第42回「降車ボタン」《ハシ坊と学ぼう!④》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
終点のブザーのやふな春うれひ
このみ杏仁
夏井いつき先生より
「ような」を歴史的仮名遣いにすると、「やうな」になります。
魂送り不死鳥去りて厳遺影
佐藤 啓蟄
夏井いつき先生より
言いたいことを伝えるために、言葉をぎっしりと詰め込んだ感じです。
言いたいことを伝えるために、言葉をぎっしりと詰め込んだ感じです。
うらうらと指紋認証盲信す
池内ときこ
夏井いつき先生より
上五中七まではよいです。下五が説明ですね。
上五中七まではよいです。下五が説明ですね。
忘れかけた過去蘇る朧月
幸水
夏井いつき先生より
「忘れかけた過去」とあれば、すでに蘇っています。
「忘れかけた過去」とあれば、すでに蘇っています。
春一番スーツ姿や疾走す
井上玲子
夏井いつき先生より
上五は名詞、中七は「や」の切れ字、下五は動詞の終止形。調べがブツブツ切れています。
春闌降車ボタンの熟れし灯よ
西川由野
夏井いつき先生より
「春闌(はるたけなわ)」は、「熟れし」と少し近いかもしれません。しかも、六音。もし、この季語に強いこだわりがあるとすれば、「熟れ」の一語を外して、再考してみると可能性はあります。
「春闌(はるたけなわ)」は、「熟れし」と少し近いかもしれません。しかも、六音。もし、この季語に強いこだわりがあるとすれば、「熟れ」の一語を外して、再考してみると可能性はあります。
降車時の「ありがとう」で花開く
英曙
夏井いつき先生より
助詞「で」は、非常に説明的です。
六月のダムに走りて村のバス
宇野翔月
夏井いつき先生より
助詞「に」は、これでよいですか? 再考してみましょう。
真ん中を欠く薄氷の浮き加減
上田美茄冬
夏井いつき先生より
「薄氷」の一物仕立て。よく観察しています。描写の精度の問題になりますが、「真ん中を欠く」から「浮き加減」のリアリティがこの描写でどこまで再現できているか。あと一息で、文句のない人選に手が届きます。
帰省する津波に沈む前の町
春待みおつくし
夏井いつき先生より
「津波に沈む前の町」という詩語には力があります。上五の季語がベストかどうか、再考してみましょう。
せがまれて園児バス化す夫や春
丹波らる
夏井いつき先生より
「園児バス化す」……解釈に迷いました。
「園児バス化す」……解釈に迷いました。
車両には鼻高き民しろ木蓮
山女
夏井いつき先生より
「ブダペストに旅行中です。向かいに座ったデート中の二人の鼻の高いこと。見惚れてしまいました。木蓮の花が咲き出したところでした」と作者のコメント。
面白い素材です。下五「しろ木蓮」という表記にわずかな違和感。語順も含めて、再考してみましょう。人選の句に育ちますよ。
面白い素材です。下五「しろ木蓮」という表記にわずかな違和感。語順も含めて、再考してみましょう。人選の句に育ちますよ。
風光るバスシート揺れ初デート
しなやか
夏井いつき先生より
「初デートでバス座席に二人で並んで座る緊張感を表現したかったのですが、説明的になっているでしょうか?」と作者のコメント。
「初デート」という言葉自体が、一種の説明なのです。このように説明せず、この場面を描写することで、「ひょっとして初デートかも」と読者に思わせるのが、肝要なのです。
「初デートでバス座席に二人で並んで座る緊張感を表現したかったのですが、説明的になっているでしょうか?」と作者のコメント。
「初デート」という言葉自体が、一種の説明なのです。このように説明せず、この場面を描写することで、「ひょっとして初デートかも」と読者に思わせるのが、肝要なのです。
バス降りし岬巡りの椿かな
小林 昇
夏井いつき先生より
良い句材です。今、降りているのでしょうから、「バス降りし」ではなく、「降りて」ではないかと。それならば、人選です。
良い句材です。今、降りているのでしょうから、「バス降りし」ではなく、「降りて」ではないかと。それならば、人選です。
葡萄食べる?車内の彼女スリにけり
旅路
夏井いつき先生より
「ニースで路面電車に一歩乗り込むや否や、背の高い女の子が、美味しそうな炒飯を立ったまま食べていて、一口食べる? というのです。呆気に取られ、遠慮すると言っている間に電停(路面電車停留場)の券売機から後ろにいた私の脇の下よりも背の低い別の女の子にクレジットカードを盗まれた様なのです。お腹に回していたショルダーバッグも、彼女にとっては顔と手に近く取りやすかった様です。因みに朝市で葡萄を買った日でした」と作者のコメント。
後半の措辞、句意が受けとり難いです。彼女がすった? すられた?
