俳句deしりとりの結果発表

第18回 俳句deしりとり〈序〉|「よせ」②

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、①に引き続きご紹介してまいりましょう!
“良き”

第18回の出題

兼題俳句

衣擦れのうらら三年振りの寄席  やぎみか

兼題俳句の最後の二音「よせ」の音で始まる俳句を作りましょう。

 

※「よせ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

四畝の庭右へ左へ花吹雪

青井季節

四畝? これで「よせ」と読むの? 調べると「畝(せ)」は一反の十分の一を示す農業用語だそうです。メートル法では約1アール。ははあ、アールなら習いましたわね! 「右へ左へ花吹雪」とはまたやたらと威勢良く吹き荒れておりますなあ。
“とてもいい“

余勢駆りもう一千歩初夏の風

飯島寛堂

余勢とは文字通り余った勢い。なにかをやり遂げてはずみのついた勢いでもあります。「余勢を駆る」という言い方自体が慣用句のような使い方もするようですね。「もう一千歩」は健康のためのウォーキングとかかなあ。「初夏の風」が爽快な達成感。
“ポイント”

ヨセナミウミウシモルディブは白雨

天雅

ウムム、なにやら長々とカタカナが。「ヨセナミウミウシ」? モルディブにいるの? 調べてみると生息分布はインド洋、西太平洋、中部太平洋と出てきました。モルディブで観察された例もあるみたい。全体的にでこぼこした見た目だけど、変化に富んだ体色や触角の白点などが好きな人にはグッと心に刺さりそうです。「白雨」は夕立の傍題。白く煙る海の下ではヨセナミウミウシは安穏と過ごしているのかしら。

“とてもいい“

ヨセミテの渓谷春休みのパンフ

じゅあ

ヨセミテへと半分崩すかき氷

秋紫

ヨセミテのシダーウッドの香の夏へ

陶瑶

ヨセミテの一枚岩や秋を待つ

鈴なり

ヨセミテの寒月コヨーテが近い

浅海あさり

ヨセミテの巨木の秘密夏休み

栗の坊楚材

ヨセミテの色なき風を月の水

絵夢衷子

ヨセミテ渓谷を炎帝の足跡

ぷるうと

知らない単語、特に知らない地名が出てきた場合、複数の句を並べてみることでその場所への解像度が上がってくれます。アメリカ合衆国・カリフォルニア州にあるヨセミテ国立公園、行ってみたいなあ。調べてみるとセコイアの巨木や一枚岩エル・キャピタン、ヨセミテ・バレーなど、見所情報が次々に出てきます。自然に溢れたところ大好き! 《秋紫》さんの期待を胸にしつつ、さらっと移動中の手元を描いてる「かき氷」もいいなあ。
“ポイント”

ヨセフならいかに茉莉花へと触れん

葉村直

不思議な魅力のある句です。中七下五は「どのように茉莉花へ触れるだろうか」と推量しているわけですが、はたしてこの「ヨセフ」は何者か? たとえば聖書には何人かのヨセフが登場していますが、そのうちの一人にはこういった説話があるのだろうか……。有識者、教えてくれー!
“ポイント”

Yo! sayのコスすら夏よおるおつけ

宇治 鴇眞

YO!SAY夏が♪をリフレイン帰路暑し

糸圭しけ

「ヨセフ」の正体がわからずに苦悩している一方で、この句を瞬時にわかってしまえる自分がトホホである。T.M.Revolutionだろ!? すげえよな、あの衣装!!
“とてもいい“

よせやいと戯けてみせた日の盛

村先ときの介

よせやい、とほんとうにいう父の秋

田季たまき

よせやい」と煙管かんかん夕涼み

古乃池 糸歩

静止の「よせ」。口に出してみると「よせ」は強い命令形の響きがあります。が、「よせやい」になると途端にじゃれてるような可愛さが生まれます。並んだ三句は少年から老人まで、それぞれの時代を生きた人物の姿が見えるようでありますなあ。
なお、国語的には「よせやい」は動詞・命令形の「よせ」に終助詞の「やい」がついた形になります。辞書によると「同輩もしくは目下の者に対し軽く命令したり、さげすみはやしたりするときにそえる語」と解説されています。軽い命令はともかく、さげすみは意外だなあ。泣き虫やーい、みたいな場面なら該当するのか。

