第41回「お腹が空いていましたので」《天》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
天
第41回
菜の花の底に居て会社が遠い
三浦海栗
菜の花の生い茂った土手の下辺りにいるのでしょうか。こぼれ種が咲き広がった原っぱかもしれません。菜の花は、八十センチ前後まで茎を伸ばしますから、「菜の花の底」という書き方は決して誇張ではありませんし、詩の言葉としても有効な表現です。
その「菜の花の底」にじっと座り、何をしているとは書いていません。が、後半「会社が遠い」という措辞で、ある程度の状況が読み取れます。
営業職の外回りでしょうか。自ら、昼の休憩と称して、少々サボっているのです。足でかせぐのが営業の鉄則とはいえ、上手くいかない日だってある。なのに、菜の花はこんなふうにゆらゆらと春の日を浴びて揺れているのです。嗚呼、仕事なんかしたくない! そんな思いが、「会社が遠い」という呟きになっているのでしょう。
いや、ひょっとすると、出社拒否かもしれません。朝、家を出たものの、あの嫌な上司のいる職場に行こうとすると、脂汗が滲み、足が竦んでしまう。菜の花の底に逃げ込んで、自分と葛藤する。そんな意味での「会社が遠い」という読みだってありますね。
いずれにしても、季語「菜の花」という植物の特性が生かされた一句。菜の花の明るさは、励ましという癒やしにもなり、疎外感という眩しさにもなります。