第41回「お腹が空いていましたので」《ハシ坊と学ぼう!⑭》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
粒餡の少し塩味の桜餅
夏陽 きらら
五七五に調べを整えましょう。
添削例
粒餡は少し塩味桜餅
菜花が川面に映える土手っぷち
韻修
「菜花」は「花菜」? 季語としては、「花菜」とするのが基本です。
味見だよ摘み食いばれ春休み
釣女
「つまみ食い」がバレてしまうことと、「春休み」という季語の取り合わせは、なんとかなりそうですが、「味見だよ」という言い訳まで書く必要はありません。上五、要一考です。
時忘れ摘みし土筆を睨めおり
春野あかね
夢幻なるシックスパック餅間よ
舞矢愛
「お正月期間にたらふく食べたあとに気になるお腹周り。シックスパックはいとも簡単に消えてゆく。お腹が空いていても、もうおやつは厳禁です」と作者のコメント。
「シックスパック」のような言葉を俳句に取り込むのがダメなわけではないのです。「餅間」という季語と、それ以外のフレーズに因果関係が読み取れてしまう。俳句は詩なので、説明的な因果関係を述べるのを嫌うのです。
おむすびも特別な味春の庭
小林葛花
桜もちと念ず胃カメラ今いづこ
七森わらび
海原や妻吐く今朝の菠薐草
野菜α
「遊覧船で観光したとき、妻が酔って吐いてしまったのですが、朝に旅館で出てきた美味しくなかったほうれん草が見えたのが、失礼ながら少し面白かったです」と作者のコメント。
うーむ……季語は「菠薐草」ですが、何を吐いてもいい感じがしてしまう。
春寒や移動スーパーにシベリア
花豆
下五「~にシベリア」の句意が読み取れないのですが……。
土手ゴール家出の共よどら焼きよ
創次朗
「共」は、「友」? 「供」?
めだか草向こうは江戸よ競渡船
みつや湊子
「めだか草」? 季語は「競渡船」ですよね。
納豆汁不意に出され腹鳴失せ
朝波羽丸
中七は説明。納豆汁が苦手な感じの句意なのでしょうか?
いかにして七等分の鯛焼きか
壱時
面白い発想ですが、語順が惜しい。
添削例
いかにして鯛焼き七等分にせん
桜餅葉の程好き塩気かな
久木しん子
音数を整えてみましょう。
おにぎりや喰ふ娘の笑み梅五キロ
紫陽花
「出身の福岡ではおにぎりといいます。我が家は毎年梅を五キロ漬けます。梅干し一個入れて、海苔を巻いたおにぎりが大好きな娘を詠みました」と作者のコメント。
「梅」は、咲いている花を指す季語です。この場合でしたら、「実梅」と書くべきでしょう。
外つ人のラジカセダンス春隣
さふらん
「『ラジカセダンス』は、大きなラジカセを抱えてダンスすることです。大抵の人は見たことがあると思うので、意味を取り違えることはないでしょう」と作者のコメント。
中七は、ある程度想像できますが、上五「外つ人」に違和感を持ちます。
三世代散らばり競う汐干狩
雪割草
クロッカスここにしませむ此のベンチ
八月黄緑
「しませむ」は、文法的に無理がありそうです。ひょっとして、「ここにしましょう」と書きたかったのならば、そのまま書いたほうがよいかと。歴史的仮名遣いにしたいのであれば、「ここにしませう」でいけますが……。
この先も砂利道をゆく花の陰
看做しみず
この句はこの句で、ひとまず成立しています。ただ、元々表現したかった「夫とゆく」というニュアンスは消えてしまいましたね。なかなか難しいところです。
どら焼き食む土手春日遅々
雪花
残業の子の食卓へ菜花漬け
朝日千瑛
「菜花漬け」は「花菜漬け」? 季語としては、「花菜漬け」が一般的です。
菜の花や丸文字連ぬ安着状
朝日千瑛
「安着状」という言葉は、一般的なのかなあ?
あんこと黴除いて焼いた空腹
立町力二
上五字余りですが、下五「空きっ腹」とでもすれば、調べとしては落ち着きます。
天高し三日目に食す雪花菜です
立町力二
この内容ならば、五七五の定型に入れることができますよ。語順その他、一考してみましょう。
ほろ苦し摘まむ花菜やかぐわしき
ビール大好きさん
「ほろ苦し」は終止形、「花菜や」の詠嘆。三段切れになっています。
山笑う画用紙埋める濃淡の緑(あお)
鈴木 リク
この内容ならば、定型に入れられそうです。「埋める」と書かなくとも分かるやり方を工夫してみましょう。
河川敷鬼は外ですあんこ食ふ
森 健司
季語は「鬼は外」なのだろうと思いますが、なぜ河川敷であんこを食べているのか。読みを迷います。
空の青淡くなりて草を摘む
鈴木そら
中七は極力、七音にするのが定石です。「淡くなりて」の六音をどうするか。俳句は言葉のパズル。全体の音数を調整してみましょう。
終の食や春の頂塩むすび
夢追い人
「春に初めて白馬に登った時、頂上で食べた塩むすびが今まで食べた中で一番美味しかったので、人生最後に何を食べたいかと聞かれたら、具も入ってないあの塩むすびを食べたいという想いを句にしました」と作者のコメント。
上五「終の食や」と詠嘆まですると、今がまさに命の瀬戸ぎわなのだと、読者は思ってしまいます。むしろ……〈登頂や春の白馬の塩むすび〉とでも書けば、読んだ人はさまざまに想像してくれます。