俳句deしりとりの結果発表

第28回 俳句deしりとり〈序〉|「かし」④

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第28回の出題

兼題俳句

婁を逃れ貪る牛の草若し  おやじん

兼題俳句の最後の二音「かし」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「かし」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

河岸に寄せ紫煙立たせる鵜飼船

老蘇Y

河岸かへて「辛口女子」と云ふ冷酒

氷雪

かわぎしと書いて「河岸(かし)」と読みます。文字通りの河の岸という意味以外にも、河岸に立つ魚市場、飲み食い・遊びをする場所、といった意味もあります。《氷雪》さんの句は飲み屋での光景になりますね。そういう銘柄があるのかと探してみたものの、「辛口女子」というお酒は発見できず。探し方が足りないのか、あるいは交わされる会話の中で発された言葉だった可能性もあるか?
“良き”

何首鳥も夜明砂も闇汁の薬味

岡根喬平

さあ、毎度おなじみ「読めへんわ」のコーナーです。闇汁の薬味になるくらいだから、なにかの食べ物ではあるのだろうけど……? 調べてみると「何首鳥(かしゅう)」はツルドクダミの塊根、「夜明砂(やみょうしゃ・やめいしゃ)」はある種のコウモリの糞便を乾燥したもの(!?)であり、どちらも漢方薬の材料だそうです。食べても平気なの!!? 「闇汁」といえば得体のしれないものを入れたり浮いてたりと、時に愉快に滑稽に描かれてきた季語ではありますが、何首鳥と夜明砂はなかなかの破壊力だぜェ……。
“ポイント”

果心居士の幻術の瓜乗せてパフェ

かなかな

幻術の瓜? 記憶のくすぐられるフレーズ……たしか夢枕獏先生の『陰陽師』シリーズに、瓜法師だか瓜仙人だかの登場する小説があった気がするなあ……。

「果心居士(かしんこじ)」は幻術師として知られる人物で、名を知られたのは永禄~天正年間とされています。奈良、京都、大阪などで知られ、枯葉を魚に変えたり、洪水の幻影を見せたり、と様々な伝説が残っているとか。「幻術の瓜」で腹は膨れるんでしょうかねえ……ま、瓜はともかくパフェの部分は現実だから良いのか??

“とてもいい“

下肢靜止不能症候群踊

星埜黴円

漢字だけで作られた一句。実在の病名を持ってくるあたりさすが現役のお医者さんだぜ、黴円先生ェ! 「下肢靜止不能症候群」はレストレスレッグス症候群とか、むずむず脚症候群とも呼ばれるそうです。主に下肢に不快な症状を感じる病気。じっとしていると脚の内側から不快感が起こり、動かすと和らぐのが特徴だとか。知識としては興味深いんだけど、「踊」は取り合わせの意図が露骨すぎはしないだろうか。季語の選択に一考の余地がある気がする。
“ポイント”

花信風明るめの春コート選り

早霧ふう

綺麗なことばですねえ、「花信風(かしんふう)」。春先に花の開くのを知らせる風の意味であり、また、小寒から穀雨までの八気二十四候の各候にはそれぞれ新たな風があるとして、それに応じる花を二十四種あてたもの、という意味もあるのだそうです。へー、素敵。一番の梅花の風から始まり、二十四番は楝花の風、これが終わると初夏が訪れる、とのこと。《早霧ふう》さんが思い描く景色にはなんの花の風が吹いているのかなあ。春コートを選ぶ頃となると、まだ寒さの残る頃の風かしら。

“ポイント”

歌詞隣へも夏山のジャンボリー

赤味噌代

ワ、ワァ……陽の波動……! サマーキャンプとかボーイスカウトではこんな光景が見られるんでしょうか。歌詞をみんなでまわしながら歌って踊るの? なんて溌剌とした夏山……青春……こだまする歌声……わしには強すぎる……。
“とてもいい“

可視光線透過率・雨・ヒヤシンス

銀紙

同じ青春性でも個人的にはこういう陰めいた句の方が心身に馴染みますねえ。じめっと感がすーっと効く……。

「可視光線透過率」とはレンズがどのくらい光を通すかを割合で示したもの。透過率100%だと裸眼と同じで、透過率0%になると全く目に光が入らない真っ暗な状態。この句における可視光線透過率はいくらくらいでしょうか。水耕栽培のヒヤシンスの器の硝子なのかな。雨の薄暗さ、頼りない光がさらに硝子に遮られるという科学的現実。「・」で区切って三者を並列する現代的な表記もチャレンジングです。ヒヤシンスは現代人の繊細な寂しさの象徴のようでもあり。
“ポイント”
 

かしこにて拭く硝子ペン合歓の花

うーみん

硬質な「硝子ペン」を自分の指先がつまんでいるような、触覚を追体験させてくれるのが魅力な一句。手紙をしたため、結びの「かしこ」を記してふっと息をつく。まさに丁寧な生活です。……現実の自分とは大きくかけ離れているんだけど、だからこそ素敵で憧れる……! 夢みるようにふわふわな「合歓の花」の姿、花弁の先に向かうほど鮮やかになっていく淡い紅色。そんな合歓の姿も手紙には書かれているのかもしれない。
“ポイント”
 

下賜されし桜の大樹ひこばゆる

伊藤 恵美

高貴な人が身分の低い人にものを与えることを「下賜」といいます。過去のニュアンスを含んだ「下賜されし」で「大樹」の由来をコンパクトに語る省略の効かせ方、「桜」が季語かと思いきや、その根元から萌え出る「ひこばえ」が主役ですよ、と視点をスライドさせるしたたかさ、切れを作らずに下五を終えて余韻を残す配慮、いずれも高い技量のなせる技です。

毎度思いますが、みんなよくしりとりなんてトンチキな試みから秀句を生み出しますね。すごいわ。(身も蓋もない)
“ポイント”
 
第30回の出題として選んだ句はこちら。

第30回の出題

菓子涼し木陰のごとし風の吹き

のんつむ45号

「涼し」も「ごとし」も終止形。各パーツで切れがある三段切れの形です。ですがその構造によって涼味が際立っています。

季語はあくまでも「涼し」ですが、食べて涼味を感じているとなると、この「菓子」は氷菓かもしれません。「ああ、涼しい」と上五でまず言い切る。中七では「木陰のようである」と言い切る。逆にいえば、木陰にいるわけではないということです。風が吹き、熱を持った肌をいくばくか冷やす。菓子が身体の内から冷やしてくれたことで、ようやく風という外側からのささやかな刺激に気づくことができる。こういった反応を引き出す主役として「涼し」は機能しているのではないか、と。
意図的に作っているのか、偶々なのか? 不思議なバランスで成り立った一句でありました。

ということで、最後の二音は「ふき」でございます。

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう!
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!
 

“とてもいい“