俳句deしりとりの結果発表

第29回 俳句deしりとり〈序〉|「ばん」③

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第29回の出題

兼題俳句

雨月の樹さみしきけもの囲ふ番  葦屋蛙城

兼題俳句の最後の二音「ばん」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「ばん」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

茄切る内縁だっていいじゃない

梅田三五

「ばん」から始まる季語シリーズ。耳慣れない響きですが「蕃茄」とはトマトのことです。上五でスパッと切れたあと、中七下五は口語でさらっと言い放つ作りが等身大な魅力。どれぐらいの年代の人物かによっても味わいが変わるなあ。蕃茄の鮮やかさや酸味が良い方に作用するか、悪い刺激になるものか……。
“良き”

緑やくじ運だけで松本楼

老黒猫

緑やドナーカードの拒否に丸

家守らびすけ

緑や婚礼の締め万歳三唱

岡田きなこ

緑や明るい未来しかないさ

しみず楽翠

緑やタオルに拭ふ杖の先

水須ぽっぽ

綺麗な季語ですよねえ「万緑」。中でも特に好きだったのは《水須ぽっぽ》さんの句。杖の先を濡らしていたのはなんだろう、と想像すると一句から五感が刺激されていきます。道を濡らした雨の名残か、潰した草の汁か。
“良き”

愚節どこでもドアで帰宅する

谷山みつこ

愚節となりの爺にまたやられ

芝香

愚節一等二億円のつま

てんむす

愚節の塩おむすびが塩辛い

春海 凌

エイプリルフールの傍題が「万愚節」。突拍子もない嘘の内容だったり、誰かを騙したり騙されたり、といった描き方が多いですが、《春海 凌》さんは違ったテイスト。淡々と当然の事実を言っているだけなんですが、「万愚節の」と前置きをされると妙な深みが生まれます。哲学的な発見のようですらありますワ。
“良き”

屋閉づスマホ一つですむ御縁

泉幸

またマニアックな季語が出てきたなあ。「番屋閉づ」は初夏の季語。出稼ぎに来ていた渡り漁夫が漁期を終え、寝泊まりしていた番屋を閉じることを言います。歴史的な重みのある季語に対して、中七下五がめちゃくちゃ現代的でギャップに笑うやら苦い顔になるやら。最近は辞職やらなにやらもスマホで済ませてけしからん、みたいな風潮あるもんねえ。
“良き”

春のタンタンの死や献花台

沙魚 とと

神戸市立王子動物園のパンダのタンタンの死はニュースにもなりましたねえ。2024年3月31日の出来事でした。「晩春」は事実に基づいた季語の斡旋でありますね。遅まきながらご冥福をお祈りいたします。
“良き”

夏かな半袖に風夕散歩

クスノさとみ

夏とは涙と汗とミサンガと

森野みつき

夏の忌きみへの挽歌よめぬまゝ

氷雪

夏なり広場の陰にSL車

細川 鮪目

夏の暑さも煮詰まってくる晩夏の頃。《細川 鮪目》さんは晩夏という季語の中に存在する光景をさらっと映像化していて上手い。開かれた広場と陰とのコントラスト、陰にあっても巨体から熱を発する「SL車」の威容。「晩夏なり」の力強い言い切りが内容に似合います。
“良き”

秋のスロープカーや鷹ヶ峰

城ヶ崎文椛

秋や忌日スマホに知らされる

黒田安人

秋やポケットの穴もてあそぶ

西野誓光

晩春、晩夏、ときて晩秋。「晩○○」シリーズにはひとつの季節が終わっていく寂しさみたいなものがありますが、季語の持つ感情の要素とどう距離感をコントロールするかも作者の腕の見せ所。《城ヶ崎文椛》さんのように「晩秋」を単純に時期として捉え、錦に染まる鷹ヶ峰の映像を主役に据える手もあるわけです。個人的には《西野誓光》さんのさりげない欠損と喪失感を感じさせる語りも好き。ぐりぐりしちゃうよね。
“ポイント”

白柚地球は重くとも浮かぶ

葦屋蛙城

変な句だけどこれも好きだったなあ。朱欒(ざぼん)の一種である「晩白柚(ばんぺいゆ)」は巨大な柑橘です。熊本県の特産。知らない人は見たらきっと「でかっ!」と言っちゃうこと請け合いです。爽やかで美味しいのでぜひご賞味あれ。存在感の強い晩白柚の球形と、宇宙空間の暗闇にぽっかり浮かぶ地球との相似が詩になってます。ぽろっとつぶやくこの世の不思議。

