第47回「コスモスと浅間山」《ハシ坊と学ぼう!⑭》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
ドクターイエロー前ボケはコスモス
よしあずま
「近くにあるコスモスの丘という所で、ドクターイエローが走るのを詠みたかったのですが、五七五にまとめきれませんでした」と作者のコメント。
「前ボケ」とは? 手前にコスモスがあって、写真を撮ったらボケていた? そこらへんが分かり難いです。ドクターイエローとコスモスの取り合わせだけで、十分俳句になりますよ。
死に人の髭剃り守る白百合や
音羽ナイル
「俳句の為にコスモスの種を蒔き観察と思いきや、義父が突然亡くなった。遺体はヒゲがのびている。剃りたいといえば傷をつけるからやめて、と止められた。新品の髭剃りでならと許可をもらい、行ったが上手くいかない。本人愛用の電気カミソリで剃った。一部始終を見守るのは、棺桶に入れる為の白百合。花は私を冷静にしてくれる。『守る(まぼる)』と読みます」と作者のコメント。
人生のなかの忘れ難いエピソードですね。佳い句として完成させたいものです。この句の場合でしたら、「守る」が説明になります。
亡くなった方の髭を剃るという事実と、「百合」を取り合わせるだけで十分俳句になります。下五の「~や」という着地はバランスが取り難い型なので、ここは要一考ですね。
コスモスの花あそび浅間火山性地震
成実
材料が多すぎます。「コスモス」と「火山性地震」のみで、十分一句になるだけの材料がありますよ。
アイリスや天地を結ぶ塩買いに
素々 なゆな
なるほど、そっちに飛びましたか。現実の光景として描くだけで、十分に魅力のある取り合わせだと思うのですが。
※推敲句を送る場合は、原句を書き添えて下さいね。
靴底をつつく溶岩残暑かな
笠井あさと
下五の「かな」が効いてないので、「残暑」の体言止めで終われるように、二音分工夫してみましょう。
乳青色のお釜一周雲の峰
玲花
「五十年近く前の浅間山。お釜の周りを歩いている写真が残っています。夏の家族旅行の写真で、きっと青空で夏らしい入道雲も見えたのではないかと思いました」と作者のコメント。
確かに火口を「お釜」と呼びますが、この句の場合は、「火口」と書いたほうが、光景が立ち上がりやすいですね。〈乳青色の火口一周雲の峰〉ならば、人選です。
腕に涼感じて駆けるコスモスの道
出羽泉まっくす
「群馬と長野の県境にある内山峠は、コスモス街道として有名です。群馬県から長野県に入り、佐久市に向けて下っていく道の両側に、その季節にはコスモスが延々と咲き連なっています。私は三十年ほど前の若いころ、バイクに乗っていました。峠道に入ると、ハンドルを握る両腕に、涼しさを感じます。そしてコスモスが満開の街道へ。佐久にいる親戚を訪ねるのが楽しみな、内山峠を通るツーリングルートでした」と作者のコメント。
「腕に涼」とあれば、「感じる」は不要ですね。
色消えて秋桜そよぐ逆光の美
四季
ご投句いただいた二句ともに、同じ句材でした。どちらも、下五「逆光の美」が説明になっています。一考しましょう。
まだ温き骨抱えゆく花野
世子
下五は「花野かな」あるいは「大花野」とすれば、調べが整うのですが。
歯を噛んで見上げる我と秋桜と
風輝
「落ち込みそうな気持ちに耐えて、必死に上を向く足元で、秋桜は風に身をまかせて揺れています」と作者のコメント。
「歯を噛んで見上げる」という状況が、イマイチ分かり難い。崖を上っている? 精神的な意味?
