写真de俳句の結果発表

【第14回 写真de俳句】《地》

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

第十四回写真de俳句 地
サイゴンは驟雨出窓にミニボトル  居酒屋親父

「サイゴン」は、今のホーチミン市。ベトナムの最大の都市です。「驟雨」は夕立。いかにも南の国らしい激しい雨に出遭っているのです。

後半「出窓にミニボトル」の状況は、作者自身は外にいて、この出窓に目がいき、ミニボトルに気づく、と読みました。驟雨を避けるために飛び込んだ軒下、その店(あるいは家)のお洒落な出窓かもしれません。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

オオカミは死んじゃう絵本ホットワイン  なみこまち

上五中七「オオカミは死んじゃう絵本」ですから、赤ずきんちゃんの絵本でしょう。考えてみると、童話というのは結構残酷。赤ずきんちゃんを食べようとしたからとはいえ、オオカミはかなりひどい目にあって「死んじゃう」のです。

子どものために読んでいた絵本でしょうか。寝付いてくれた後は、大人の時間のホットワイン。血の色の赤ワインを想像してしまうのは、赤ずきんちゃんの名前のせいだけではなさそうです。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

夜学を辞めたウイスキー買ってみた  土取

学ぼうという意欲をもって通い始めた夜学。あっさり「夜学を辞めた」と書いていますが、そこには様々な事情やら苦い決断やらがあったはずです。

夜学に通っていた間は止めていたウイスキーでしょうか。夜学を辞めたという事実を己に突きつけるための、大人っぽい偽悪的な行為として初めて「ウイスキー買ってみた」のかもしれません。口語の呟きに強いリアリティが読み取れます。

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コースターの裏に番号ふゆのこと  絵十

コースターの裏に何かの番号が書かれているのです。電話番号でしょうか、部屋の番号でしょうか、はたまた犯罪の類? と想像だけはいかようにも広がるのですが、「ふゆのこと」という下五によって、一句は追憶の世界へと踏みだします。

ある冬の、恋にならなかった恋かもしれない。そんな印象を与えるのが、平仮名表記の効果かも。

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木の皿の虚ろへナッツ秋惜しむ  池内ときこ

兼題写真のウイスキーの小瓶から、その周りにあるに違いないものを思い浮かべたのですね。

木の皿の削られた窪みを「木の皿の虚ろ」と表現。ここに詩が生まれます。助詞「へ」は、方向を示しますので、まさに今、ナッツを木の皿へ移しているのです。木の皿とナッツのささやかな音も感じとれ、それら全てが下五「秋惜しむ」という季語に収斂していきます。

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カクテルは祖父の係や四方の春  かべちょろ

カクテルを作るのは祖父の係、というのですから、なんともお洒落な格調のあるご家族に違いないと思います。少なくとも、我が実家では、家族でカクテルを楽しむなんて習慣はありませんでしたもの。

カクテルが祖父の係ならば、祖母や父や母や兄弟姉妹たちは、どんなふうにこの「四方の春」を集っているのだろうと、想像は膨らむばかり。「四方の春」という難しい季語を、見事に使いこなしていることに感嘆いたします。

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草木零落す厳かにチェックメイト  小笹いのり

「草木零落す」は、七十二候の一つ。草木が枯れ落ちる頃をいう時候の季語です。九音もある長い季語に取り合わせたのが、チェスの場面です。

「チェックメイト」とは、相手のキングを王手詰めすること。これで勝負がつくぞという宣言でもあります。「厳かに」という言葉は、難しい季語と「チェックメイト」の場面を繋ぐ接着剤のような働きをしているのですね。

兼題写真から、チェスの場面を想像した句もありはしましたが、これがダントツの出来でした。

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詩の腐る間際をホットウイスキー  ギル

俳句という短詩は、敲いたり練ったりもするのですが、それをやっているうちに、自分が何を書きたかったのかを見失ってしまったり、変質していったりすることもあります。「詩の腐る間際」という感覚を感知できるのは、紛れもない俳人であり詩人であります。

そんな「間際」に手にしたホットウイスキーの温かさと、香り、味わいが、詩の腐敗を食い止めてくれたのか。はたまた、見事に腐り果てたのか。腐る間際の果実が最も美味しい、といいますが……。

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冬のウヰスキーと王の髭は多弁  トウ甘藻

「王の髭は多弁」は、様々なイメージを与えてくれる措辞です。世界の様々な国に君臨してきた様々な王への皮肉を込めた、寓意のようにも読めますし、ブラックニッカのラベルの髭の男を思わせもします。

ちなみに、ブラックニッカの髭の人物は、19世紀英国のW・P・ローリー卿。ウイスキーブレンドの名人であったため「キング・オブ・ブレンダーズ」つまり、ブレンドの王様と呼ばれていたのだそうです。

どちらの読みをとるにしても、「冬」という季語はどっしりと座っていて、動きがたい貫禄を示しています。

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俺に似た荒星よ名は調べない  背番号7

「荒星」は冷たい風の中で、荒々しい輝きを放つ冬の星です。そんな荒星が俺に似ていると感じる作者の尖った孤独。

いや、荒星という仲間がいるではないかと自分を慰めつつも、「名は調べない」と突き放します。痛いほどの寒さに感応するかのように輝く荒星。その矜持めいたものが、「俺」の精神の支えなのかもしれません。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき