第46回「深夜のドライブイン」《ハシ坊と学ぼう!⑫》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
夏夜の国道助手席に黒喪服
ゆきのこ
「祖母が亡くなったと連絡を受けた時のことを詠みました。迷ったのは『夏の夜』を『夏夜』としてよいのか、また『夏の夜』は、明るい愉しさを感じさせる、柔らかな風懐が宿ると歳時記にありました。季語には気持ちを託すと聞きましたが、敢えて対比する季語にしてもよいのでしょうか。喪服は、色喪服と黒喪服があるということなので、字数合わせと、近い親族という意味で『黒』をつけました」と作者のコメント。
丁寧に考えておられる姿勢がよいと思います。音数の問題ですが、「なつよのこくどう」前半が八音、「じょしゅせきにくろもふく」後半が十音、足して十八音になります。それならば、〈夏の夜の国道助手席に喪服〉でよいのではないかと。
上り月東二マイルマックの灯
丸山和泉
この「二マイル」は、敢えて「2マイル」にしたほうがよさそうです。「2マイル」で人選。
右手に歯ぶらし夏の夜の車窓
すいかの種
「寝台車に乗ってることがわかるといいのですが……」と作者のコメント。
やはり、「寝台車」と書くべきです。
添削例
歯ぶらしを手に夏の夜の寝台車
さくらんぼ箱入りのよね道の駅
玲花
「旅先で立ち寄った道の駅。産地でお安めなのとお土産だからという気持ちから、パックではなくもちろん箱のを選ぶわよね、という句です。語順と三段切れのような点が気になってはいます」と作者のコメント。
なるほど、そういう意味なのですね。「さくらんぼは箱入りを選る」「さくらんぼは箱入りを買う」とかとすれば、ご心配の点は回避できます。
トラックで五頭の牛を夜半の夏
ルージュ
助詞を再考。「トラックに五頭の牛や」となれば、季語を更に熟考したくなってきます。
流星やドライブインに波の跡
桂月
荷を運ぶトラック野郎旱星
原島ちび助
「夏の熱帯夜が続く暑い夜、長距離トラックのドライバーは今宵も荷物を運ぶ為に走ります。そんなドライバーを応援するかのように、空には赤々と旱星が輝いている。そんな光景を詠みました」と作者のコメント。
通常「荷を運ぶ」のが「トラック野郎」です。上五、もうひとひねりしてみましょう。
海亀や碧のカーテン開けて来る
海泡
「初めてスキンダイビングをした思い出を詠みました。その日は透明度が低く7-8m先が、青と緑のカーテンのように視界が消えました。突然視界に入る海亀が、緑のカーテンを開けて入ってきてまた出ていきました」と作者のコメント。
なるほど、「碧のカーテン」は比喩なんですね。この比喩は、あまり得策ではなさそう。せっかくの実体験なのですから、これは徹底したいですね。突然視界に入ってくる海亀の様子を描写して下さい。
墓参終え魂共にcafe集う
団塊のユキコ
発想は面白いのですが、季語「墓参」が主役になっているかどうか。ちょっと悩ましいところです。
ほほ染むる牽牛織女今宵晴れ
永華
「ほほ染むる」は要一考。この凡人ワードを成功させるのは、至難の業です。
牛洗うコントラバスのごと二の腕
黛素らん(ミンコフスキー改め)
語順が逆かも。
添削例
牛洗う二の腕コントラバスのごと
季重なり
隙間風ひとり夜長のドライブイン
おさむし
「隙間風」は冬の季語です。
海港や白南風の鳴る道の駅
いくたドロップ
「海港や」の詠嘆と、「白南風」の季語の取り合わせがよいです。「海港」も「道の駅」も場所に関する情報なので、下五で損をしています。人選は目の前ですよ。
季語なし
熱帯魚のよう人のただようドライブイン
桜貝
「熱帯魚」は夏の季語ですが、比喩に使うと季語としての鮮度は落ちます。
短夜やジュークボックスからラグタイム
山内彩月
取り合わせ、佳いですね。後半の調べがぐずぐずするので、音数調整したいね。
夏あざみネオンを照らす水たまり
ヒマラヤで平謝り
そのように受け止めてもらえると、私もやりがいがあります。
そして、この句の良いところは、水たまりにネオンが映っているのではなく、水たまりがネオンを照らす、と書いてみた点です。となると、後の確認は、「取り合わせた季語の成否」。「夏あざみ」だと、水たまりに近い位置の映像。表記の上では「夏薊」と書いたほうが、一句が引き締まるかも。いずれにしても、人選です。
冷奴夕方なのに喫茶店
花はな
なるほど、そういう意味での「冷奴」なのですね。ならば、「冷奴」は後半にもってきたほうが分かりやすいかな。
短夜や別れを告げる電話あり
智幸子
相手が「夫」であることを明確にすると、独自性が強まります。
夏果や闇く欠く「ド」とライブイン
曽根朋朗
「ネオンライトが切れて映っていないやつを、たまに見かけます。案外面白い単語が浮かんでいる事も。でも、夏の終わりはやり残したことやら、持ち越し案件のあの彼女大丈夫かなとか、何だか楽しかった事の反面を思ってしまいます」と作者のコメント。
「闇く欠く」の部分は、どう解釈したらよいのか、迷いました。
自販機の明かりに集ふわたしと蛾
しろぴー
「夜、街灯もあまりない国道を車で走っていたら、ドライブインの自販機の明かりが見えました。吸い寄せられるように行くと、すでに蛾が何匹か集まっていました。私も仲間に入れてもらったような、同志のような気がしました」と作者のコメント。
「集ふ」という動詞に思い入れがあるのならば、下五を「蛾と私」あるいは「蛾と我と」とすべきでしょう。
熱帯夜ドライブインで涼をとり
とまま
「~涼をとり」と説明しなくても、想像できます。
七夕にドライブインに徒歩で行く
船橋おじじさん
上五を「七夕や」とでもすれば、助詞「に」の重なりを回避できます。
烏賊船の漁り火海に落ちた星
三日月 星子
「いかぶねのいさりび」は九音ですが、「烏賊船の火」「烏賊釣の火」とすれば六音です。全体を再考してみましょう。