俳句deしりとりの結果発表

第20回 俳句deしりとり〈序〉|「んす」②

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、①に引き続きご紹介してまいりましょう。
“良き”

第20回の出題

兼題俳句

寄箸のをとこと別れラ・フランス  赤坂 みずか

兼題俳句の最後の二音「んす」の音で始まる俳句を作りましょう。

 

※「んす」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

ンス」選ぶドSな選者ヒヤシンス

あみま

」「」と言葉のむ正人氏畦青む

朝野あん

兼題を選んだワタクシへのおたより(呪詛?)もいくつか。いや、ほらね? 《赤坂みずか》さんの句が良い句だったからさ……必然的に、ね……?
“ポイント”

んすの語尾あまやかにして菊の酒

卯年のふみ

んすと吸ふ廓詞の糸瓜水

小山美珠

「ありんす」とかのやつですね。時代劇などで描かれる遊郭の言葉として認識していますが、正しくは「廓詞」と呼ぶのですねえ。《卯年のふみ》さんは「菊の酒」と相まって小粋であります。《小山美珠》さんは動詞「吸ふ」が少し読みを惑わせます。「んす」が言葉ではなく擬音の表現なのかな? と。わざわざ「廓詞の」と中七が続くことを考えると、語尾を言い切ってすぐ「糸瓜水」に口をつけてる状況でありましょうか。
“とてもいい“

んすがんすおくにことばのあきのこえ

一 富丸

語尾につく「んす」といえば「がんす」もありますねえ。こちらは廓詞とはまた違って、田舎の言葉として漫画や映画で観た記憶がありますが、実際はどうなんだろう。昔のドラえもんの映画では熊ががんす言葉で喋ってたんだよなあ。調べてみると諸説ありますが「がんす」は敬語「ございます」の変化したものと考えられているようですね。明治大正の頃は「おはよがんす」「おばんでがんす」といった形で使われていた、と解説も出てきました。地域的には広島や岩手・盛岡などでも方言として使用例があるみたい。ほほう、岩手の冷涼さを考えると「あきのこえ」が似合ってくる気がしますねえ。
“ポイント”

「…んす」「…んす」と訛る岩手よ盆の月

伊藤 恵美

おお、岩手から実践例が届いているっ! 中七「~岩手よ」の軽い詠嘆に郷土への愛が滲みますなあ。「盆の月」が盂蘭盆に集まる人々の数やシルエット、交される言葉の量を思わせます。季語がもたらしてくれる情報量が良いバランス。

“とてもいい“

んす!あざす!」球児へラムネ六ダース

蜘蛛野澄香

んす」といふ寮の挨拶闇夜汁

清水縞午

んす」と息白くて隣の青年は

だいやま

方言として成立したもの以外にも、こんな形で「んす」と発される言葉もありました。「おす」や「うす」が「んす」になっていくの、わかるなあ。年頃の男子ってこんな感じなんですよ、うんうん。特に蜘蛛野澄香さんの句は句材の足し方が的確で、臨場感が強く補強されます。「球児」の勢いと人数、「ラムネ六ダース」の物量と瓶ががちゃつく音。賑やかな青春時代を周囲の大人達はこんな目線で眺めているのだなあ、と眩しみます。
“ポイント”

「……ンストラーイク バッターアウト!」夏終る

明後日めぐみ

野球の場面が続きます。球審の叫び声で聞いたことあるある、こういうの。「夏終る」が取り合わせとしてはストレートすぎるかなあ。ああ、今年も全国で何百人の生徒が惜敗の涙を流すやら。
“ポイント”

んすか!食べるんすか?カマキリを

葉山さくら

ひえっ……。いや、昆虫食の是非は別にしても、カマキリってたしか寄生虫がいたりしますよね? ハリガネムシとかさ……。食べるとどうなっちゃうの? 人間に乗り移ったりするのかな? うわー、怖い怖い! 考えんとこ!
“とてもいい“

んすんで」と二歳の紙縒り星祭

紫すみれ

舌足らずの結果、言葉が変化して「んす」が生まれてきたケース。「むすんで」って言いにくいもんね。描写と季語が互いに噛み合うことで、願い事を書いた短冊を差し出す映像が読み手の脳に描き出されます。

“ポイント”

ンスとソヌ練習帳に書く夜長

江口朔太郎

小さい頃ってカタカナの書き分けも苦労するよなあ、としみじみ。ンとソ、どっちも同じようなもんじゃろがい! みたいな気分になったもんですよ、ええ。「文字が似てる」発想自体は普遍的な類想といえるかもしれませんが、一文字だけでの比較ではなく「ンス」「ソヌ」と二文字セットにした工夫が勝利のカギ。長い秋の夜に文字のおけいこの鉛筆が動く音が続きます。
“ポイント”

ンスラフ・ラ逆読み文化ようなし

るはちか

んすつれのあぴ」ことばパズルと熱帯夜

てんむす

ンスルコニ」トラックの文字夏の雲

香月悠

ンスッレの旧き看板芋嵐

星埜黴円

ンスの字の西日に褪せしタンス店

もりたきみ

看板などの文字から発見したパターン。見比べてみると興味深いですね。回文のように逆から読んで「んす」を見つけるわけですが、作品として成立させるにあたってはバランス感覚が求められます。難解すぎてもダメだし、分かりやすすぎても物足りない、と感じてしまうのは普段から取り合わせの感覚と親しんでいる俳人の性でありましょうか。個人的には《星埜黴円》さんの句くらいが一番バランス良く感じますねえ。「ンスッレ」ってなんじゃ? と思わせつつすぐに理解できる程度の回文。上五中七までの古びた映像。寂れつつある田舎町を思わせる地味な「芋嵐」。さすがのバランシングです。

“とてもいい“

んす◯すん◯の会な花烏賊の◯んす◯すん◯(・ンス・スン・ノカイナハナイカノ・ンス・スン・)

沢拓庵

完全に回文に振り切った胆力はすごい! すごいが! まるで意味がわからない!!(笑)
“とてもいい“

んすでねえそこさかがすのいだんだど(嘘じゃないそこに案山子がいたんだぞ)    

となりの天然水

これも括弧で読み方書いてもらってないと解読に時間かかるタイプの句。「嘘」が「んす」に訛るの? どこの方言なんだろう。あるいは年代的なものもあるのかしら。そして肝心の季語である「案山子(かがす)」はいったいどこに消えてしまったのだ!?

《③に続く》

“とてもいい“