第27回 俳句deしりとり〈序〉|「うげ」③
始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第27回の出題
兼題俳句
野送りや島にいつより仏桑花 佐藤さらこ
兼題俳句の最後の二音「うげ」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「うげ」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
う、減点 お巡りさんの背へ春風
おかだ卯月
「う」月曜の吐き気しわのない白シャツ
とひの 花穂
うめき声から始まる「う」。どっちもわかる、わかるぞぉ……。速度超過とかやっちゃうと道に停められて、パトカーにご招待になるんだよねえ、切符切るために。後ろからとぼとぼついていってる《おかだ卯月》さんの嘆きが見えまする。季節は喜びの春だというのになあ……。
《とひの 花穂》さんは現代人らしい感覚。個人的には起床直後、出勤前の心境を思いました。つらいよな、月曜。正しい日常を過ごしなさいといわんばかりの「しわのない白シャツ」がなんと残酷に正しさを突きつけてくることか。「白」の一字が本来持つ気持ち良い涼感が逆転して、不快や恐怖につながるのが人間の心理として興味深い。
「そんなひねくれて歪んだ読みするのはお前だけだ」って? それはそう。
憂げ憂げと蟻の尻ゆく火事場跡
内藤羊皐
憂げなる手尻掻くマンドリルの昼寝
鳥乎
憂げに咲く百合の匂ひを吸いこみぬ
源早苗
《源早苗》さんは同じ「憂げ」でも句材になっているのは植物の「百合」。重たげに首を垂れる「百合」の姿に対して「憂げ」は納得の措辞です。苦手な人にとっては強すぎる匂いに調子が悪くなってしまうほどのお花ですが、その匂いに百合自身の憂いも混ざっているとなれば一層悪酔いしそう。
うげうげと吐く春月を見ても吐く
嶋村らぴ
うげうげとブルの鼾や春眠し
福朗
うげうげと持ち上げられる兎かな
細川 鮪目
オノマトペの「うげうげ」。三句を並べてみるとそれぞれオノマトペで表現したい内容が違っているのが興味深いですね。《嶋村らぴ》さんは慣用表現っぽさもある嘔吐の様、《福朗》さんは鼾の響き、《細川 鮪目》さんは兎の暴れる動作。個人的に一番実感を強く感じるのは「兎」かなあ。抱かれる、ではなく「持ち上げられる」なのが良い。人間による強制力と兎の抵抗を思わせる要因となります。
うげうげさんのスローライフやバンガロー
渥美こぶこ
うげうげさん蜘蛛のスキルは料理かな
白発中三連単
うげねじゃんアジャー方言交う彼岸
朝波羽丸
愛媛だと聞いたことないなあ、「うげね」も「アジャー」も。どこの方言なんだろう。調べてみたところ、両方を使う土地として候補にあがってきたのは鹿児島県でした。「うげね」はうけねともいい、大家族を意味する言葉。「アジャー」は特に鹿児島県徳之島の方言で、お父さんを意味するそうです。繋げると「大家族だねお父さん」……みたいな意味になるのかな? 彼岸の里帰りで一族郎党集まってるのかしら。
うげとった方言と知り春の雷
へばらぎ
剥げた爪見せびらかすや運動会
せんのめぐみ
うげた爪覆い皮膚科へ花の冷
青居 舞
うげし爪痛し梅雨曇の朝よ
くぅ
穿げてなほ滝を抱きたる山の岩
夏村波瑠
穿げ除きし除雪跡なり農家の子
留辺蘂子
穿げ除きし塀より見ゆる花満開
ねこじゃらし
穿げ除きて夏陽あらはな甕棺墓
星埜黴円
自分の辞書に単語を増やしておくと句の内容にあわせて動詞のニュアンスを微妙に変化させられたりします。仮に、《夏村波瑠》さんの句を「穿げ除き」にしたら滝の静かな荘厳さは失われてしまうし、逆に《星埜黴円》さんの句を「穿げ」にしてしまうと「甕棺墓」の割れてしまった土器片の厚みを映像化するには力不足です。他の人の句を見ながら、仮にここを変えたらどうなるかな? とシミュレーションしてみるのも立派な学習。
《④へ続く》