第47回「コスモスと浅間山」《ハシ坊と学ぼう!⑫》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
コスモスの湖浸る河馬浅間山
比良山
「コスモス」の「湖」、「河馬」のような「浅間」。比喩なのだろうと思うのですが、比喩が二つ重なると、お互いを殺し合いがちです。再考してみましょう。
たおやかな日よ雲よ浅間よコスモスよ
あすか風
調べが壊れてしまうので、一つ外しましょう。
添削例
たおやかな雲よ浅間よコスモスよ
コスモスの色には格のありぬべし
⑦パパ
「コスモス畑の花の色はどこもピンク、白、赤のバランスが同じに見えるのです。これは神が決めたコスモスの格(法則)があるに違いありません」と作者のコメント。
この発想がよいです。これを一句として結球させたいですね。ただ、この書き方だと、一つ一つの色に格がある、つまりピンクが一番上とか下とかのカーストがある……と読めてしまいます。
コスモスやシングルママのカフェ燦燦
森野みつき
そうだね、「燦燦」だと並選です。「コスモス」あるいは「秋桜」と「シングルマザー」を取り合わせようとしているのならば、「カフェ」という小奇麗な場所の小奇麗な人物を想定するよりは、もう少しリアリティのあるシングルマザーを書いてあげて欲しいと思います。
浅間を越えて来しかこの風花は
稲垣加代子
ほんの少しの違いですが……
添削例
浅間山越え来しかこの風花は
コスモスや仕送りの便り鉛筆
びんごおもて
逆にしたほうが、調べが落ち着くか。
添削例
仕送りの便り鉛筆あきざくら
山伏の歩度の軽やか秋出水
粳としこ
上五中七はよいのですが、季語はベストでしょうか?
コスモスや細かい雨の降り初めぬ
みずきの
文語に統一して、「細かき」とすれば、人選です。
満天の星と交信のごとコスモス
広島 しずか80歳
この場合は、「~のごと」とせず、「交信」と言い切ったほうが、詩の純度が高くなります。
添削例
満天の星と交信コスモスは
コスモスや鍬も器用に修道女
赤味噌代
「も」を「を」にすれば、人選です。
コスモスも揺れて警察音楽隊
赤味噌代
「も」を「の」にすれば、人選です。
秋桜や迷いの一つ消えにけり
堀尾みほ
「や」「けり」切字が重なってしまいました。どちらかを外すのが、定石です。
モンスターいなす電話や秋の峰
ルーミイ
「モンスターペアレントやモンスターカスタマーなど色々いて、どうせ何を言っても怒る人はいなすしかなく、やれやれと思いつつ窓の外の山を見る、という感じです。(そういうとき『悪態句集』を読むと気が晴れます。ありがとうございます。)ただ、室内にいるのか室外にいるのか、わからない俳句になっている気もします」と作者のコメント。
『悪態句集』を用途どおりに使っていただいてありがとう~(笑)。
さて、この句ですが、一読した時「秋の峰」を「秋の蜂」と読んで、人選のボタンを押しました。作者の意図とは違ったものになってしまいますが、「秋の蜂」ぐらいならば、室内から窓際の感じになるかもしれません。
浅間山すそにコシモスちらしらしたり
ブチ猫
下五は入力ミス? オノマトペ?
限界の集落コスモス咲き乱る
国東町子
「私の住む大分県国東市も過疎化が進み、限界集落といわれそうな集落が増えてきました。そんなところだからこそ、休耕田にコスモスを植えて、村興しを頑張っています」と作者のコメント。
「限界集落」ならば、そのように書くべきでしょう。「限界の集落」は、意味がビミョウになります。
山好きの削りし足裏爽やかに
百瀬はな
「硬くなったタコを削ります」と作者のコメント。
「硬くなったタコ」なら、そのように書いたほうがよいですね。季語との取り合わせ、よいと思いますよ。
信濃路や鼻歌の妻秋桜
やっちゃん日記
「山口百恵の『秋桜(コスモス)』を口ずさみながら、夫婦で信濃路から浅間山に向かう光景を詠みました」と作者のコメント。
「信濃路や/鼻歌の妻/秋桜」 斜め線のところで意味が切れるため、調べも切れます。語順の問題ですね。
添削例
鼻歌の妻や信濃の秋桜
コスモスや群れ咲く笑みのたゆとふて
井上玲子
下五は「たゆたひて」となるのが正しいですね。これならば並選。
旧軽に夏だけ開く天麩羅屋
浜 けい
「旧軽に」ではなく、「旧軽や」とすれば、人選です。
空青く映えるコスモス即アップ
英曙
「青空とコスモスの見事なマッチ、皆さんにも見て欲しくてすぐアップしました」と作者のコメント。
「即アップ」したという事実の報告になっています。むしろ、「青空とコスモスの見事なマッチ」を描写してみましょう。
コスモスは陰キャじゃないの細マッチョ
つんちゃん
「コスモスは何か物寂しげで弱いイメージがあるが、案外打たれ強いです」と作者のコメント。
その感じ方はよいと思いますが、なぜそう感じたのか。そこを描写してみましょう。
日和雨通り過ぎけり秋桜
原 唯之介
「けり」ではなく「たり」で、人選。
叔母の栗飯や大竈は百年物
黒猫
「2023年10月投稿の〈節くれ立った叔母の手よ栗御飯の香よ〉(並) の推敲です。昔、地主だった叔母の家の台所は土間で、大きな竈が二つありました。その竈で叔母が炊いてくれた栗飯が、今まで食べたご馳走の中で一番美味しく感じます」と作者のコメント。
調べと季語を主役にするという二点を考慮すると、「大」を外すのが得策かと。これなら人選。