第20回 俳句deしりとり〈序〉|「んす」②

始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、①に引き続きご紹介してまいりましょう。


第20回の出題
兼題俳句
寄箸のをとこと別れラ・フランス 赤坂 みずか
兼題俳句の最後の二音「んす」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「んす」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
「ンス」選ぶドSな選者ヒヤシンス
あみま
「ん」「す」と言葉のむ正人氏畦青む
朝野あん


んすの語尾あまやかにして菊の酒
卯年のふみ
んすと吸ふ廓詞の糸瓜水
小山美珠


んすがんすおくにことばのあきのこえ
一 富丸


「…んす」「…んす」と訛る岩手よ盆の月
伊藤 恵美
おお、岩手から実践例が届いているっ! 中七「~岩手よ」の軽い詠嘆に郷土への愛が滲みますなあ。「盆の月」が盂蘭盆に集まる人々の数やシルエット、交される言葉の量を思わせます。季語がもたらしてくれる情報量が良いバランス。


「んす!あざす!」球児へラムネ六ダース
蜘蛛野澄香
「んす」といふ寮の挨拶闇夜汁
清水縞午
「んす」と息白くて隣の青年は
だいやま


「……ンストラーイク バッターアウト!」夏終る
明後日めぐみ


んすか!食べるんすか?カマキリを
葉山さくら


「んすんで」と二歳の紙縒り星祭
紫すみれ
舌足らずの結果、言葉が変化して「んす」が生まれてきたケース。「むすんで」って言いにくいもんね。描写と季語が互いに噛み合うことで、願い事を書いた短冊を差し出す映像が読み手の脳に描き出されます。


ンスとソヌ練習帳に書く夜長
江口朔太郎


ンスラフ・ラ逆読み文化ようなし
るはちか
「んすつれのあぴ」ことばパズルと熱帯夜
てんむす
「ンスルコニ」トラックの文字夏の雲
香月悠
ンスッレの旧き看板芋嵐
星埜黴円
ンスの字の西日に褪せしタンス店
もりたきみ
看板などの文字から発見したパターン。見比べてみると興味深いですね。回文のように逆から読んで「んす」を見つけるわけですが、作品として成立させるにあたってはバランス感覚が求められます。難解すぎてもダメだし、分かりやすすぎても物足りない、と感じてしまうのは普段から取り合わせの感覚と親しんでいる俳人の性でありましょうか。個人的には《星埜黴円》さんの句くらいが一番バランス良く感じますねえ。「ンスッレ」ってなんじゃ? と思わせつつすぐに理解できる程度の回文。上五中七までの古びた映像。寂れつつある田舎町を思わせる地味な「芋嵐」。さすがのバランシングです。


◯んす◯すん◯の会な花烏賊の◯んす◯すん◯(・ンス・スン・ノカイナハナイカノ・ンス・スン・)
沢拓庵


んすでねえそこさかがすのいだんだど(嘘じゃないそこに案山子がいたんだぞ)
となりの天然水
これも括弧で読み方書いてもらってないと解読に時間かかるタイプの句。「嘘」が「んす」に訛るの? どこの方言なんだろう。あるいは年代的なものもあるのかしら。そして肝心の季語である「案山子(かがす)」はいったいどこに消えてしまったのだ!?
《③に続く》

