俳句deしりとりの結果発表

第29回 俳句deしりとり〈序〉|「ばん」④

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第29回の出題

兼題俳句

雨月の樹さみしきけもの囲ふ番  葦屋蛙城

兼題俳句の最後の二音「ばん」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「ばん」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

人にウケなくていい草の花

多数野麻仁男

人にウケなくていい風は秋

里山子

今回のベスト・オブ・そっくりさん。上五中七が「ウケ」の表記まで同じだったり、下五の季語が漢字+助詞+漢字の構成なのも芸術点高い。そっくりな句が生まれてしまうのも、短詩系文学の宿命ってやつですねえ。次回がんばっていこっ!
“良き”

梯山仰ぐ少年榾木燃ゆ

のさら子

福島県の誇る名山「磐梯山」。天に掛かる岩の梯子という意味の名です。「榾」は囲炉裏で燃やす木の枝などのことであり、冬の季語。パチパチ榾の爆ぜる音を側に聞きながら雄々しい磐梯山を見上げている……季語の選択の効果もあり、日本昔ばなしのような趣であります。日本昔ばなしの「手長足長」とかでも登場するんだよね、磐梯山。勝手に親近感を感じておりまする。
“良き”

古焼の急須に新茶ほどけゆく

小川都

あまり焼き物とかには詳しくないのだけど、どこのお土地の品かしら。「万古焼」は「萬古焼」とも書き、現在は三重県四日市市と菰野町が主要な産地となっているそうです。器や茶器などだけではなく、工業製品の型なども作るとか。その歴史は古く、江戸時代中期に桑名の豪商・沼波弄山(ぬなみろうざん)が窯を開いた、とのこと。おお~、背景を知るとこの「急須」も上質で格調高い気がしてきますなあ。新茶の芳香、茶葉のゆるんでいく色彩も美しい。
“良き”

歳が嫌いだったと母八月

ほうちゃん

歳と言わぬ月日や木瓜の花

めぐえっぐ

歳の声の哀しき八月来

伊藤 柚良

バンザイは星飛ぶ言葉白き波

水越千里

いわれてみれば、最近は「万歳」を唱和する機会も減った気がします。戦時中のイメージが呼び起こされる、といった配慮もあるのでしょうかねえ。《水越千里》さんは暗くなりすぎない言葉のチョイスでありつつ、「星飛ぶ」の解釈次第では情緒的にも解釈し得る絶妙なバランスを保っています。
“良き”

バンジージャンプ迫りくる夏の湖

加里かり子

バンジーの渓谷深し雲の峰

清瀬朱磨

人生で一度くらいは経験してみたいバンジージャンプ。こうやって句材として扱ってみると状況の特殊性が良い味を生んでくれる事実に驚きますねえ。「迫りくる」の勢いしかり、その動きの先に「夏の湖」の湖面が見える異常さしかり。一方、《清瀬朱磨》さんは少し距離を取った描き方。「あそこがバンジーの渓谷だよ。今から行くんだよ」なんて予告され、遠景から目的地を見ている状況とも考えられます。よ、予告される方がこええよぉ。
“良き”

回のサヨナラヒット大夕焼

ねこじゃらし

野球でしょうかねえ、「ヒット」とくれば。勝ったのか、負けたのか。読みに迷います。「挽回」したのか、されたのか……。個人的には「大夕焼」という季語の本意を考えると、敗北してしまった悔しさに一票をいれたいところ。
“良き”

バントのサイン出す炎天の十二回

鷹見沢 幸

バントミス詫びる補欠の夏終わる

大月ちとせ

バント失敗車窓の大夕焼

すそのあや

小学生の頃ソフトボールやってましたが、難しいよね「バント」。あんな手に当たりそうなコワイことなんでせなアカンねん! て思ってましたよずっと。頼むからバントのサインを出してくれるな……! とも。だから《大月ちとせ》さんと《すそのあや》さんの句には大いに共感する……。
“ポイント”

石の布陣」と笑う開襟シャツ

万里の森

どんな人が言うかによって信頼度に雲泥の差が生れそうだなあ、この台詞! 「開襟シャツ」は夏の季語「夏シャツ」の傍題です。音数が六音で使いどころが難しいですが、この句ではわざわざ下六にしてでも使った意味がちゃんとありますね。開いた襟元から見える首回りは逞しく陽に焼けている……と映像を想像で補えば、語る言葉にも力強さが備わります。パワーは大事。

“とてもいい“

全の出発受験票いずこ

瀬央ありさ

万全ちゃうやん! 受験の時って緊張のあまりに逆に大事なもの忘れちゃったりするのはあるあるではあるけど、ツライな~(笑)。「いずこ」で終わる肩透かし感が俳諧味あって愉快であります。
“ポイント”

書の字読み慣れてきて卒業す

常然

先に登場した《瀬央ありさ》さんの句と続けて読むと趣深い。ちゃんと入学できててえらいヨ。受験うまくいったからこそ卒業があるんだなあ、うんうん。「読み慣れてきて」の緩い接続から季語へと着地するのが等身大なよろしさに繋がります。

“ポイント”

