写真de俳句の結果発表

第34回「ホーチミンの市場」《天》

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

ホーチミンの市場

34

 

スコール来て手持無沙汰のアジアかな

丹波らる

 

いきなりスコールが降り出します。まさにバケツをひっくり返したような烈しい雨です。

人々は慌てて建物の軒に駆け込みます。お客を乗せたトゥクトゥクが路面の雨を弾きながら走り去っていきます。果物や穀物、魚や肉を売る露店は、濡れそうなものをテントの下に移します。

そんな騒ぎが一段落すると、誰もみな降る雨をぼんやりと眺め始めます。スコールが止んでくれるまでは何のしようもないのですから、誰もが「手持ち無沙汰」な表情で「手持ち無沙汰」な時間を過ごすのです。

「スコール」が季語かどうか、という議論はあるかと思いますが、この一句を読んだとたん、読者のほとんどが同じような映像を想像し、同じような心情を共有するはず。だとすれば、「スコール」は季語となり得るだけの、最大公約数の共通理解を手に入れ始めているのではないかと思われます。

今回「スコール」の句も沢山寄せられましたが、「手持ち無沙汰のアジアかな」という思い切った把握は、コロンブスの卵のような展開です。上五を「~来て」と一音余らせ、下五を「~かな」と詠嘆。ここら辺りのささやかな時間表現も巧いものです。

「スコール」を夏の季語として使うという意思をもってこそ生まれた作品です。

“夏井いつき”