第41回「お腹が空いていましたので」《ハシ坊と学ぼう!⑩》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
フィールドに並ぶ新人今年猫
渥美 謝蕗牛
「今年猫」って、季語なんですかね?
スマホから子猫がニィニィ朝六時
かなぶん
「消し忘れのスマホ。早朝、動画の保護猫がミルクを欲しがる声が聞こえて、少し驚きました。その時のことを詠みました」と作者のコメント。
「スマホ」の中の「子猫」となれば、季語としての力は弱くなりそうです。
川縁で鮎焼きを喰ふ冬帽子
宙海(そおら)
花よりあんこ君と半分小休止
みや
この「花」は、季語なのかなあ。格言のもじりに終わっているのかなあ。
大根を抜きて水沢腹堅
けら
春昼や花に埋もれて菓子半分
那須櫻子
遺跡にて野帳開くや春の蝶
風井映七
特別な意図をもって「春の蝶」という表現をすることが無いとはいいませんが、基本的には「蝶」だけで春の季語です。下五に入れるために、「春の蝶」にしたのかな……と感じます。
ハロウィンのドラキュラがぶりファミチキを
スマイリィ
取り合わせの意図は理解できるのですが、全体の構成が散文的なのが損しています。
菜花閃閃眼も開けきらぬ猫ら鳴く
佐藤儒艮
季語としては、「花菜」が一般的です。「花菜」とすれば、人選です。
菜花濃しともだちひやくにんつて苦い
佐藤儒艮
「『濃し』と『苦い』の表記がどうでしょうか? 『苦し』よりも心の声の呟きみたいな方が実感がこもるかな、と思いました。菜の花の黄色からランドセルカバーの黄へ、知り合いですら100人いないかも……菜の花の咲く頃は、なんだか色々考えてしまう時期なのかもしれません」と作者のコメント。
季語としては、「花菜」が一般的です。「濃し」「苦い」と、文語と口語が入り混じっていますが、この選択は作者の表現意図と密接な関係があるので、一概にアウトとはいえません。この句に関しては、私はこの選択を支持します。「花菜」とすれば、人選です。
春光の草の香食う大福と
信壽
音数の調整をしてみましょう。
うららかやお隣さんと野点かな
粳としこ
「や」「かな」、切れ字が重なっています。どちらをより強く詠嘆したいのか。自問自答してみましょう。
軍港の出口は狭し菜花忌
星埜黴円
「菜の花忌」とすれば、人選です。
布雲(にのぐも)へ菜花一本届きさう
広島 しずか80歳
きれいな句ですね。季語としては、「花菜」と書くのが一般的です。「花菜」とすれば、人選。
見られぬよう河豚刺し四枚重ね
山葡萄
春眠に夢の毀ちて醒めゆけり
小山美珠
やりたいことは理解します。それぞれの言葉のイメージが近いことが、損をしているのだと思います。すべての言葉が、同心円上にあるのです。単語を一つ、イメージを巧く外すことができたら、オリジナリティとリアリティが増すのですが。
土手の雲レース鳩ゆく春近し
夏雲ブン太
どら焼きを食ふてひと息山笑ふ
れんげ草
中七、動詞「食ふ」が助詞「て」に接続するときは、連用形になるので「食ひて」となります。音便を発生させる場合もありますので、YouTube『夏井いつき俳句チャンネル』シリーズ「音便」を参照してください。また、ご質問の「山笑ふ」「山笑う」は、表記の問題です。文語か口語かは、文体の問題になります。表記と文体は別物です。YouTube『夏井いつき俳句チャネル』のシリーズ「文体と表記」をご参照下さい。
父胃がん持ち寄り花見後悔す
幸香
「姉妹家族で父の病室に集まってお弁当を食べたのですが、胃がんで食べられない父のベッドサイドで、食事会のようなものを行った自分たちの後悔です」と作者のコメント。
このエピソードを一句に押し込むことは難しい。写真のシャッターを押すように、瞬間を描写して、三十句ぐらいに書き起こしてみましょう。
うららかに誘われ歩む春探し
おっとっと
「梅が一輪咲き始めた頃、春ももうそこまで来ているのでは、というはやる心から、穏やかに晴れたある日、年老いた夫婦で出掛けました。植物園に行ってみた時の句ですが、残念ながら春はまだまだ遠かったようです。それでも家内は、手入れされた土に立てられた苗札を熱心にチェックしていました。そして、ぷっくりとほんの少しだけ顔を出している花を見つけた時、年甲斐もなく大はしゃぎしていました」と作者のコメント。
ご夫婦で、季語を探す豊かな時間ですね。「うららか」が主たる季語のようですから、「歩む」と動作を語るよりは、奥さんの表情を描写すると臨場感が生まれますね。
添削例
麗らかに誘われ春を探す妻
玉子焼き甘め菜花はからし和え
だがし菓子
ねらわるる鴉一撃花見弁
しなやか
語順もひっくるめて再考してみましょう。
菜花畑たてにして撮るスマートフォン
うみのひつじ
「菜花」は「花菜」? 季語としては、「花菜」が一般的です。
新しい学校のリーダーズ謡うヤマモトリンダうらら
沢拓庵
「ライブで歌っていました。令和に謡われる『狙いうち』は,昭和の吾とはリズムの取り方がどこか違いました」と作者のコメント。
ははは! 昭和の私たちには、新しい違和感! ネタは面白い。あとは、これをどう詩にするか、ですな(笑)。
蜂箱を菜花の里に並べ置く
あさいふみよ
「菜花」は「花菜」? 季語としては、「花菜」が一般的です。
菜の花かあんこか迷ふ膜翅目
エフ
気持ちは分かりますが、ちょっと企み過ぎたかな。
菜の花や鉄橋にドクターイエロー
神木美砂
「菜の花」と「ドクターイエロー」の微妙に違う黄色。そこに配される「鉄橋」の色の対比。よいですね。一点のみ。「鉄橋に」だと、ドクターイエローは止まってます。「~へ」だと、いま差し掛かったという感じ。「~を」だと、突っ切っていく感じです。