コスモスの顔を上手に幕開き
アツヒコ
「『上手(かみて)』と読みます。兼題写真、山を背景にコスモスが一斉に(向かって)右に向いているのが、舞台幕開きのポーズのようです」と作者のコメント。
「かみて」とは読みにくいですね。「上手(じょうず)に」描いた? と読む人がほとんどではないでしょうか。
ハレルヤと記す葉裏よコスモスよ
摂田屋 酵道
「ハレルヤと記す」と「コスモス」の取り合わせ、よいですね。「葉裏」に記している? ここの意味をどう受け止めればよいのか、迷いました。
コスモスや呼吸器外す指震ふ
ジョルジュ
「医師の指示で、自宅介護の母の呼吸器を外す時は緊張しました」と作者のコメント。
どういう状況なのか、読みを迷いました。まさか、安楽死? と読んでしまう人もでてくるのではないかと。そうではないと分かるような表現を工夫したいですね。
コスモスや置き去りにせり浅間山
西田武
「コスモスや/置き去りにせり/浅間山」斜め線のところですが、「~や」の切字、「~せり」の終止形で切れているので、完全なる三段切れです。どちらか一か所を繋ぎましょう。
花瓶の縁涼し凭れる茎しなる
木村奈須
「一輪挿しに挿した花が、花瓶の縁の冷たさに涼を求めているような気がした、という句です」と作者のコメント。
この「花瓶の縁」に焦点をあわせて描写を試みる姿勢がよいです。季語は「涼し」なので、「凭れる」「しなる」の動詞が、季語に対して損をしているかと。佳い句になりますから、時間をかけて推敲してみましょう。
蟻の担ぐ菓子片にジャム浅間霽る
唯野音景楽
語順を変えるとよさそうですね。
添削例
浅間霽る蟻担ぐ菓子片にジャム
御朱印のツァに写るよ花野風
蕃茄
「最近若者にも御朱印集めは人気のようですが、ツァーとなると、私を含めそれなりにお歳を重ねた方々ばかりでした。神社仏閣巡りの後の、清々しい記念撮影の時の様子です」と作者のコメント。
「ツアー」なのだろうとは思いますが、「~に写るよ」あたりの措辞は、工夫の余地があるだろうと。中七を再考してみましょう。
赫き山浄瑠璃の世や曼珠沙華
老蘇Y
「赫き山/浄瑠璃の世や/曼珠沙華」斜め線の部分で、意味が切れてしまうので、全体がブツブツとした調べになってしまいました。
長き夜を噴火のニュース満つ独居
たまさもち
句材はよいですね。「満つ」がベストかどうか。これが最後のブラッシュアップですね。
コスモスや揺れて夕餉を覗きけり
ピンクアメジスト
「や」「けり」切字が重なりました。俳句では、感動の焦点がブレるということで嫌われます。
欠伸して涙目で見る鰯雲
小花風美子
「『して』が説明っぽいでしょうか?」と作者のコメント。
そうですね。「欠伸の涙」と書けば、十分伝わります。これだけで、音数がずいぶん節約できますね。
影踏み兄に敵はず秋桜
シナモンティー
「影踏みは」ならば、人選です。
赤とんぼ浅間の峰に舞い昇る
竜酔
赤とんぼの描写として、下五「舞い昇る」は要一考。
コスモスや病む姉の背抜きしこと
入江みを
語順は逆ですね。
添削例
病む姉の背を抜きし日や秋桜
コスモスへ四肢を預けて華胥の国
嶋村らぴ
「『華胥の国に遊ぶ』という言葉を知り、華胥の国を俳句で使ってみたい! と思い作りました。花の中で寝るのは類想だろうと思いつつ、挑戦してみたかった……」と作者のコメント。
気持ちは分かります。が、「華胥の国」という言葉に甘えずして、この感覚を表現できると、季語「コスモス」は主役として一句の世界に命を得ることができると考えます。この句は「華胥の国」という言葉を使いたいがために、「コスモス」を当ててきたのではないかと思わせるものがあります。より高い次元を目指して下さい。
空高く浅間山粧うピンク
海野ちきまる
兼題写真を見てない人は、この「ピンク」を朝焼け? と疑問に思うかと。そのあたりを一考してみましょう。