第29回 俳句deしりとり〈序〉|「ばん」②
始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第29回の出題
兼題俳句
雨月の樹さみしきけもの囲ふ番 葦屋蛙城
兼題俳句の最後の二音「ばん」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「ばん」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
バンバンの「いちご白書」に秋時雨
オカメのキイ
バンバンの『いちご白書』をもう一度
伊呂八 久宇
BUMP聴ききっと喜雨のあとなないろ
麦野 光
バンドマンだけはやめとけ旱星
ボイス&フィンガー
バンドマンの耳朶にコインのある寒さ
ツナ好
安定しない職業なイメージが強い「バンドマン」。《ボイス&フィンガー》さんが諭してる一方、《ツナ好》さんは不思議な角度からの描写になってます。耳朶にコインがあるってどういう状況だろう。コインモチーフのピアス? それとも道端で寝てる? 冬の寒さの中で泥酔して倒れてたら相当ヤバいと思う。
バンマスのカウント消えて熱帯夜
水きんくⅡ
バンマスはドラマの君よ夏の恋
銀猫
バンジョーとギターで歌うキャンプ村
碁練者(ごれんじゃー)
バンジョーをかきならすうた草いきれ
だいやま
バンドがあれば楽器もあります。バンジョーは丸い胴を持った弦楽器。アメリカのカントリーミュージックなどに使われる、甲高い軽快な音を奏でる楽器です。「歌う」「かきならす」など、楽器に対していわずもがなな動詞が使われているのがもったいないポイント。
バンジョーとアコーディオンや夜の秋
茂木 りん
バンジョウの音やころがる夏野原
松の六月
いや、想像に任せるだけじゃ足りない! 音の実感を強く出したい! というのであれば、動詞の選び方を工夫する手もあります。《松の六月》さんは「歌う」「かきならす」といった直接的な表現ではなく「ころがる」を採用しました。「バンジョウ」の独特な音色の表現にぴったり。夏野原へと音がころがるように広がっていきます。
バンジョーを弾く園長の跣かな
高橋寅次
少し目線を変えた切り口。直接的な動詞「弾く」を使っていますが、一句を通して描かれているのは「園長の跣(はだし)」に焦点を絞った映像です。音や演奏をメインに据えていない、ということですね。「跣」の軽快な夏の生活感と「バンジョー」の取り合わせが似合います。さすがの玄人。
バンドネオン蛇腹開きて夏の風
三日月なな子
こんな楽器もありました。アコーディオンに似た蛇腹の楽器ですが、鍵盤がボタン型になっているのが特徴。このボタンの数が非常に多く、演奏を習得するのが困難なのだそうです。現在ではアルゼンチンのタンゴを演奏する際に用いられることが多いとか。そういう背景を知ると「夏の風」も異国めいた質感に感じられますなあ。開いた蛇腹にめいっぱい空気を吸い込むバンドネオン。
蟠桃や天女の頬の色にして
宇野翔月
「蟠桃(ばんとう)」は中国原産の桃の一種。扁平型で、別名・座禅桃とも呼ばれます。『西遊記』で孫悟空が食べた不老不死になる桃としても描かれてるとか。「天女の頬の色」の比喩がいかにも中国っぽい雰囲気。
棒々鶏の胡瓜荒々しく刻む
もりたきみ
棒々鶏胡瓜の種が大きくて
緑萌
美味しいよね、「棒々鶏(ばんばんじー)」。そして棒々鶏といえば「胡瓜」なんですねえ。生活実感のある二句です。《緑萌》さんの何気ない描写も味があります。たまにあるよね、ミックスナッツにいれても違和感なさそうなサイズ感の種……。
《③へ続く》