第12回 俳句deしりとり〈序〉|「よい」①

始めに
皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。


第12回の出題
兼題俳句
無欠なるおしやべりな指月今宵 板柿せっか
兼題俳句の最後の二音「よい」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「よい」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
余市町モルトの香する若葉風
おこそとの
「よい」から始まる単語をまずは探してみる! しりとりのセオリーといえましょう。単語を探すなかで地名に辿り着いたわけですね。「余市町」は北海道西部にある町。良い地名を見つけてきたなあと思いきや、同じく「余市」に辿り着いた人は他にもおりまして……
余市産シングルモルト買ふ寒夜
あみま
余市町竹鶴のホットウィスキー
吉村吉々
余市発冬夕焼のウイスキー
伊藤 柚良
これだけ「モルト」やら「ウィスキー」やら出てくるなら間違いなく、お酒の生産地なのでしょうね? 調べてみると、余市町はかのニッカウヰスキーの第一蒸留所が建設された土地なのだそうです。公式webサイトによりますと「2022年2月、キルン塔(第一乾燥塔)をはじめとする複数の施設が、日本のウイスキー産業発展におけるかけがえのない歴史的資産として認められ、重要文化財に指定」されたとのこと。ほほ~う、それだけ格式のある土地と産業を念頭に置いて読むと、どの句もお酒が美味しそうに薫ってきますなあ。


「余市」注ぐ成人の日の静寂かな
山口鵙
なかでもこちらは聴覚によって「余市」のある場面を語ってくれているのが魅力的。僕自身はそんなにお酒を嗜む方ではないけれど、注ぎ口から「コッコッコッ」と小さな音をたてながらお酒が出ていく瞬間はとても好きです。気持ち良い音だよねえ。成人の祝いに初めて酌み交わす親子の万感でありましょうか。


酔ひて白湯温め直す冬の月
きたくま
「よい」の二音からストレートに「酔い」を発想した人も多かったですね。見るも無惨などろどろの二日酔いに陥ってるような句もちらほら届いておりましたが、《きたくま》さんの酔い方は綺麗じゃありませんか。酔い覚ましのためか、あるいはお湯割りの準備でしょうか。こぽこぽ湯を沸かす時間が上五中七で展開されたあとに「冬の月」が出てくる語順もいいですね。冬の夜気の冷たさが、酔いに火照る体と白湯の温かさと対比されて鮮やかです。


酔い覚ましのプリンかちやかちやオリオンと
西川由野
「酔い」から状態は移り変わり「酔い覚まし」へと。なんかちょっと甘い物食べたくなったりしますよね。「オリオン」の下で、プリンかちゃかちゃ食べてるのが妙に臨場感があります。帰り道のコンビニとかで買ってそのまま食べてる?


酔い覚めのバターラーメン雪の街
孤寂
酔い覚めのベッドの脇のトマトかな
典典
「酔い覚まし」と「酔い覚め」だと微妙に状況の違いが想像できて興味深い。前者はまだ酔いの渦中にあるのを覚ませようとするのに対し、後者は酔いという状況から抜け出たあとの行動と読み取れます。《孤寂》さんの「バターラーメン」はやたら美味そうでお腹が空きますねえ。「雪の町」っていうくらいだし北海道かしら。こってりあったかなラーメンをいきなり胃に入れられるあたり、若いなあ! 一方、《典典》さんの「トマト」はフレッシュな酸味が効いております。ベッド脇に置いてる準備の良さが「わかってる感」すごい。「トマトかな」と詠嘆してしまうほどに染み渡る水分と生気。


酔い覚めの水の静謐冬の月
ふゆき
酔い覚めの水旨しとや冬信濃
浜千鳥
酔い覚めや蛇口より飲む冬の朝
西村小市
酔い覚めの最大の味方といえばなんといっても「水」。この世で一番おいしいんじゃないかとすら思いますね、ええ。《ふゆき》さんと《浜千鳥》さんはより直接的に「水」に言及しているのに対し、《西村小市》さんは「蛇口」によって水を連想させています。酔いの場数が違うんでい、と言わんばかりに蛇口にかぶりついてる迫力たるや。いずれの句も「冬」が水の冷たさと美味さを引き立てます。


酔い覚ましの水や遅日のキミは誰
佐藤儒艮
酔い覚めて此処はどこなの春隣
りぷさりす園芸店
お酒が楽しいのは結構だけれども、こんな事態に陥るのはなかなかどうして困ったものです。酔い覚ましの水飲みに起き上がって知らない人が部屋にいたら怖い! なにをやらかしてこうなったのだ、酔ってた自分!! 《りぷさりす園芸店》さんの状況は深刻さこそ薄いものの、再現性が高そうで苦笑い。酔ったまま電車に乗ったら、うっかり終着点まで行ってしまった……なんて本当に起きそうで困っちゃう。酒は飲んでも吞まれるな!


酔いどれの馬帰りゆく雪しまく
秋結
お酒による酔いシリーズのなかでは珍しい切り口です。馬にもお酒を飲ませるの?? 調べてみたところ、熊本の「馬追い祭り(藤崎八幡宮例大祭・神幸式)」では馬にお酒を飲ませると情報が出てきました。馬を興奮させるために飲ませるのだとか。しかし熊本は日本の中でも雪が少ない地域ですから、「雪しまく」と合わせて考えると馬追い祭の可能性は低そうですね。畜産関係でいえば、牛を飼育する際にビールを飲ませる場合があるようですが、牛と馬では話しが違うし、帰らせる馬に酔っ払うほど酒を飲ませるのだって変。う~ん……そうだ、「酔いどれ」なのは馬ではなく、乗ってる人間かもしれないぞ。そう考えると「帰りゆく」にも納得できます。酔いどれの旦那さんを乗せてぽっくりぽっくり歩む馬。江戸時代みたいな空気感ですねえ。


酔い深き王のベッドに冬の月
どこにでもいる田中
こちらも現代ではなく、中世の王宮のような世界観。あるいはシェイクスピアの劇の一節なんかに登場しそうな趣がありますなあ。したたかに酔い眠ってしまった王の枕元に静かに滑り寄る影……その手には短刀が!! みたいなサスペンス展開。仰々しく描こうとするのではなく「王のベッドに」と淡々と位置情報を述べてから、下五「冬の月」の取り合わせへ展開するバランス感覚が上手いです。冷たい月光が寝室に投げかける光と影のモノクロームな世界。
〈②へ続く〉

