写真de俳句の結果発表

第41回「お腹が空いていましたので」《地》

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

第41回「お腹が空いていましたので」

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早蕨や接戦残る得点板

つづきののんき

蕨が伸びてきた土手でしょうか。「早蕨」のアップから、中七下五へ映像が切り替わります。「接戦残る得点板」というモノを描くだけで、そこが土手の下の草野球場で、粗末な得点板があって、今は人はいないけれど、接戦を繰り広げた痕跡だけが残っていることが、ありありと伝わってきます。

「俳句は、説明ではなく映像ですよ」と口を酸っぱくして、毎月「ハシ坊」アドバイスを書いていますが、この句がまさに映像なのですよ。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

拒まれた詫び菓子春の土手に食う

ふるてい

そんな菓子一つ下げてきて、謝ったつもりになるな! なんて、追い返されたのでしょう。一体何をしでかしたのか。想像だけがどんどん広がっていきます。

前半の「拒まれた詫び菓子」だけでもかなりの情報量があるのですが、十七音が破綻していません。さらに後半「春の土手に食う」という映像の向こうに、作者の心情もおのずと読み取れる。流石の一句です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

草餅や喉を堂々突き進む

新井ハニワ

桜餅、葛餅などに比べると、「草餅」はいかにも鄙びたよろしさ。蓬の匂いを楽しみつつ、ガブリと齧ると、草餅のかたまりは、我が喉を堂々と突き進んでいくのです。季語「草餅」の喉越しの感触を、「堂々」「突き進む」と描写した俳諧味のリアリティ。一物仕立てとしても、堂々たる一句です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

たんぽぽや母が嫌いな父が好き

丸山隆子

「たんぽぽや」と、素直に真っ直ぐに詠嘆しておいて、中七下五で家族への思いを吐露します。

この句が曲者なのは、中七下五。「母」が父を嫌っているのだけれど、自分は「父が好き」という意味なのか、「母が嫌い」だと言う「父」に共感しての「好き」であるのか。いずれにしても、たんぽぽの明るさが、すれ違う家族の心の切なさを際立てます。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

陽炎へ羽化するやうに母出奔

ノセミコ

季語「陽炎」に対して「羽化」という発想の句は、これまでにも見たことがあります。

が、中七後半から「~やうに」と比喩へ展開し、「母出奔」という下五に着地する衝撃。陽炎の向こうへゆらゆらと消えていく母を、この眼で見たかのような詩的リアリティのある作品です。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

永き日の何もしないをする座椅子

雨野理多

何もしたくない日は誰にでもあります。自分に鞭打って、何かをやろうとすると、心はヘトヘトに疲れてしまいます。

そんな日は、「何もしない」という目標を決行するのです。そのための相棒がこの「座椅子」。季語「永き日」は、幾分近いけれども、好ましい取り合わせです。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

悼む日のコートが薄情に軽い

七味

「悼む日」とは、誰かのお葬式でしょうか。過去の災害を悼む祈念の日かもしれません。

悼む心をもってこの場にいるにもかかわらず、今日着ている「コート」が、いかにも薄くて軽いのでしょう。悼む心よりも、己の寒さに心が動いてしまう。「薄情に」は、そんな思いの表現ではないかとも。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

合格や脚にペダルの追ひつけぬ

上村 風知草

「合格や」という上五が、一気に踊りだすような一句。一刻も早く、誰かに知らせたいのですね。家族でしょうか、先生でしょうか。

中七下五「脚にペダルが追ひつけぬ」という圧倒的な実感に、共感しきり。ショートムービーを観ているような映像の作り方に拍手を送りましょう。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

コンペならまだ七連敗春の川

鳥乎

「コンペ」とは、コンペティション(競争、競技会)の略語。ビジネスの現場では、「複数の業者を競わせて、その中で優劣をつけ、業者をひとつ選ぶ方式」です。

仕事を貰えるか貰えないかの勝負所。準備に要する努力は、毎回筆舌に尽くし難いものがあるのです。が、それが「七連敗」だという、この数詞が物語る切実な現実。

とはいえ、取り合わせた季語「春の川」が、なんとも絶妙です。春の川を見ながら、七連敗を苦く噛み締めてはいるのだけれど、決して打ちひしがれてはいない。「まだ」の一語と相まっての達観には、ユーモアすら漂います。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき

産休や雲を数える春の土手

メレンゲたこ焼き

中七下五「雲を数える春の土手」というフレーズはあるかなとは思いますが、上五「産休や」によって、一句が具体的に立ち上がってきます。「育休」ではなく「産休」ですから、まだお腹に赤ちゃんがいるのでしょう。

ずっと忙しく働いてきた中で、今ここにあるのは、ゆったりとした時間。お産を前に準備するべきことも多々あるけれど、「産休」という時間を楽しんでいるのです。来年の今ごろは、赤ちゃんと一緒に春の雲を数えるのでしょうね。

おうちの中にもタネがいっぱい 夏井いつき