俳句deしりとりの結果発表

第27回 俳句deしりとり〈序〉|「うげ」②

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第27回の出題

兼題俳句

野送りや島にいつより仏桑花  佐藤さらこ

兼題俳句の最後の二音「うげ」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「うげ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

右源太の川床跳ねる水多し

時乃 優雅

右源太の鮎まるまると香ばしき

小笹いのり

右源太左源太ひとしく明き緑の夜

七瀬ゆきこ

豊かな川床に、まるまると香ばしい鮎、なんだか良さげな料亭感が漂っておりますなあ。調べてみると、「右源太」は、京都・貴船にある特別な旅館なのだそうです。特に《七瀬ゆきこ》さんの句は美しい。舞台となった場所がわかると「ひとしく明き緑の夜」が詩の言葉として際立ってきますねえ。ここでの「緑」は一般名詞ではなく、季語・新緑の傍題として理解したい。匂やかな緑滴る一夜であります。
“良き”

繧繝縁畳の厚き内裏雛

原 水仙

繧繝端上に居並ぶ雛飾り

風花舞

繧繝縁さやけし吾子の初雛

もりたきみ

「繧繝縁」はうげんべり、あるいはうんげんべりと読みます。出題的には前者の読みになりますね。カラフルな模様の施された畳で、畳縁の中で最も格式の高いものとされています。雛人形を飾る畳といえばピンとくる人もいるかしら。並んだ三句もいずれも雛飾りが題材になっていますね。《もりたきみ》さんの句は秋の季語「さやけし」も入ってはいますが、「初雛」が主たる季語と考えてあげるべきかなあ。
“ポイント”

有験なる開帳祈祷春祭

実相院爽花

有験なる祝詞真似る子七五三

青井季節

有験✖️浪人確定の春よ

原島ちび助

有験者と阿吽像にも山桜

蛇の抜け殻

加持祈祷をして、その効き目があることを「有験」といいます。同時にその祈祷を行う僧のことも指します。こういった場面を見聞きする場所といえば、思い浮かぶのは神社や寺社仏閣。春祭、七五三、と賑々しい季語が並ぶなか、《原島ちび助》さんのトホホ感が一層哀れを誘うなあ……(笑)。一方で、《蛇の抜け殻》さんは行為としての加持祈祷ではなく、それを行う人物・「有験者」であると明確にすることで他の句と差別化されています。山桜が幽玄な威厳を思わせて魅力的。

“とてもいい“

有験の王ミダスよ如何に囀は

花屋英利

「ミダス」といえばファンタジー好きとしては聞き知った名前ですねえ。触れたものがなんでも黄金に変わってしまう力を授けられ、なにも食べられない、飲めない、と苦しむことになった王様だと記憶しています。聖剣伝説LoMでも固有技でミダスの手ってあったよな。

あらためて調べてみると、ギリシア神話にも登場し、黄金化のエピソード以外にも、絵本や童話として知られる『王様の耳はロバの耳』のモチーフとなったのもこのミダス王だとか。……なんだか、全体的に良い目にあわない王様で気の毒だなあ……。《花屋英利》さんの「如何に囀は」は優しい呼びかけであってほしいゾ。ロバの耳への煽りではなく……。

“ポイント”

羽檄うげき)受け西楚の覇王小鳥狩

羽檄飛ばす丞相の黙旱星

水須ぽっぽ

羽檄飛べ野火押し進む中原へ

田に飛燕

西楚だとか、丞相だとか、中原だとか、脳裏に『キングダム』や『三国志』が浮かんでくるようなフレーズがあれこれと。「羽檄」とは至急の檄文のこと。昔、中国で至急の文書を送る際、鳥の羽をつけて至急のしるしとしたそうです。三句それぞれにほんのりと不穏さが漂いますが、《水須ぽっぽ》さんはさほど強い言葉は使わず、季語「旱星」によってそれを実現しているのがワザマエ。

“ポイント”

宇下人言」は四限目春眠し

めいめい

七五五のリズムで作られた句。「四限目春眠し」がザ・学生! って感じですなあ。「宇下人言(うげのひとごと)」は江戸時代後期の大名・松平定信の記した自叙伝。かの有名な寛政の改革までが記述されている半生記です。文武奨励、倹約励行の人物の書に対して、だらけた現代人の姿がなんとも皮肉なユーモア(笑)。
“とてもいい“

雨月物語疲れてゐる蟻の過ぐ

きたくま

書物の名前が続きます。怪異小説というか、幻想小説というか、不穏な逸話が魅力的な「雨月物語」。人間の執念の恐ろしさや哀れを感じさせる本書に対して、《きたくま》さんの取り合わせは淡々とした蟻の歩みの描写。しかしその歩みにほんの少しのエッセンスとして加えられているのが「疲れてゐる」という擬人化を含んだ視線です。この蟻は前世の業から虫としての一生を今背負わされているのかもしれない……なんて空恐ろしい空想が展開できるかも。多くを語らない空白によって、読みの幅を楽しませてくれる一句であります。

《③へ続く》

 
“ポイント”