俳句deしりとりの結果発表

第28回 俳句deしりとり〈序〉|「かし」②

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第28回の出題

兼題俳句

婁を逃れ貪る牛の草若し  おやじん

兼題俳句の最後の二音「かし」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「かし」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

餅代打の姉のホームラン

風早 杏

餅産み分け法のいま昔

このみ杏仁

「かし」の二音から始まる季語シリーズ。柏餅は端午の節句に食べるという背景もあり、男児との関係を季語の本意に含みます。《風早 杏》さんの男勝りな「姉」のかっ飛ばす力強さ、気持ち良いねえ。打球が五月の空へ伸びていく映像まで想像させます。《このみ杏仁》さんは取り合わせの発想勝負。子どもの性別を産み分ける方法があると聞いた記憶はありますが、本当なんだろうか、とやや懐疑的な気持ちにもなり。今も昔も変わらず食べられている「柏餅」との取り合わせが健やかで嫌味が無い。
“ポイント”
 

の花ブルーシートを干す鉄棒

末永真唯

の花茶色の雨のにわたずみ

みえこ

落葉未だ掴めぬフリスビー

鈴白菜実

落葉父より七つ上となる

看做しみず

の実の殻斗は胎盤のようなもの

夏の町子

季節毎の表情を見せてくれる樫の木。「樫の花」は春、「樫落葉」は夏、「樫の実」は秋の季語になります。落葉といわれると一瞬冬? と思いがちですが、常緑樹の樫は初夏に若い葉が出てくると古い葉が落ちるのです。もちろん全部違う作者であり、別の人生が描かれてるわけだけど、並べて読むとみんなひとつの地域で暮らしているように感じられて不思議な感覚。
“良き”

貸したきり還らぬカメラ、金、案山子

伊藤映雪

貸した金いつ戻るやら木瓜の花

奥井宣風

貸した金馬券で返す四月馬鹿

メレンゲたこ焼き

付窓口色の薄き麦茶

骨のほーの

方のどっかがちょんぼ黄金虫

だいやま

方の一円春恨の溜息

花岡貝鈴

貸し金が来た穴子のように潜む

おやじん

貸す系の発想もありました。その中でも連想しやすいのはお金。今までの人生、親からの「金は貸すのも借りるのもアカン」という教えを守ってまいりましたが、句を読むことで疑似体験するだけでも胃がキリキリしてきますわぁ……。《おやじん》さんの「貸し金」は金貸し業者の意味でありましょう。自分の姿を「穴子」に比喩してるので季語とは考えにくいけど、息を殺して潜む様には追い詰められたリアリティがあって心臓がキュッてする……。
“ポイント”

貸したのは十巻の本五月闇

ゆすらご

貸した本本屋で探す春愁ひ

長谷川吞気

貸した本栞動かず雁供養

花屋英利

出の図鑑持ち替ふ雪の道

伊沢華純

本屋の奥に三畳雛の客

陶瑶

本の鬼太郎木耳喰ってゐる

湯屋ゆうや

本屋ページの狭間にクローバー

野山めぐ(めぐ)

本を貸したり借りたりする場面。個人対個人で貸し借りすることもあれば、図書館や貸本屋から借りるケースもあります。本好きとしては苦々しい記憶を発掘される句もありますねえ。貸した本が返ってこなかったりするととてもしょんぼりする……。

ページの間になにかが挟まっているという状況は、本好きなら一度は体験したり発想したりしたことはあると思います。《湯屋ゆうや》さんの句は解釈がいくつかあるけど……貸本の鬼太郎に木耳が挟まっていた、とも解釈できる。前の借主はラーメンでも食べながら読んでたんだろうか……。《野山めぐ》さんの「クローバー」ならかわいげがあるけど、油を吸った木耳はなかなかギルティ。本を粗末に扱うの、ダメ、ぜったい!