“ポイント”

よせよせと麦酒澄みゆくまで諭す

ミンコフスキー

二度繰り返す「よせよせ」はどんなニュアンスなんだろう。強く引き留めようとしているのか、笑い話のようにたしなめているのか。注いだ麦酒の泡が落ち着いて澄んでいくまでの時間を諭している関係性が尊い。人によっては年中飲む麦酒だけど、ここはしっかり夏の季感で読みたいですね。じりじりと暑いなか、それでも麦酒に手をつけずに諭しているなら諭す眼差しはきっと真剣そのものなのでありましょう。
“ポイント”

予選敗退レモンスカッシュが痛い

ノセミコ

予選敗退一気飲みするラムネ

ユリノキ

飲み物つながりでこちらの二句。みんな刺激物を一気に飲む時ってのは負けた時なんですよ。悲しみや悔しさを炭酸で紛らわすのも一種のカタルシスなんでしょうかねえ。

人生において「予選」を経験したことのある方が多いためか、予選ネタは多数届いておりました。

“とてもいい“

予選落ちグリップの汗乾きゆく

梅田三五

予選落ち弓具磨いて星涼し

美湖

敗退は「予選落ち」とも言い換えられます。《梅田三五》さんは呆然と項垂れる悔しさ。テニスのグリップとかかなあ。野球のバットのグリップの可能性もあるか? 読みが絞りきれないのが少し勿体ない。一方、《美湖》さんは「弓具」の一語でスポーツの種類がほぼ絞り切れます。武具に感謝し手入れする丁寧さが次の研鑽へと続く道でありましょう。取り合わせの「星涼し」が達観した静けさ。
“とてもいい“

予選からどよめく俳句甲子園

横山雑煮

予選から汗だく俳句甲子園

比良山

2023年8月19日、20日は愛媛県松山市で第26回俳句甲子園が開催されました。さっそく句材にしてくれてありがとね! YouTubeでも20日の大会映像が観られます。高校生の熱い涙は必見ですぞ! 僕も総合司会として登場しております。未見の方はぜひ!(宣伝)
“ポイント”

予選初戦五点失点して炎天

芦幸

「ん」の音で韻を踏むことに全てをかけた一句。それでいてちゃんと意味が通っている頑張りは褒めたい! 仮に「炎天」ではなく「炎暑」などにすれば中七下五で七五の韻律を取り戻すことはできたでしょうが、あえてそうはしなかったのでしょうねえ。遮るもののない炎天の下で厳しい勝負は始まってしまっているのです。
“ポイント”

余生とはくづしてよりの冷奴

板柿せっか

余生とは歳時記の奥月見草

ヒマラヤで平謝り

類型として完成度の高い二句。「○○とは××である」と述べるタイプの作り方ですが、これも一種の型といえます。○○の部分には抽象的な概念が入ることが多いのですが、映像を持たない概念であると、なおさら中七下五でバランスを取るのが難しい。その点、《板柿せっか》さんは、小さく摘まんでは口に溶かす冷奴の味覚という高いリアリティで「余生」を定義してくれています。片や《ヒマラヤで平謝り》さんは、「余生とは歳時記の奥である」と中七で謎めいた断定をして切れを作る独特の展開を見せます。下五「月見草」へと言葉が展開していくと同時に、歳時記に、ひいては俳句に出会って彩り豊かに万物を再発見していく「余生」であるか、と謎が腹に落ちるわけです。その楽しみは「歳時記の奥」から自ら掴み出したもの。良い生き方してるなあ~と思わずにっこり嬉しくなってしまいましたワ。
“ポイント”
第20回の出題として選んだ句はこちら。

第20回の出題

寄箸のをとこと別れラ・フランス

赤坂 みずか

食器をお箸で手元に引き寄せる「寄箸」はマナー違反とされています。今回の男は顔も仕事も申し分ない、そろそろ身を落ち着けるか……と考えていたのに、食事のマナーがなっとらん! 寄箸するようなやつとは付き合っていられるか! なんて決別の一場面が演じられていたりしたのでしょうかねえ。「ラ・フランス」は上品な作者の気骨のようでもあり、少し勿体なく心にぬめるようでもあり。

ということで、最後の二音は「んす」でございます。
嗚呼、難しいぞ「ん」から始まるしりとり!

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう!
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!
 

“とてもいい“