君と逃避行の日茄子の花

若宮 鈴音

名字ですね。たしかこの字は「はなわ」と読むんじゃなかったっけ? 調べてみると名字としては複数の読み方があるようです。はなわ、ばん、はにわ、こう、かく、かさ、など。名字の由来としては清和天皇や桓武天皇の子孫に連なるとか。おお~、なんだか「逃避行」がやんごとなきドラマに思えてきたぞ! 盛夏の頃に咲く茄子の花の淡い紫も高貴な気すらしてくるじゃないか~!
“とてもいい“

走の箱根駅伝渡す水

りぷさりす園芸店

走者緑雨気づいて小休止

穴山紗知子

走と盲のロープに染みる汗

ひろ笑い

走の「きずな」ロープへ風光れ

芦幸

マラソンや駅伝などの「伴走」。テレビ放送でも映っているのを目にしたことがありますね。伴走する人にも同等かそれ以上の体力が必要なんじゃないの? とずっと気になってる。すごいよねえ。盲の方のマラソンについては《ひろ笑い》さんと《芦幸》さんの句をみて初めて知りました。調べてみると、伴走ロープは「きずな」と呼ばれ、1メートルほどの長さのものを輪にして使うようです。「風光れ」が着実に走り抜けていく姿を思わせます。

“ポイント”

創膏10枚妻の分の胼

樋ノ口一翁

創膏デロリゆだちを走り抜け

帝菜

ばんそこの女々しき指の海水浴

北里有李

身近な小道具として「絆創膏」も句材になります。《帝菜》さんのでろりんっとした剥がれ具合、わかるなあ。《北里有李》さんは「ばんそこ」と短縮した形。正確な言葉ではないけど、普段口頭で喋る時にはこんな言い方しますよねえ。文字面を表現したい内容に合わせて調節するのもひとつの技術であります。

“ポイント”

バンズより溢るるチーズ夏休み

美湖

ハンバーガーのパンの部分をバンズと呼びます。チーズバーガーってなんであんなに美味しそうに見えるんだろうね。上五中七がしっかり映像化できていて、ハンバーガーショップのポスターみたいにキマってます。「夏休み」が溌剌と明るい。子どもが食べてる場面かなあ、とも想像を補わせてくれます。

“ポイント”

鐘を合図につどひきて端居

青木りんどう

田舎はこんな感じだったよねえ、夕方になると。仕事帰りの人だったり、ご飯作ったのを仲良いお隣に持っていったり。「端居」の大らかさが時代の手触りを伝えてくれます。うちの実家である愛媛県愛南町ではよく、魚のお煮付けとか持っていったり持ってきて下さったりして、祖母が端居してましたよ。煮炊きの匂いが周りの家からもしてきたりして。懐かしいね。

“ポイント”

婚や椅子ふたつ置く虹の裾

かなかな

少し難しい型を使った句。上五で抽象名詞「晩婚」を詠嘆の「や」で強調しています。「虹の裾」もやや観念的な表現ではあるのですが、中七「椅子ふたつ置く」の具体性が映像を確保してくれました。お二人の関係性が見えてくるような、静かな充足感のある一句。

“ポイント”

地消失果ては海へと夕花野

よはく

人の手の入っていない場所へと踏み入る高揚と寂しさが絶妙に入り混じります。「花野」は秋の季語。秋の草花が咲き乱れる光景は華やかなだけでなく、その後に訪れる衰退を秘めた寂しさも感じさせます。夕方の花野ともなればなおさら。その花野のさらに先に広がっている海も夕日色に染まっているのだろうなあ。パッと光景が広がる中七が鮮やかです。

ちなみに「番地」は法務局が定める地番制度で住所を表示する場合の言葉だそうです。誰かに所有されている土地には全て地番がついていて、国有地の場合は広大な区画が一つの地番で管理されている場合もあるとか。意識したことなかったけど、花野にも番地がついてるんだろうな。ちょっと新鮮な驚き。

“ポイント”

物の名を羚羊は食んでゐる

鄙野蕎麦の芽

岩手にて、一度だけ野生の羚羊と遭遇したことがあります。しきりに口を動かしてもっしゃもっしゃ草食べてたのが印象的でした。休耕田ぽかったけど、地元的にはいいのかな、あれ……。「万物の名」という把握はやや強引なところもありますが、羚羊らしい無心さ、貪欲さには通じるところがあります。

“ポイント”
第31回の出題として選んだ句はこちら。

第31回の出題

物に心臓ベゴニア痛そうに開く

澤村DAZZA

上五を九音と大きく字余りし、中七下五で韻律を取り戻しています。字余りしてでも詰め込みたかった前半の詩語が作者の表現したい核。科学的事実とは異なるけども、「万物に心臓があるのだ」という把握には共感を覚えます。八百万の神を信じる日本に我々が生きているからなのかもなあ。

ベゴニアは色も形もバリエーションに富んでいます。《澤村DAZZA》さんのイメージはどんなタイプのベゴニアだろう。個人的には花びらが大ぶりで蕊が鮮やかな黄色をしたベゴニアを思いました。痛そうに開いたベゴニアの中心で、心臓のように晒された蕊。ぞくっとするような詩の世界に心掴まれます。

ということで、最後の二音は「らく」でございます。

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう!
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!

“とてもいい“