俳句deしりとりの結果発表

第20回 俳句deしりとり〈序〉|「んす」③

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、②に引き続きご紹介してまいりましょう。
“良き”

第20回の出題

兼題俳句

寄箸のをとこと別れラ・フランス  赤坂 みずか

兼題俳句の最後の二音「んす」の音で始まる俳句を作りましょう。

 

※「んす」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

んすなあ」と「産土」なまる敬老日

幸水

「嘘」が「んす」になった例もあれば、「産土(うぶすな)」が「んすなあ」になった例も。日本語の変化っぷりが面白い。Bの音が完全になくなってますね。「敬老日」が取り合わされるとなると、高齢者だからこその古い言い回しってことかしら。うーん、日本は広いなあ。
“とてもいい“

んすら寒ぃちょっきコいぢまい着てぐべが

のさら子

んすんすはきづいでだども熟れ石榴

時乃 優雅

んすかわ饅頭を姉と秋惜しむ

骨のほーの

んすべにの君さ好ぎだす蛍草

留辺蘂子

んす暗き昼夕べの鮟鱇鍋

骨の熊猫

んすういとレモンソーダちびちびと

鞠居

んすっぺれえ奴だな新巻鮭へ出刃

髙田祥聖

その他にも日本語の発音が変化して「んす」になった例は届いておりました。その中でも数が多かったのは「薄」が「んす」になったケース。明確にどこかの地方の方言として扱われているという情報にはたどり着けなかったのですが、理解はしやすいですね。「う」と「ん」を自分の口で発音して比べてみると、後者の方が口をはっきり開けずに発音されている印象。のさら子さんや時乃 優雅さんの方言チックな句は口を大きく開けずに発音する地方を連想した結果でしょうかねえ。

あるいは「薄い」を乱暴な言い方をした時に「んすい」になるのも、実際に発音してみると納得できます。《鞠居》さんの軽い調子の「んすうい」や、《髙田祥聖》さんの吐き捨てるような「んすっぺれえ奴」、自分で声の調子を変えながら発音してみるのも楽しい実験。「新巻鮭へ出刃」の力強さがグッド。
“ポイント”

だば赤子大事に春またな

ぎょうざ

これまでのしりとり俳句で培われた「句読点を挟んでお題を突破する」技は今回も健在です。両親、あるいは祖父祖母が子孫と別れる場面なんでしょうねえ。「すだば」の方言らしさが朴訥な台詞回しと似合います。ただ、会話として「春またな」と交されているなら、句の世界では今季節はいつなんだろう。春を待ち望む気持ちであると読めば、冬と考えるのが妥当なのかなあ。

“とてもいい“

まんと子猫をまたも家猫に

佐倉英華

一家の歴史が垣間見えるような、言葉少ななやりとり。「子猫」は春の季語。繁殖期を経た猫たちはやがて春頃子猫を産むのです。野良猫の生存率に心を痛めてのことか、あるいは猫が好きで仕方がないのか、春になったらどこかから拾ってくるのでしょうねえ、この方は。まーた拾ってきて! と注意はするものの「ん、すまん」の一言に、仕方ないなあ、と受け入れるお決まりのパターンが想像されます。なんだかんだ仲良いんだろうなあ、とほっこり。
“ポイント”

!」っとサツキに傘を初夕立

青居 舞

たった一音の台詞としての「ん!」。スタジオジブリの国民的名作『となりのトトロ』(宮崎駿監督/1988年)ですね。カンタいいよね……。「へへっ」みたいな顔して雨の中駆けていくシーンがまたいいんよ……。
“ポイント”

ン素晴らしィィ!!ナチスの科学の黴兵器ィィッッ!!

ふるてい

ときどき僕のサブカル趣味を狙い撃ちにしてくる投句がある件。未読の人にはなに言ってんだかわけわからんでしょうが、こちらは『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦著)第二部のシュトロハイムです。……けど、第二部で「黴」って出てきたっけ? 季語をなんとか入れようとした結果話が混ざってない?? 黴のスタンドは五部のチョコラータじゃない???(未読の人置き去り)
“とてもいい“

ライム?メラミでいいか?西瓜食む

糸圭しけ

「スライム」で「メラミ」といえばスクウェア・エニックス(当時はエニックス)による国民的RPG『ドラゴンクエスト』ですね。はい、わたくしゲームも大好物ですのよ。ドラクエは5と6しかやってないけど。スライムにメラミは燃費悪いオーバーキルでしょ、って感じだけど、ゲーム慣れしてないお父さんが、こどもに付き合って代わりに操作してるとかならこの状況にも納得できます。西瓜食べながら遊んだりしてるのかしら。うちはゲームしない親だったから、こういうのうらやましいなあ。