“とてもいい“

啼くや湖底に胡粉色のルアー

翡翠工房

嗤ひをり水底の廃タイヤ

鈴白菜実

の月絞めやすそうなきみの首

みづちみわ

「鷭」は水辺に住む鳥。額から嘴にかけての紅色や、笑い声に似た鳴き声が印象的です。《翡翠工房》さんと《鈴白菜実》さんは沈んだ物を描写する点が似通った描き方。水辺の光景としてどちらも沈んでいそうなリアリティが強いですねえ。一方で《みづちみわ》さんは鷭の特徴である笑い声からの発想でしょうか。「きみ」がすわ人間か? と思わせて不穏。「鷭の月」が何を意味するのか読み切れないところもあって悩みます。空の月なのか、はたまた鷭の体の模様なのか……。
“ポイント”

ばんえいの馬の眼清し緑さす

植木彩由

ばんえい馬原野の雄叫び雪煙

立町力二

馬には輓馬の美脚青嵐

夜汽車

漫画家・荒川弘先生が作品中で描いてくださって以来、興味あります、ばんえい競馬。一度生で観てみたいですねえ。1トンもの鉄のソリを引くってどれだけマッシブなんだろう、輓馬って。逞しい機能美としての「美脚」、「青嵐」の力強い取り合わせもグッド。

“ポイント”

犬にならぬ番犬鹿の声

でんでん琴女

犬の春眠不法侵入者

紅紫あやめ

犬の昼寝の脇を宅配便

えりまる

犬の吠えぬ夏の夜空き巣入る

白庵

犬は今要介護いわし雲

香亜沙

動物つながりでお次は「番犬」。だいたいの場合において、番犬が役に立ってくれたって話、聞かないよね。大方は番犬にならないトホホ話として語られてる気がする。それはそれで愛嬌だから良い……のか……? 《香亜沙》さんの句はそんな「番犬」に対しての慈愛の目線が沁みます。地に伏せる犬も天のいわし雲もあんまり動かず、秋という余生の時間を過ごしているんだろうなあ。
“とてもいい“

匠と鷹匠の町雪の果

ナノコタス

鷹匠は季語として聞き馴染みがありますが、「番匠」は初めて聞きました。辞書によると番匠とは大工のこと。元々、中世の建築工匠を指す言葉だったのが変化していき、特に木造の建物を作る職人を指すようになったそうです。「鷹匠」と「雪の果」、二つ季語が入ってはいますが、ここでは「雪の果」が主たる季語と考えたいところ。番匠や鷹匠が語り継がれる歴史ある町なのでありましょう。

“ポイント”

行の王の如くに薔薇を斬る

東風 径

いいねえ、こういう世界観好きですよ。仮に女王だったら『不思議の国のアリス』っぽいけど「蛮行の王」となると……モデルは誰だろうなあ。本当に歴史上にこういう王様が存在しててもおかしくない。「如くに」の力強い直喩が傲慢さも醸し出してグッド。

“ポイント”

上の王動かざる白夜かな

髙田祥聖

王は王でもボードゲームの駒の「王」。さてどんなゲームをしているんだろう。文字面からストレートに考えたら、将棋の王将が真っ先に思い浮かびますが、季語を考えると日本以外の土地での場面と考えても良いかもなあ。チェスのキング? だとしたら日を跨いでのタイトル戦、指し手が夜になって引き上げたあとの夜の光景、なんて読んでも魅力的かも。

“ポイント”

バンダナの勇者と馬車と大花野

中岡秀次

「勇者と馬車と大花野」とくれば、これは旧エニックスの『ドラゴンクエスト』シリーズですね間違いない。……といいつつ、実はわたくしドラクエはあんまり履修していないのです。5と6をスーパーファミコンでクリアしたのと、3を少し触ったくらい? あと、当時公式が発行してた4コママンガ劇場を読みあさってました。懐かしいね。

“ポイント”

伸縮自在の愛(バンジーガム)日焼子の頬引きつける♡

ふるてい

『HUNTER×HUNTER』ですね!! ヒソカ好きだよ!! 何巻だったか、ゴンの頬にバンジーガムつけて引き寄せて殴る場面あったよね。天空闘技場? しかしこれ、ルビ振られてなかったら「ばん」から始まる言葉だと読めなかったろうなあ……くっ、僕もオタクとしてまだまだ未熟だということか……。新刊出るし、HUNTER×HUNTER読み直さないとね!

《④へ続く》

“ポイント”