第46回「深夜のドライブイン」《ハシ坊と学ぼう!⑬》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
夏海べ地産地消の車中泊
の菊
「夏海べ」は、夏の海辺の意でしょうか。中七が説明になっているのも要一考です。
短夜の誰でもトイレおもつ替え
山尾政弘
「おもつ」? 「おむつ」の変換ミス?
即死かなヘッドライトにぶつかる蛾
ヨシキ浜
「夜中に車を運転していると、ビシバシと何かがぶつかる音がします。帰宅してヘッドライトを見てみると、蛾等がぶつかったあとの死骸で車が汚くなっていました」と作者のコメント。
中七下五は描写できていますが、上五は、説明です。あとひと踏ん張りですね。
不夜城でつかの間眠る帰省子や
竜酔
下五「~や」の着地はバランスが難しい型です。語順を一考してみましょう。
梅田ダンジョン抜けて月光のすすぐ空
迷照 りん句
「中七に出来ませんでした」と作者のコメント。
「抜けて」の「て」を外したら、人選です。
トラックの窓より美しき素足かな
芦幸
若々しきネオン飾りやかき氷
烈稚詠
「この前、ネオン飾りのある飲食店に行ったのですが、客層が随分若くて引け目を感じてしまいました。若い時は平らげられたかき氷も口飽きする年齢になってしまい、若さへのコンプレックスを抱えています。そういった自分の現状を一句にしたかったのですが、この句でそれが分かるか……情報が多いでしょうか?」と作者のコメント。
文字面から何が読み取れるかというと……「若々しきネオン飾り」の店だなあ! ここで食べる「かき氷」の溌溂とした冷たさと甘さ。こんな感じでしょうか。引け目やコンプレックスまでは、なかなか読み取り難いかと。
夏怒濤ネオンも客もくたびれり
殻ひな
「兼題写真を写実しようとしましたが、難しかったです。写真に『SEA SIDE』とあるので、海の近くかなと思いました。ネオンがLEDっぽい光り方ですが、フォントや配置はなんとなく昭和っぽいと思いました」と作者のコメント。
下五は「くたびれて」でよいでしょう。季語「夏怒涛」の荒波の光景が、ベストかどうか。再考してみましょう。
遠距離の身体を癒す朝焼けや
みーこ39
下五「~や」の着地は、難しい型です。語順を一考してみましょう。「~を癒す」は説明ですから、ここは不要です。
季重なり
深夜二時鳥のさえずり白夜かな
西木いぐあな
「さえずり」は春の季語です。
満点もテールライトも光る夏
槇 まこと
「満点」は、百点満点の意? 「満天」の変換ミス?
上弦の闇へとアボリジニの下車
俊恵ほぼ爺
「大型バスでオーストラリアを一周しました。 月明かりが有るか無いかの真っ暗なアウトバック。バスは突然止まります。僅かにブッシュが見えるだけの、灯りなど何処にも無い闇へ、アボリジニは平然と降りて行きます」と作者のコメント。
表現したい内容はよいと思います。ただ、この字面では、単に「下車」したのだな……としか読めません。
この胸に響く拍手やソーダ水
充子
「第43回『花屋さん内のカフェ』〈我が胸に響く拍手やソーダ水〉の推敲句です。駄目だったら《ハシ坊と学ぼう!》でご指導希望です」と作者のコメント。
読者としては、この「拍手」の種類が知りたいです。単語一つのヒントでよいので。
麦酒妻ドライブインはお茶夫
きらら
言いたいことは分かるのですが、季語「麦酒」が主役になっているとは言い難く……。
後家さんとふ変化おるらし夏館
まさし
「老婆心ながら、本句では『変化(へんげ)』は、妖怪・化け物の意に近いです」と作者のコメント。
「夏館」という季語の本意が発揮されているか否か。再考してみましょう。
ネオン街蝶の死に場所ここにあり
葉月庵郁斗
季語なし
零時過ぎテールランプの熱帯魚
向日葵子
「熱帯魚」は夏の季語ですが、この句の場合は比喩に使われているのではないかと。季語を比喩に使うと、季語としての鮮度は落ちます。
季語なし
着陸のライトの先はネオン街
しげ尾
季語が欲しいですね。
立ち枯れの向日葵おりドライブイン
ぺんぺんの母
クレーンに初日『世情』を聞き終える。
ふづきかみな
「大学を続けるかどうか悩みながら、大晦日に故郷に向かう。夜が明け始め、高速道路のサービスエリアから、立ち並ぶクレーンに初日が上るのが見える。中島みゆきの『世情』を聞き終わったら出発しようか」と作者のコメント。
音楽なのでしたら、「聴き」としてもよいですね。最後の丸は、不要です。
暗闇に遠雷を聞く夜行バス
錆鉄こじゃみ
「遠雷を聞く夜行バス」というフレーズはよいですね。上五「暗闇に」は、最終的に不要になります。「○○○○や」と、思い切った型に挑戦してみてもよいですね。
季語なし
真夜中のドライブインへ虫のごと
藤田ほむこ
「虫」は秋の季語ですが、比喩として使われると、季語としての鮮度は愕然と落ちます。
ナンバープレートは同郷風薫る
紫桜
語順を一考して、調べを整えましょう。
夏暁や残りの珈琲飲み干す
宇久令々