俳句deしりとりの結果発表

第30回 俳句deしりとり〈序〉|「ふき」②

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第30回の出題

兼題俳句

菓子涼し木陰のごとし風の吹き  のんつむ45号

兼題俳句の最後の二音「ふき」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「ふき」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

吹き替えか字幕か、まずはソーダ水

瀬央ありさ

吹き替えか字幕か短夜のミニバン

春野ぷりん

吹き替えのディズニーアニメこどもの日

くぅ

吹き替えの声優代わりつくつくし

潮汐子

替えの変わったアニメソーダ水

天雅

替のパズーソウルの雲は夏

加里かり子

吹き替えの違和感拭う熱帯夜

那烏夜雲

吹き替えの声みな故人夜の秋

かなかな

映画、好きです。個人的には原則字幕派なんですが、ディズニーアニメをはじめ、吹き替えが自然と身のまわりにあるタイプの映画もありますねえ。ディズニーアニメーション版の『アラジン』(1992年/ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ監督)は、旧キャストバージョン吹き替えが好きだったんだけど、事情が事情だけに廃盤なのがとてもとても悲しい……。《加里かり子》さんはスタジオジブリの『天空の城ラピュタ』(1986年/宮﨑駿監督)。外国版のDVD買って吹き替え聞き比べたりするの楽しいよね。あと、《かなかな》さんの句も心に刺さる……いまだに藤原啓治さんロス引きずってるし……。

オタクしかわからない話になってきつつあるからこの辺で切り上げましょう、ハイ。
“良き”

の薹昨日の今はあったのに

めぐえっぐ

のじい傘も疊まで立ち話

老蘇Y

の姑花婚式は明日

宇治 鴇眞

の薹元野良猫の白い皿

九月だんご

「ふき」から始まる季語シリーズ。早春の味覚でもあります「蕗の薹」と、その傍題「蕗のじい」「蕗の姑」がきております。茎が伸びて花が咲ききった状態を蕗のじい、蕗の姑と呼びます。使い方によっては俳諧味や愉快さも乗せられる傍題の妙味があります。四句の中だと《九月だんご》さんの句が好きだなあ。情報を無理に盛ろうとせず「元野良猫」だけで関係性を語りつつ、「白い皿」の置かれた地面と傍らに生えてきた蕗の薹とを映像化しています。十七音という小さな器に対するバランス感覚がこなれています。
“ポイント”

味噌や酒と息子と苦笑い

蕃茄

味噌や声変はりしてから好きに

小野蒼水

味噌や父に欠かせぬ酒の友

詠華

味噌嘗めてみる二軒目も敬語

うーみん

「蕗の薹」はジャンルとしては春・植物の季語だけど、その蕗の薹を調理したものである「蕗味噌」は春の生活・人事の季語になります。蕗の薹の苦味が酒のあてに丁度良いのか、お酒との取り合わせはよく見る句材であります。《うーみん》さんはそのイメージを下敷きにしつつ、言葉の省略が効いていて巧みです。打ち解けないのは自分自身か、相手の方か、どっちかなあ。

“とてもいい“

を剥き髭の生えたるお母さん

⑦パパ

を剥くばあちゃんの指ぎゅうしたい

ほうちゃん

を剥く指先黒き野の匂ひ

とも女

抱え靴を鳴らして婆ちゃんち

泉幸

ふきの葉に受ける漬けもん畦の茶事

花屋英利

の雨喉腫れし日の駐輪場

空豆

蕗の薹は蕗の花茎ですが、やがて伸びた葉柄は「蕗」として親しまれます。山菜としてお馴染みの夏の季語。山菜として皮を剥く場面を思い浮かべる人もいれば、収穫、葉の生えている状態、そこに降る雨といった光景まで描き方の幅が広いですね。その分、自分の描きたい景をしっかり定めて使う必要がありそう。
“ポイント”

拭きあげる教室秋の風さらり

茂木 りん

拭きかけの皿を残して揚花火

悠美子

拭き上げて手放す今朝の冷蔵庫

ユリノキ

拭き上げて水の依代なる切子

ツナ好

拭き尽くすトイレ明日は秋彼岸

不二自然

拭き掃除今朝も西瓜の種ひとつ

絵夢衷子

拭き掃除途中の廊下ねむの花

田原うた

再びの動詞、今度は「拭き」です。最初に紹介した「吹き」シリーズと同じように、複合動詞化したり、名詞化したりしています。《ユリノキ》さん、《ツナ好》さんは共に複合動詞「拭き上げ」を使っています。どっちも良いねえ。「上げ」の達成感と、その感慨を引き継いで中七へと接続する「て」の接続が効果的。

“ポイント”

噴き溢す七草粥もなゐの国

沼野大統領

噴き上がる紙登山の崖のトイレ

どこにでもいる田中

ものによりますが、動詞には動作の方向性を伴ったものもあります。先ほどの「拭き」は水平方向・垂直方向両方の読みが成立しますが、こちらの「噴き」は原則垂直方向の動作。結果、器からこぼれだすような動作にもつながっていきます。《沼野大統領》さんも《どこにでもいる田中》さんも、趣はそれぞれ違っていますが面白い。「七草粥」が噴き溢れてしまう小さな異変と「なゐの国」日本との対比の落差が魅力。一方、登山の崖のトイレは……こんなとこ、ホントにあるよなあ……というトホホな迫力にやられます。なんでそんなことに!? ていうくらい嵩高く噴き上がる、荒ぶったトイレがありありと思い浮かびまする。

《③へ続く》
“とてもいい“