第46回「深夜のドライブイン」《ハシ坊と学ぼう!⑩》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
外れくじの買い出しビール二ケース
央泉
「『二(に)ケース』は漢数字です」と作者のコメント。
「外れくじ」なのに「買い出し」? 「ビール」が当たったけど、狙っていた高額商品ではなかった? 微妙に細部がみえてこなくて、読みを迷いました。
せうゆめく夜空の街や夏の月
だがし菓子
面白い句想です。「空」は必要ですか。
鱗粉を撒いて舞ひ落つ誘蛾灯
むげつ空
まさにそうなんですが、「誘蛾灯」という季語の中に、上五中七の映像は入っていると考えてよいかと。ここからが、一物仕立ての勝負どころです。
残業の造る夜景と空蝉と
風友
「空蝉」がどんなところに、どんな位置にあるのか。それが、すぐには思い浮かびにくいのが、ささやかな難点です。少し考えてみて下さい。
駐車場モデル立ちする誰がサンダル
深紅王
なるほど、残されているサンダルなんですね。この語順だと、モデル立ちしている人が、サンダルを履いている? のかと、混乱してしまいます。発想は面白いので、是非再考してみましょう。
蜘蛛の囲やきらきらよべのながれぼし
渋谷晶
やろうとしていることは理解できるのですが、平仮名で書かれた中七下五が、季語「蜘蛛の囲」にどこまで寄り添っているか。そこが、不安要素です。
季重なり
夏至夜風切なき帰省も子は無邪気
藤村煌永
季語なし
錫の皿「ニモ」に会う夢叶った日
若宮 鈴音
うーむ、気持ちは分かりますが、季語は欲しい。
山越えし峠の茶屋の吾亦紅
とぜん
「山越えし」と説明しなくても、「峠の茶屋の」とあれば、山を越えてきたのかなと想像できます。上五を再考しましょう。
来ぬ秋や吾子のおにぎり食う荷待ち
ひょこたん
「おにぎり」を食べているのは誰? 調べがぎゃくしゃくしているので、語順を考えてみましょう。
季語なし
旅鳥も寄りし亡父のドライブイン
ひょこたん
「旅鳥」では季語にならないのでは?
蒟蒻芋軒先で売る田舎茶屋
かりん
「『蒟蒻芋』の位置を迷いました。最初に置いた方がインパクトがあるか、田舎茶屋からズームアップしていくほうがよいのか……」と作者のコメント。
語順はこれでよいと思いますよ。あと一点、「軒先で」の「で」です。「軒先に」とする選択肢もあります。印象がどう変わるか、研究してみましょう。
円錐に膨るるモカや雪解富士
謙久
「第43回『花屋さん内のカフェ』〈円錐に膨るるモカや稲光〉の推敲句です。季語が動くというご指摘でした」と作者のコメント。
季語が替わると、「モカ」の香りまで変化しますね。すぐに季語を決定する必要はないので、「円錐に膨るるモカや」というフレーズを、脳の片隅に寝かしておいて下さい。そのうち、誰がなんといってもこの季語だ! と思える季語との邂逅があります。私も、十年以上寝かせていたフレーズが、これぞという季語に出会う体験があります。
入場料は若さ夏の深夜のレストラン
矢口知
「入場料」とは、何に入るための? 「入場料は若さ」は、若くないと入りにくい「夏の深夜のドライブイン」という意味? そのあたりが、読み取りにくいのが気になります。
梅雨寒の夜車駆る母無言
ビバリベルテ
「夜」の後に、「や」を入れて詠嘆してみましょう。カットも切り替わりますし、「夜(よ)や」と読めるので音数の問題もありません。
季語なし
長距離の寒夜の夜食レジに列
沙魚 とと
書こうとしている内容を、かなりコンパクトに文字化できています。「寒夜」「夜食」どちらも季語ではありますが、強弱をつける手立てを考えてみましょう。
満車告ぐ光る文字板月の雨
沙魚 とと
銀蠅もネオンの一つ泥を這う
無花果邪無
やろうとしていることは面白いと思います。ただ、「銀蠅もネオンの一つ」は、夜に光っているものとしてこの二つを取り合わせているのだろうと推測できるので、その銀蠅が「泥を這う」状況に違和感がうまれます。
ダンボール開く短夜の寝床かな
千鳥城
「緯度が高く、冬が長く寒いカナダのホームレスの方々にとって、夏は過ごしやすく病気になりにくい季節。敷くものがあるだけで幸せです」と作者のコメント。
なるほど、そのための段ボールなのですね。この句の場合、「かな」の詠嘆は外したほうがよさそうです。
ゴミ出して消えたネオンへ赤トンボ
かねすえ
「朝、店じまいして帰る時に赤トンボを見て、季節の変化を感じた事を詠みました」と作者のコメント。
作者コメントにある「朝」という時間帯は入れたいですね。季語は「赤蜻蛉」「赤とんぼ」と、カタカナにしないのが(特別な意図がない限りは)定石ではあります。
降車ボタンを女児へ春の男児より
小鳥ひすい
「第42回『降車ボタン』《並》にとっていただいた〈女児にゆずる男児の春の降車ボタン〉の推敲句です。『春』を『降車ボタン』ではなく『男児』につけることで、春のやわらかい空気感がより出るのではないかと思いました」と作者のコメント。
自分が表現したい内容に、言葉を寄せていく作業。これが推敲です。作者の意図としては、「春のやわらかい空気感」を表現したいとのことですが、「女児」「男児」の響きがちょっと硬い感じがします。別の表現で、「女の子に譲ったのかも」と想像させることはできそうですよ。
添削例
降車ボタンをゆずって春の男の子
熱帯夜ネオンサインに群るアメ車
夢佐礼亭 甘蕉