俳句deしりとりの結果発表

第30回 俳句deしりとり〈序〉|「ふき」④

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俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第30回の出題

兼題俳句

菓子涼し木陰のごとし風の吹き  のんつむ45号

兼題俳句の最後の二音「ふき」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「ふき」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

不羈の人よ駆れカフカスの峰雲へ

ひでやん

不羈の気概忘るな少年雲の峰

中岡秀次

読めない字、今回もきましたねえ。これで「ふき」と読むの? 意味は、物事に束縛されないで行動が自由気ままであること、または、才能などが並はずれていて枠からはみ出すこと、だそうです。句の内容的には《ひでやん》さんが前者の意味、《中岡秀次》さんが後者の意味と理解するのが妥当かしら。ちなみに「カフカス」とはコーカサス地方を指すそうです。ステップや山岳にそびえる雄大な峰雲。
“良き”

不揮発性メモリー死す月の蝕

沖庭乃剛也

不揮発性メモリに残す夏休み

白発中三連単

これも知らない単語だなあ。IT用語の一種で、電源を切っても記憶が保持されるメモリ、だそうです。ハードディスクみたいにデータを保存しておく部分だと理解したら良いんだろうか。科学的な専門用語を詩の言葉として使うのはなかなかの高難度です。しかも音数が九音ないし十音ともなればなおさら難物でありますなあ。
“ポイント”

不帰投点試す竜天に登る

葛西のぶ子

いわゆるポイント・オブ・ノーリターンってやつですな。その地点を越えると元の場所に戻れなくなる地点を意味します。もともとは航空用語だったそうです。「竜天に登る」との取り合わせも、言葉の成立の背景も踏まえた上での選択なのかしら。

“とてもいい“

不器男忌や無二の罅ある飯茶碗

有村自懐

不器男忌の我を一人にする夜雨

竹田むべ

愛媛出身の俳人・芝不器男の命日が「不器男忌」。夭折の俳人として知られ、昭和5年2月24日に26歳の若さで生涯を閉じました。《竹田むべ》さんの句は芝不器男の代表句のひとつでもある〈あなたなる夜雨の葛のあなたかな〉のオマージュでありましょう。《有村自懐》さんの句の「飯茶碗」は縁の品物として実在してたりするのかなあ。「無二の」がいかにも由来ありげで興味をそそられます。
“ポイント”

富貴港の古びたヨット蒼き日々

かみん

富貴寄が好物でした雪起こし

加賀屋斗的

富貴豆を漆器に美しき夏料理

岡根喬平

ほうほう、港があって産物があって、有名なお土地なのかしら。……と思って調べたら、どうもそれぞれ別の場所らしい。「富貴港」は愛知の港、「富貴寄」は銀座のお菓子、「富貴豆」は山形のお菓子、と出てきました。銀座の「富貴寄」は正確には一文字目が「冨」なんですが、意味としては同じとみて良さそう。「富貴豆」はお店によって「ふうきまめ」とも読むようですが、しりとり的には「ふきまめ」かなあ。

違うお土地なのに別の言葉が使われてる……となると、「富貴」という日本語がもともと存在して、各者がそれぞれ名付けに使った、ってことなのかしら。辞書をみると「富貴」は「ふうき」ともいい、金持ちで地位や身分が高いことを表す、と記述があります。なーるほど、繁栄の祈りを込めて名付けるには縁起の良さそうな言葉だねえ。

“ポイント”

付記せよと講師熱弁夏期講座

オカメのキイ

附記痛し父よりたまに来る手紙

国東町子

付記済ませ紙一枚の秋彼岸

こきん

附記に怖いと書かれたぞソーダ水

宇野翔月

付記とのみ 月の綺麗な夜でした

苫野とまや

本文に付け加えて書き記すこと、また、その部分が「付記」。「附記」も意味は同じです。受験勉強や父からの手紙に付記があるのは状況がわかりやすいんですが、《宇野翔月》さんはいったいなにがあったんだろう……新人指導でもしてたら怖がられた? 厳しさも時には必要なんだ……悔しいだろうが仕方ないんだ……。《苫野とまや》さんは童話か児童文学の一場面のような不思議な味わい。一文字分の空白がそう思わせるのかも。宮沢賢治っぽい世界観。
 
“とてもいい“

布教用の冊子の奥の蚊のうなり

鄙野蕎麦の芽

断り切れず受け取ってしまった宗教の布教冊子で蚊を打った……んだけど、仕留められずにまだ生きてる蚊のうなりが聞こえてる、と。「冊子」といいつつ、打ち殺しきれないほどの薄いページ数なんだろうなあ。身も蓋もない使い方に思わず笑ってしまいますワ。
“とてもいい“

布巾干す春愁を陽に濯がせて

かときち

なにかを干している光景は句材としてよくある素材ではあります。規模によっては壮観でもありますし、干している身からすると一仕事終えた達成感なんかも湧いてくるわけです。《かときち》さんの句は「濯がせて」が魅力。物理的には既に洗って干している状態なんだけど、心理的には今まさに陽光によって春愁が濯がれてゆくのでしょう。下五に切れを作らず「て」と流す形も内容に似合っています。
“とてもいい“

替やぷつぷ口より竹の釘

佐藤さらこ

一瞬「ぷつぷ」ってなに? と思うんだけど、釘を吐き出す音が歴史的仮名遣いで書かれているんですね。春の季語である「葺替」も昨今目にする機会は愕然と減りました。唾に端が少し濡れた竹の釘が、次々と役目を果たしに吐き出されていく様が脳裏に思い浮かびます。リズミカルに続けられる熟練の仕事を思わせて楽しげな一句。
“とてもいい“
第32回の出題として選んだ句はこちら。

第32回の出題

不機嫌な石鹸玉ほど生き延びる

ぞんぬ

あえて多数派だった「不機嫌」から次回兼題を選びました。

石鹼玉遊びは多くの人がしたことあると思うけど、やたらと長生きする石鹼玉、たまにありますよね。地面や木にぶつかるかと思いきや、ふいっと避けるように動いて、その先でもまた避けて。他の石鹼玉とくっつくこともなく、ひとつだけ違った方向に飛んで行ったりして。その実感を、あれは不機嫌なんだよ、だから生き延びるんだよ、と言い切ってしまうことで詩を発生させています。どこまでこの子は飛ぶんだろうねえ、と見送りたくなりますな。

ということで、最後の二音は「びる」でございます。

しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう!
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!

“とてもいい“