第41回「お腹が空いていましたので」《ハシ坊と学ぼう!⑬》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
弁慶や銅鑼焼き旨し春爛漫
るはちか
「凡人アルアルを避けたくて、銅鑼焼きの歴史を調べたら、弁慶さんが発祥だと知りました。形は時を経て諸説ありますが、銅鑼で焼いたので丸になったそうな……。銅鑼焼きは4月4日が銅鑼焼きの日とも。知らずに食べていた時よりも、弁慶の時代に思いを馳せながら食べてみたら、また格別でした」と作者のコメント。
「弁慶や」の詠嘆、「~旨し」の終止形。三段切れになってしまいました。
ジャムパンを分けて春山初デート
木香
「初デート」という言葉は便利ですが、俳句では陳腐になりがちな言葉です。この言葉に頼らずに、その気分を表現する工夫に挑んでみましょう。
鈴の音や遍路溺れの花菜の海
踏轍
老いたりな腹も空かない春なのに
曾我風蘭
お気持ちはとてもよく分かります。「~たりな」「~なのに」と説明しなくても、「腹が空かない」ことと「老いの春」を取り合わせれば、それらのニュアンスは十分に読み取れます。
菜の花や食欲増して小豆食む
牛乳符鈴
水仙をなばなと間違えたのは君
水琴子
小説やドラマの一場面を詠むのがダメというわけではないのですが、まずは自分の体験の中に俳句のタネを見つけるところから、練習を始めましょう。
しよつぱさ誉められ夜の春竜胆
谷川炭酸水
この季語でよいのか……判断を迷います。
発滑りゴンドラのチロルチョコ一個
道見りつこ
フードロス春大根の葉っぱまで
松浦 夏城
「フードロス」が、中七下五の説明になっています。
摘草やえぞは白く満ち満ちたり
きたくま
「内地に春が来ても北海道はまだ真冬。北海道を時々思い出します」と作者のコメント。
「えぞ」は、「蝦夷」かな。調べを整えたいですね。
菜花の野始めてのあんよパパの顔
美川妙子
「菜花」は「花菜」? 季語としては「花菜」が基本です。
酒天童子の食ひ残しか蒲公英
おりざ
発想は面白いのですが、調べがもたついています。
どら焼の餡つぶ立つてゐる風光る
白猫のあくび
この内容ならば、五七五の定型に入りますよ。音数を整えましょう。
寒月下プチ家出の吾道見えず
こころ美人
「プチ家出」という便利な言葉に頼らないで、描写してみましょう。
寅さんが居そうな土手で日向ぼこ
三太郎
晩春にどら焼きパクリ疲れとれ
たらお051646497
「晩春」という季語と、「どら焼き」の取り合わせはよいのですが、上五「~に」が、散文的な使い方。更に、下五「疲れとれ」も結果を述べているに終わってしまいました。
肉まんを食べた挑みしマラソンへ
かや楓
蕗味噌苦きにぎり飯我は五歳
フジ・シズカ
恵方向く寿司ある方とふと思う
こま爺
「恵方巻」ならば、そのように書いたほうがよいですね。
春節や帰らぬ夫どら焼きガブリ
凛ひとみ
「大連への単身赴任も六年目を迎えた夫。これまでは、春節には帰国していましたが、今年は海南島でゴルフだそうです」と作者のコメント。
兼題写真に「どら焼き」がありはしますが、作者コメントの内容をそのまま俳句にするほうが、よいかと。
餅草や祖母の厨の香と音と
画 喜多文
奥個室ボトル下剤や待つ霞
くえん酸子
「人生初の大腸検査です」と作者のコメント。
言葉を無理やり押し込んでいます。大腸検査も恰好の句材。もっと、句材を小さく千切って、具体的に描写しましょう。大腸検査で三十句作るぐらいのつもりで。
はるねむしからだはみづのうつはもの
たーとるQ
下五のみ一考して下さい。人選になる可能性のある句です。
花に非ず光の春に抱く期待
迦楼羅(かるら)
「『光の春』とはロシアで季節を表す言葉とか。春の気配もまだ乏しいながら、日差しは日々強まって、という時期。出生地の北海道も、その言葉がピッタリな時があります。『襟裳の春は何もない春です』という歌詞がありますが、彼の地の春の本質を捉えていると……。その季節の中で生まれる未来への思い。実際に春の花の時期を迎えて、あの名付け得ず我が内にあったものとは、こんなものだったのか、という微かな失望感が……」と作者のコメント。
表現意図は理解しました。ただ、「~に抱く期待」が抽象的な思いで終わってしまっているのが食い足りません。具体的な映像がやはり欲しいです。
竜天に昇る満席のバスツアー
谷川ふみ
「兼題写真を見て、『竜天に昇る』という季語が頭に浮かんできました。久々の青空に皆うきうきとして、さぁ出発のバスの旅。陽気さが溢れています。季語の解釈は間違っていないでしょうか?」と作者のコメント。
リズムの上で、「満席の」の「の」を外したほうがよいかと。
菜の花に背中預けて青い空
葛西のぶ子
「菜の花」という植物の特性を考えると、「背中預けて」という描写に違和感を持ちます。
冬うらら五感くすぐる菓子ふわり
高橋 誤字
中七「五感くすぐる」が説明です。「菓子」のどんな様子、状態がこう感じさせたのか。そこを描写しましょう。