“ポイント”

んすと押し泡沸き上がるラムネ瓶

細川鮪目

んすんすとケチャップ押すや夏休み

井上れんげ

んすんすと更に押し込む客布団

松本厚史

んすんすと毛虫いつぴき段ボール

西野誓光

んすんすんす案山子の刺さりゆける音

コンフィ

オノマトペの「んす」。徐々に増えていく「んす」に君はどこまで耐えられるか!?  1んす~3んすまで並べてみると比較が面白いですね。《井上れんげ》さんをはじめ、2んすグループは共感度が高く句材としても慣れ親しんだ印象。1回だと「んす」を実感しづらく、2回繰り返すことで「あ、これって「んすんす」ってオノマトペだ」と知覚するのかもしれませんねえ。

一方、《細川鮪目》さんはたった1回ぶっつけ本番のなかで「1んす」を知覚している繊細さがお見事。「ラムネ」の栓を抜く瞬間のオノマトペとしては貴重な例ですね。ビー玉が落ちる「こつん」とか泡が噴き上がる「シュワ」とかは類想のある表現ですが、「んす」は個人的には初めて出会いました。オリジナリティとリアリティを両立した良いオノマトペの発見です。落ち着いた開栓の瞬間の観察。

《コンフィ》さんは「3んす」を達成して、最多んす賞。(そんなものはない)

一読、繰り返しすぎで鬱陶しいかと思いきや、中七下五の状況が提示されると、繰り返す単純作業が農作業のリアルとして迫ってきます。案山子の柄が土へ潜り込んでいく「んす」の実感。その度に手が疲れて、耳はだんだん無感覚に音を捉えるようになっていきます。労苦が未来の実りへ続くことを切に祈らずにいられません……。(元農業高校生)

“ポイント”

んすって吸って金賞の夏コン

青水桃々

ここからは次回兼題にしようか迷っていた佳句のご紹介。ただ息を吸うのではなく「んすって吸って」と変化をつけたリフレインが「金賞の夏コン」で昇華される展開がお見事。読者も同じように息を吸い込むことで、句の世界への追体験をもたらします。晴れやかな金賞! 夏空も勝利を祝福してくれるかのように底抜けに明るい!
“ポイント”

んすうは全部きらいだアイスティー

沼野大統領

一音目を伏せ字にすることで想像の余地を楽しませてくれる句。決して正統派な手段ではないけど、イレギュラーとしてこんな作風を試してみるのも、しりとりという妙ちきりんなフィールドならでは、ってやつであります。「さんすう」「ぶんすう」、他にはなにがあったっけ。きらいな勉強に臨みながら、口を清めてくれる「アイスティー」の渋味が心地良い一句であります。
“ポイント”

っぱい」結婚三日目の檸檬

星 秋名子

そりゃあ「檸檬」が酸っぱいのは当たり前なんだけど、ありふれた出来事を「結婚三日目」という状況が詩にしてくれるわけです。檸檬を切ったか、絞ったか。檸檬汁を少し舐めて、その酸っぱいことを口にする。当たり前を当たり前として言葉に発し、それを受け止めてくれる人がいること。まだその「当たり前」はたった「三日目」の新鮮なものなのです。檸檬が瑞々しい果肉と芳香で世界を彩ってくれています。
“ポイント”
第22回の出題として選んだ句はこちら。

第22回の出題

ラー・タタタまた止まる卒業歌

鷹見沢 幸

「スラー」は音楽用語であり、楽譜上では高さの違う複数の音符を曲線で繋いだ記号として表されます。その意味は「つなげてなめらかに演奏する」こと。音楽上の意味がわかると、一句で描かれる卒業歌の練習風景が聴覚と共に読み手の意識に再生されてきます。一拍置き、なめらかなスラーの響き。続けて小気味よくタタタと音が続いたところで、ハイ、ストップ。また少しだけマズいところがあったみたい。何度も何度も練習を繰り返しながら練り上げられていく「卒業歌」。演奏が完成するまでの過程も、この場にいる生徒達にとっては残り少ない青春時代なのでありましょう。

兼題「んす」に対して読点や中黒、クエスチョンマークなどなど様々なアプローチが試みられた今回。最も自然かつ必然性を持つ表現をした《鷹見沢 幸》さん、お見事でありました。

ということで、最後の二音は「うか」でございます。

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう!
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!
 

“とてもいい“