第28回 俳句deしりとり〈序〉|「かし」②
始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第28回の出題
兼題俳句
婁を逃れ貪る牛の草若し おやじん
兼題俳句の最後の二音「かし」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「かし」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
柏餅代打の姉のホームラン
風早 杏
柏餅産み分け法のいま昔
このみ杏仁
樫の花ブルーシートを干す鉄棒
末永真唯
樫の花茶色の雨のにわたずみ
みえこ
樫落葉未だ掴めぬフリスビー
鈴白菜実
樫落葉父より七つ上となる
看做しみず
樫の実の殻斗は胎盤のようなもの
夏の町子
貸したきり還らぬカメラ、金、案山子
伊藤映雪
貸した金いつ戻るやら木瓜の花
奥井宣風
貸した金馬券で返す四月馬鹿
メレンゲたこ焼き
貸付窓口色の薄き麦茶
骨のほーの
貸方のどっかがちょんぼ黄金虫
だいやま
貸方の一円春恨の溜息
花岡貝鈴
貸し金が来た穴子のように潜む
おやじん
貸したのは十巻の本五月闇
ゆすらご
貸した本本屋で探す春愁ひ
長谷川吞気
貸した本栞動かず雁供養
花屋英利
貸出の図鑑持ち替ふ雪の道
伊沢華純
貸本屋の奥に三畳雛の客
陶瑶
貸本の鬼太郎木耳喰ってゐる
湯屋ゆうや
貸本屋ページの狭間にクローバー
野山めぐ(めぐ)
本を貸したり借りたりする場面。個人対個人で貸し借りすることもあれば、図書館や貸本屋から借りるケースもあります。本好きとしては苦々しい記憶を発掘される句もありますねえ。貸した本が返ってこなかったりするととてもしょんぼりする……。
ページの間になにかが挟まっているという状況は、本好きなら一度は体験したり発想したりしたことはあると思います。《湯屋ゆうや》さんの句は解釈がいくつかあるけど……貸本の鬼太郎に木耳が挟まっていた、とも解釈できる。前の借主はラーメンでも食べながら読んでたんだろうか……。《野山めぐ》さんの「クローバー」ならかわいげがあるけど、油を吸った木耳はなかなかギルティ。本を粗末に扱うの、ダメ、ぜったい!
貸し浮輪四代前のプリキュアの
西川由野
瑕疵担保責任果たし秋の暮
草深みずほ
瑕疵担保責任問われ梅雨の夜
田に飛燕
瑕疵否認不動産屋の蛇の舌(べろ)
⑦パパ
「瑕疵」とは傷や欠点のことですが、法律の場でも使われる言葉です。法律では本来あるべき品質を欠いていることを意味します。「瑕疵担保責任」は物件を引き渡したあと、欠陥が見つかったりした場合に売主が責任を負うことである、とか。なるほど、《草深みずほ》さんや《田に飛燕》さんはその責任を履行する側なんですねえ。取り合わせられた季語がどっちも暗く寂しいあたり、その心情はいかばかりか……。
一方、《⑦パパ》さんはお客目線。「蛇の舌(べろ)」に怒りや皮肉がたっぷり込められておりますなあ(笑)。
「瑕疵でした」黒文字すっと水羊羹
春野つくし
仮死か死か鹿の下肢架し瑕疵可視化
わおち
加湿器無い楽屋とか考えられへんっ!
ふるてい
かしこまりましたばかりの夏バイト
麦のサワコ
かしこまる雛右指の微剥落
ガリゾー
《ガリゾー》さんの句の場合は、雛の姿を描写していると考えると②の意味と理解して良さそう。座した雛は指先まで姿勢正しくピシッとしているんだけど、右指に少しだけの剥落がある、と。人形の指先へと焦点を絞って描こうとする姿勢が真摯。
かしこみかしこみ楠若葉めく息を
吉野川
かしこみて繁る青葉をにわか巫女
うに子
恐美恐美六月のプラチナリング
山羊座の千賀子
神事や結婚式などで聞く機会のある「かしこみ」。恐ろしさに、おそれ多いので、といった意味の言葉だそうです。敬い、崇拝する感覚でしょうか。実は漢字の表記が複数あるようで、《山羊座の千賀子》さんの「恐美恐美」もそのひとつ。結婚式の祝詞ではこの表記になるそうです。文字面の迫力がすごい……!
《③へ続く》