始めに
皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第18回の出題
兼題俳句
衣擦れのうらら三年振りの寄席 やぎみか
兼題俳句の最後の二音「よせ」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「よせ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
兼題俳句
衣擦れのうらら三年振りの寄席 やぎみか
兼題俳句の最後の二音「よせ」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「よせ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
ストレートに出題句から「寄席」を頂いてきました。実は僕も寄席って行ったことないんですよね。「老いし春」がのどかな寂しさ。
行ったことないなりにイメージする寄席の姿ってこんな感じ。「カンカン帽」が小粋な常連の男性を思わせますなあ。夏の陽射しを防ぐためにこの手は頭へと動いていくに違いない。
言葉のくねくねっとしたかわし方が玄人の味わい。上五中七「~父」まで読むとお父さんについて語っているかのようなのですが、下五でどっこい母でした! という種明かし。季語である「父の日」の途中で中七を迎えるとは、よく考えたなあ。寄席の飄々とした印象を活かしつつ、楽しそうな母の表情が見えてきます。
よせごやにおしろいのにおいあきどなり……だと音数が合わないな? と調べてみると、「白粉」で「はふに」と読むそうです。米の粉でつくったおしろいなのだとか。へー、嗅いだことないけど普通の匂いとはどう違うんだろう。にじんだ汗が引いていくかのような「秋隣」の季感に品のある色気があります。
とりどりの花が集まった「寄せ植え」が色彩的にも心理的にも明るい《大本千恵子》さん。《猫の前髪》さんは花を育てるだけでなく、伸びたミントをちょっと摘んでソーダ水の彩りに。お洒落で快活で明るい。寄せ植えにはこういう明るいイメージが共通する……かと思いきや、その限りでもないようで。
どこか寂しく暗い句も。尾崎放哉の「咳をしても一人」という有名な自由律俳句もありますが、こちらはより実際の生活に根ざしています。こういう環境本当に世の中にあるもんなあ……義実家とうまくいかないとか、夫婦仲の理想と現実とか……。寄せ植えに心慰められつつも、ちくちくの仙人掌は寄り添ってくれるわけでもなく。
こちらは寂しいだけに限らない読みの幅があります。「捨てて」がマイナスのイメージを持たせつつも、下五への展開は前向き。たしかに子育てしてると、学校から持って帰った鉢植えを処分したりとかするもんね。子どもと生きていくってそういうことだよ、みたいな人生の1ページへの率直な受け止めかもしれない。そう考えると、「パンジー」の春の季感にも納得が生まれます。
出題の「寄席」から「寄」の字で始まる単語を選んだ人は多かったです。寄せ書きは卒業式などで目にすることもある身近な素材でありましょう。《加賀屋斗的》さんは寄せ書きのできあがった様を愉快に描写してくれています。中七の表情のつけかたが上手い。一方、《由樺楽》さんの句は読みの幅があります。《加賀屋斗的》さんのように寄せ書きの筆跡から人柄を感じているのか、あるいはもらった寄せ書きの内容からその人の人柄が察せられるという意味か。卒業の頃の花の門で渡される「寄せ書き」。
「卒業」に対して「寄せ書き」は類想といえる……のですが、「蟻の絵」が謎。なぜ蟻の絵? 好きなの?? 可愛いから描いたの??? 最後の「トイレ」の着地が少し不穏でもあります。いじめとかで描かれてるんじゃないといいなあ……。
淡々と語る潔さが個人的にはとても好感度が高いです《みづちみわ》さん(笑)。別に寄せ書きが来ようが来るまいが卒業だもーん、みたいな。友達がいなくても平気な人間にとっては「卒業」もあまり大したイベントではなかったりするのです。それが真実か、強がりで言っているだけかは皆さんの想像にオマカセシマス。
動詞「寄せる」がストレートな使い方。夜の高い波が砕ける瞬間を写真に収めたような映像。下五に季語を置くことで「月光」がきらきらと印象づけられます。
同じく波が寄せているんだけど、こちらは映像ではなくリズムと音が主役。全部で十九音と少し音数は多くなっていますが、波が来たるべき秋を呼び起こそうとしているかのような詩の感覚には共感を覚えます。不思議な感覚と字余りとが似合うと判断するか、十七音に収まるよう音数を調整するかは悩むところではありますが。
方々からいらない家具をもらってきて、いよいよ新生活の始まる「新居」。ああなんと春のうららかな気持ちよさよ! 「新居の家具」の映像から心理への展開が上手いですねえ。統一感のない「寄せあつめ」だからこそ湧いてくる嬉しい愛着。
次に寄せ集められてきたのは「ボトル」。ボトルシップを作ってるのかなあ。形も色もさまざまな寄せ集めのボトルの内側で小さな船が組み上げられていく様子は実に楽しげ。風をはらんだ帆の形まで完成した船は「咲く」というに相応しい喜びの姿。時の経つのも忘れるであろう熱中と楽しみの「短夜」であります。
釣り、もう何年もやってないなあ。魚たちが集まってくるように海に撒き餌をするんですが、まさにこんな感じで綺麗なのです。「はらはら」が撒き餌のほぐれていく様とそれをつつきに来る鯵のきらめきが見えてきますなあ。……が、どうも一部の地域では撒き餌を禁止しているそうです。えー、そうだったの!? 釣りの際には周辺の条例その他ご確認をお忘れなく!
将棋には詳しくないのですが「藤井聡太」「対局室」からして「寄せ手」・「寄せ」は将棋の技術? 展開? の一種なのでしょうねえ。調べてみると、相手の王将を詰ませるための有効な準備・手順を意味するようです。ほうほう。意味がわかると《葦屋蛙城》さんの「寄せ速し」は迫力がありますね。気づいた時には逃げられなくなってそう。「蛾の微動」が妙にリアルで不思議な取り合わせ。
様々なモノを寄せ集めて別の形を描くのが「寄せ絵」。イタリアの画家ジュゼッペ・アルチンボルドや日本の浮世絵師歌川国芳の作品が有名です。前者の作品には野菜や花などの植物を組み合わせて描かれた「貴族」風の寄せ絵もありますから、これがモデルかなあ。意外と地味な色合いの作品が多く、その辺が「秋の風」との取り合わせの接点かしら。
寄木細工で作られた箱のことかなと。秘密箱とも呼びますが「寄木箱」とも呼ぶのかな? 特定の手順で動かさないと開かないため、中に隠しておきたいものをしまったりする箱です。「疼く芯」は詩のある把握。開けようとする者の心理かもしれないし、単純な事実としての表現かもしれないし、秘密を抱えている寄木箱の視点に立った擬人化かもしれない。いずれの読みでも不吉に赤めく「旱星」が象徴的に効いてます。
《②へ続く》