谷の碧きさざなみ蘭鋳来
翡翠工房
古伊万里の皿のかけらに住む金魚
田原うた
黒甕の金魚の赤き町中華
薫空ろろ
家宝なる花鳥文皿出目金魚
霜川このみ
灰皿の溢るる独居金魚の尾
句々奈
《②に続く》


皿は皿でも欠けた皿。金魚の棲み処に沈めた物でしょうか。時々川とかに捨てられた陶器とかあったりするけど、この句では「金魚」ですからねえ。飼ってる人が意図的に沈めてるものだと思いたい。個人的には蔦状の水草を想像しました。「水底」の一語によって、水の厚みとその底で揺らめく光景を映像化していきます。欠けた皿と、その上で水の流れに揺蕩う蔦。中七できっちり切れを作って映像を完結させることで、皿を印象付けます。皿と蔦を掠めるように一瞬だけ過ぎ去る金魚のスピード感がアクセントのように効いております。