“とてもいい“

貸し浮輪四代前のプリキュアの

西川由野

貸すものといえば、こんなのもアリかあ! と妙に納得した一句。海水浴場やプールで浮き輪貸し出してることありますね。子ども向けのキャラクター浮き輪が絶妙に色褪せてるのをみると、ああ、大切に長持ちさせてるんですね……って気持ちになります。古さの表現として「四代前のプリキュアの」が具体的かつリアル。派手なカラーリングにかえって色褪せ具合がよくわかります。
“ポイント”

瑕疵担保責任果たし秋の暮

草深みずほ

瑕疵担保責任問われ梅雨の夜

田に飛燕

瑕疵否認不動産屋の蛇の舌(べろ)

⑦パパ

「瑕疵」とは傷や欠点のことですが、法律の場でも使われる言葉です。法律では本来あるべき品質を欠いていることを意味します。「瑕疵担保責任」は物件を引き渡したあと、欠陥が見つかったりした場合に売主が責任を負うことである、とか。なるほど、《草深みずほ》さんや《田に飛燕》さんはその責任を履行する側なんですねえ。取り合わせられた季語がどっちも暗く寂しいあたり、その心情はいかばかりか……。

一方、《⑦パパ》さんはお客目線。「蛇の舌(べろ)」に怒りや皮肉がたっぷり込められておりますなあ(笑)。

“ポイント”

瑕疵でした」黒文字すっと水羊羹

春野つくし

たった五音のセリフで状況とその場にいる人物を推察させる情報量のコントロールが上手い。続く中七下五で動作と季語の存在に焦点を合わせるのもお見事です。「黒文字」は和菓子を食べる際に使われる楊枝のこと。水羊羹も来客用の上等なものをお出ししてるんだろうなあ。「すっと」の手応えが上質さを感じさせます。
“とてもいい“

仮死か死か鹿の下肢架し瑕疵可視化

わおち

今回のザ・頑張ったで賞。よくこれだけ「かし」を入れ込んだなあ! ネタ狙いの無茶苦茶なことをやっているようでいて、一語ずつ考えていけば状況がそれなりに理解できるのにびっくり。
“ポイント”
 

加湿器無い楽屋とか考えられへんっ!

ふるてい

今回のザ・ナンダコレ賞。どんなキャラ設定だよ! とツッコミいれちゃうタイプのやつ。でも実際歌手とかタレントさんとか、楽屋にこだわる人はこういう叫びするんだろうなあ。大学生時代にイベント運営のバイトしてたからなんとなくわかるよ、この現場感……。楽屋に置くお菓子の種類も演者指定の商品用意したりするんだよね。
“ポイント”
 

かしこまりましたばかりの夏バイト

麦のサワコ

「~夏」で切れがあると読むか、ないと読むか。ない場合は「夏バイト」になりますね。いわゆる季節限定のリゾートバイトみたいなもの? 接客言葉使いができてる分、まだ頑張ってるな、って思っちゃうのは判定甘過ぎかしら。
“ポイント”
 

かしこまる雛右指の微剥落

ガリゾー

業務上のフレーズとして「かしこまりました」は頻出のフレーズだけど、厳密にどんな意味かって案外意識してなかったかもしれない。辞書を引くと複数の意味がありますが、①目上の人の前などで、おそれ敬う気持ちを表した態度をとること。②謹みの気持ちを表し姿勢を正して座ること。③命令・依頼などを謹んで承る意を表すこと。……これら三つの意味で使う場面が多いでしょうか。お客様に応える時の「かしこまりました」は③の意味なんですねえ。

《ガリゾー》さんの句の場合は、雛の姿を描写していると考えると②の意味と理解して良さそう。座した雛は指先まで姿勢正しくピシッとしているんだけど、右指に少しだけの剥落がある、と。人形の指先へと焦点を絞って描こうとする姿勢が真摯。
“ポイント”

 

かしこみかしこみ楠若葉めく息を

吉野川

かしこみて繁る青葉をにわか巫女

うに子

美恐美六月のプラチナリング

山羊座の千賀子

神事や結婚式などで聞く機会のある「かしこみ」。恐ろしさに、おそれ多いので、といった意味の言葉だそうです。敬い、崇拝する感覚でしょうか。実は漢字の表記が複数あるようで、《山羊座の千賀子》さんの「恐美恐美」もそのひとつ。結婚式の祝詞ではこの表記になるそうです。文字面の迫力がすごい……!

《③へ続く》

“ポイント”