「ニースで路面電車に一歩乗り込むや否や、背の高い女の子が、美味しそうな炒飯を立ったまま食べていて、一口食べる? というのです。呆気に取られ、遠慮すると言っている間に電停(路面電車停留場)の券売機から後ろにいた私の脇の下よりも背の低い別の女の子にクレジットカードを盗まれた様なのです。お腹に回していたショルダーバッグも、彼女にとっては顔と手に近く取りやすかった様です。因みに朝市で葡萄を買った日でした」と作者のコメント。
後半の措辞、句意が受けとり難いです。彼女がすった? すられた?
バスの列ビニール傘につく桜
シュリ
夏井いつき先生より
目の付け所はよいです。中七下五、これがベストな表現かどうか、自問自答してください。
目の付け所はよいです。中七下五、これがベストな表現かどうか、自問自答してください。
白蝶や女学生らの朝のお喋り
沢拓庵
夏井いつき先生より
「第19回「マーガレットとベニシジミ」《並》⑤の〈初蝶や女学生らの軽いお喋り〉を推敲しました。〔初蝶〕の本意とは違うという判断と、お喋りの『軽さ』は〔蝶〕の飛ぶ様子で伝わると考え〔時間帯〕に変えました」と作者のコメント。
こんなふうに、自分の句について、丁寧に分析していくことが、俳句の筋力になっていきます。この句、ここまで推敲できました。最後のブラッシュアップをするとすれば、字余りは上五に吸収させて……。
添削例
女学生らの朝のお喋り初蝶来
「第19回「マーガレットとベニシジミ」《並》⑤の〈初蝶や女学生らの軽いお喋り〉を推敲しました。〔初蝶〕の本意とは違うという判断と、お喋りの『軽さ』は〔蝶〕の飛ぶ様子で伝わると考え〔時間帯〕に変えました」と作者のコメント。
こんなふうに、自分の句について、丁寧に分析していくことが、俳句の筋力になっていきます。この句、ここまで推敲できました。最後のブラッシュアップをするとすれば、字余りは上五に吸収させて……。
添削例
女学生らの朝のお喋り初蝶来
バス降りて春の組合決起集会へ
中山白蘭
夏井いつき先生より
「春闘」という季語もありますよ。
「春闘」という季語もありますよ。
満席なる春嵐の始発バス
神木美砂
夏井いつき先生より
「用事があり、悪天候の中始発のバスに乗り込んだら、なんと満席になるほど人がたくさんいました。こんな朝早くから天気も悪いのにと、とても驚きました」と作者のコメント。
内容はよいですね。調べを整えましょう。
「用事があり、悪天候の中始発のバスに乗り込んだら、なんと満席になるほど人がたくさんいました。こんな朝早くから天気も悪いのにと、とても驚きました」と作者のコメント。
内容はよいですね。調べを整えましょう。
花時に降車ボタンは新しく
酒井彩香
万愚節核のボタンへ伸びる指
ばちゃ
夏井いつき先生より
「時々考えます。核のボタンを押す時はどんな気持ちなのだろう? と。指は震えるのか、信念を持って躊躇無く押すのか? プーチンの発言は『うっそだよ~』という気持ちであって欲しいですが、先の事は分かりません。季語を最初『四月馬鹿』にしていましたが、『愚か』の入った万愚節にしました」と作者のコメント。
伝えたいことは、まっすぐに伝わります。ただ、「万愚節」という季語と「核のボタン」を取り合わせた句は、毎年お目にかかります。
伝えたいことは、まっすぐに伝わります。ただ、「万愚節」という季語と「核のボタン」を取り合わせた句は、毎年お目にかかります。