第46回「深夜のドライブイン」《ハシ坊と学ぼう!⑪》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
人目ひく電光ニュース梅雨晴間
縦縞の烏瓜
「人の流れが止まると、つい読んでしまいますが、流れが動きだすと続きも読まず、そのままに……」と作者のコメント。
作者コメントにある感じ方にリアリティがあります。「人目ひく」ではなく、「人の流れが止まると、つい読んでしまいますが、流れが動きだすと続きも読まず」というニュアンスが表現できるとベストなのですが。
二十五時ダイナー白し八月尽
たかね雪
ここは字余りになっても「二十五時の」として、「ダイナー」に意味を繋げるのが得策です。このままだと、三段切れっぽく調べがブチブチ切れてしまっているからです。更に、季語は動く可能性があります。「八月」はなかなか複雑な季語ですので、熟考してみましょう。
不夜城の窓へ凄じ火蛾の舞
揣摩文文
惜しいのは、最後の「~の舞」という擬人化。季語「火蛾」には、この舞っているかのような動きも情報としてすでに入っていると考えて下さい。
季語なし
ざる二枚頼む夜中のドライブイン
詠華
「片田舎のドライブインにはこんな光景があるのかなと、想像しました」と作者のコメント。
光景はよく分かります。ただ、「ざる」は季語にはなりませんね。「新蕎麦」ならば季語なのですが……。
夕焼の駐車場今夜も車中泊
高橋玄彩
季語なし
煽られて逃げ込む深夜ドライブイン
笑酔
明確な季語は欲しいですね。
季語なし
潮騒の眠りを誘う旅の宿
詠野孔球
「潮騒」は季語ではないですね。
帰省して再会避けてしまう夜
広瀬康
ドラマがありますね。「再会を避けて帰省の夜は○○○」という感じで、整えることも可能です。
短夜やエンジン止めてうどんかな
白祐
「~や~かな」と切字が重なるのは、感動の焦点がブレるとして嫌われます。
帰省中限定メニューで夕食に
メグ
「~で~に」という助詞の使い方が散文的。具体的に、どんなメニューなのか知りたいですね。
季重なり
誘蛾灯か夏の夜のドライブイン
竹葉子
「誘蛾灯」「夏の夜」どちらも季語ですね。
夜寒さの喪主に寄り添ふドリンクバー
石田将仁
「喪主に寄り添ふドリンクバー」には独自性、リアリティもあります。「夜寒さの」という表現にささやかな違和感。ここを一考して下されば、すぐに人選です。
誘蛾灯朝には果てる命群れ
人生の空から
「誘蛾灯」という季語に対して、中七下五は季語の説明になっています。
高速バスは流星天の川を行く
かよいみち
比喩として使っている「流星」と、季語として使っている「天の川」の位置が近すぎるのが難点です。「バスは流星」とでも書けば、高速で走っているであろうことは想像できます。全体を再構成してみましょう。
満天に夏の星見ゆドライブイン
瀬戸一歩
「満天の夏の星」「満天の夏星」とでも書けば、「見ゆ」は不要ですね。
山風や夫とすうどん釣り忍
成実
花吹雪立ってはしゃがむ黒タイツ
素々 なゆな
表現したい光景は、はっきりと脳裏に残っていることはよく分かります。「花弁を掴もうとするのですが、ちっとも掴めない様子」を書きたいのであれば、「黒タイツ」は諦めて、その様子だけに焦点を絞る方法もあります。「黒タイツから、背が伸びて、もう可愛い小さな女の子がいなくなった」寂しさを詠みたいのであれば、そこに焦点を絞ることもできます。俳句は十七音しかないので、あれもこれも一挙に表現することは難しいのです。「立ってはしゃがむ黒タイツ」というフレーズを生かすのであれば、私なら、季語を再考するかなと思います。
別れ話終えて拉麺風爽か
あいいろ小紋
「実際には、縁故で雇われた職場に辞表を出した後のことでしたが、すっきりした秋の風は割り切るのを手伝ってくれました」と作者のコメント。
「別れ話」とするよりは、「辞表提出」とでもしたほうが、季語がより生きます。
番犬は五頭海の家に夜半
巻野きゃりこ
「海岸沿いの小さな駐車場に、野犬のような風貌の犬達が繋がれていて一斉にこちらへ吠えてきて、すごく怖かったことがあります。あの犬達も夜には静かに眠っているのだろうか。そこから昼間は賑やかな海の家に、夜になるとどこからともなく犬達が連れてこられて、繋がれていたりしたら面白いと妄想しました。字足らずですが『夜半(やわ)』と読ませたいです」と作者のコメント。
なるほど、そういう光景を詠みたいのですね。「夜半」を「やわ」と読ませるのは、無理があります。「よわ」でよいでしょう。音数を調整して、助詞も少し。
添削例
番犬は五頭や海の家の夜半
ヘッドライトひとつのみの夜蝉生まる
さら紗
「ヘッドライト」がひとつのみ灯っているのですね。これは、車を運転しているのでしょうか。それとも、蝉が羽化するのを見ようと照らしているのでしょうか。「ヘッドライトひとつのみの夜」の「夜」という時間軸が長すぎるので、そのあたりの読みを迷います。
熱帯魚呆けつジュークボックスへ
ただ地蔵
「幼い頃は、せいぜい金魚。突然、ネオンテトラなどの熱帯魚が現れて、それはそれは美しい幻想的な世界へ連れて行かれました。そんなものは岬の上のレストランにしかなく、呆けるような顔で眺めていたものです。同時に最先端の音楽を聞こうと、コインを投げ入れていたジュークボックス。私にとっては『カッコいい』ものの代表でした」と作者のコメント。
なるほど、「呆けつ」は、自分自身なのですね。「熱帯魚」は取り合わせた季語なのですね。表現したい内容はよいと思います。「呆ける」という自分の感情は述べず、この光景を切り取ってみましょう。作者コメントの中にあった要素「コイン」を入れてみましょうか。
添削例
熱帯魚コインをジュークボックスへ
コウモリアナこの先樹海夏の果
美月 舞桜