第47回「コスモスと浅間山」《ハシ坊と学ぼう!⑮》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
コスモスの薄明しばし蝶の夢
たかみたかみ
「夜明け直前のコスモスを詠みたくて、白い花が浮かぶとか考えていたら、蝶の夢のようだなと思ったので、そのまま詠みました。夜明け前を、明け、あかつき、黎明、あけぼの、あさぼらけ、早暁などいろいろ当てはめて、『薄明』にしました。薄明にすると、夜明けだけでなく日没と受け取られる可能性もあるかと思いましたが、コスモスの揺れる感じに合う気がして、『薄明』を選びました」と作者のコメント。
上五中七はよいと思います。下五「蝶の夢」という措辞は、情趣にながれてしまったのではないか。「胡蝶の夢」のような言葉には、既視感もちらつきます。
耐えた夏二十余年喝采の佐渡
熊つれあいく
「浅間山から群馬県富岡製糸場を思い、今年(2024年)、世界遺産登録となった佐渡金山のことを詠みたいなと思いました」と作者のコメント。
これが、世界遺産登録のことだと、読み解くのは少々難しい。このような出来事を俳句にするには、超難易度。まずは、目の前の光景を切り取るところから、俳筋力をつけていきましょう。
山眠る錆びつく鉄球別荘よ
六月風マンダリン
あの事件を知らない人たちにとっては、「鉄球」の意味が伝わらないでしょう。今回、浅間山荘事件を素材とした句が、それなりにありましたが、このような過去の事件を俳句にするのは、かなり高度な挑戦です。成功している句もあるので、参照して下さい。
夜の秋ペディキュアの先欠けにけり
雨野理多
下五は「欠けてゐる」あるいは「欠けてをり」ぐらいのニュアンスでよいのではないかと。
こすもすや風の褥となりにけり
由紀子
「や」「けり」切字が二つ入りました。感動の焦点がブレるという意味で、俳句では嫌われます。どちらか一つを外してみましょう。
のら猫の鳴き声遠くコスモス野
すずきあんず
「コスモス野」は、少々寸詰まりな表現。
添削例
コスモスの野や野良猫の声とおく
こすもすの揺れたる花弁山なぞり
雪客
こすもすの揺れた花弁が、山をなぞっているかのようだ……という意味でしょうか。だとすれば、「花弁」とまで書かなくてもよいでしょう。
白風や雲の流れに追ふ花弁
雪客
何が、あるいは誰が「花弁」を追っているのか? 読みを迷いました。。
スターターのポニテ火薬香秋の晴
咲織
材料が少し多いのです。十七音という器は、「季語」と「あと一つの要素」があれば、ちょうどよい感じが満たされます。例えば、「ポニーテールのスターター」と季語、「火薬の匂い」と季語、という感じです。
山頂へ吹き上ぐ風や秋桜
おかだ卯月
中七「吹き上ぐ」は「風」に接続するのだと思われますが、それならば「吹き上ぐる」になります。この情報も含めて、その複合動詞がどこまで必要かも考えてみましょう。
コスモスそよぐ坂パンク自転車重し
太之方もり子
「重し」と書かなくても、読者は十分想像してくれますよ。語順を考えてみましょう。
新涼の浅間山見つ露天の湯
藤子
「見つ」は不要です。語順も含めて一考してみましょう。
サスペンス崖のコスモス揺れるだけ
べにりんご
「頭の中に火曜サスペンス劇場のメロディーが流れています。崖の上でいさかいがあり、一人は崖の下へ。犯人を知っているのはコスモスだけ、というイメージで詠みました」と作者のコメント。
気持ちは分かります(笑)。この句、上五を、季語ではない四音の名詞に切字「や」の五音にすると、俄然良い句になります。色々やってみましょう。
盆終へて市電に独り周回す
千里
「第42回『降車ボタン』《ハシ坊と学ぼう!》で〈盆過ぐる市電に一人一巡り〉に丁寧な指導を頂き、有難うございました。ご指摘は二か所でしたが、もう一か所(一人⇒独り)気づきましたので、再度投稿いたしました」と作者のコメント。
丁寧によく考えましたね。上五「盆終えて」を「盆過ぎの」とすれば、人選です。
涼しさや山肌薄く刺さる岩
津々うらら
「歳時記で『涼し』を調べていた際、『人の心の揺れを表現する。』との記載があり、それをふまえて『涼し』を用いた句を作りたいと挑戦しました。山肌に岩々が少しだけ刺さり、崩れそうなところを登る姿と合わせました」と作者のコメント。
色々と挑戦したのだと理解しました。ただ、字面そのものを読んだ時に、上五の「涼しさや」は、人の心の揺れという類いのものではなく、率直な涼しさと読まれるのではないかと。少なくとも、私はそのようにしか読めませんでした。「山肌」に刺さったように見える「岩」の映像は理解できますが、「薄く」という描写も一考の必要がありそうです。とはいえ、自分で挑戦してみたいことを見出すことは、とても大切な心構え。自分に負荷をかけてこその、俳筋力トレーニングです。
こすもすのすには優しいu入れて
音羽実朱夏
「私が高校生のとき、合唱部で『コスモスをあげよう』という曲を歌っていました。その時に『コスモス』の発音の仕方を丁寧にしようと指導していたことを思い出して作りました」と作者のコメント。
なるほど、そういうことですか。ならば、「こすもすのす」の「す」は、カギカッコつけた方が分かりやすいかな。
溶岩を這ふ数多の根やまぬ夕立
白秋千
「溶岩の上に根付いた木々の根が溶岩を這っている。乾いた根に夕立がやまない」と作者のコメント。
上五中七の光景に、夕立が降ってるだけで、句の材料としては十分ではないかと。下五「やまぬ」という時間経過が必要なのかどうか。
秋桜や揺れて火山の咳鎮む
灯呂
「『咳』は冬の季語だと思いつつ、どうしても使いたく、また比喩でもあり……思い切って使ってみました!」と作者のコメント。
おっしゃる通りではありますが、「火山」の噴火を「咳」に比喩するのは、リアリティという意味で、一考の余地があるかと。
還暦やコスモスの野で読む中也
かなかな
一点のみ。「野で」ではなく、「野に」とすれば、人選です。この場合の「で」と「に」の違いについて考察してみましょう。
告知され色失せし街に紫陽花
あおみどり
「第20回『散歩中の紫陽花』並選の〈告知され色無き街に紫陽花や〉を推敲した句です」と作者のコメント。
下五の「や」の着地の推敲。そこに気づいたのは第一関門クリアですね。さて、次の推敲ポイントは、全体の構造が散文の語順になっている点です。例えば、こんな語順はどうですか?
添削例
色失せし街や告知の日の紫陽花
秋桜問わず語りに独り言
明甫
「問わず語り」は、辞書には「人がたずねないのに、自分から語りだすこと。また、ひとりごと。」との解説があります。中七下五これでよいでしょうか。
稲妻のみるみる囲み浅間山
きたくま
「群馬は雷も多いところですので、取り合わせてみました」と作者のコメント。
「稲妻」の特性を考えたとき、「囲み」という表現に違和感をおぼえます。
コスモスや鬼の待ち伏す浅間山
立石神流
中七は「鬼待ち伏せる」とすれば、並選です。
秋高し母の肺に影二つ
種月 いつか
「母の肺には」とすれば、音数が合います。これならば、人選。
ぽい破れ逃げる流金恋の果て
銀猫
今、気づきました。「琉金」は、サンズイではなく、オウヘンですね。漢字を変えると、ひとまず並選。
冷房の効いた部屋で見る自然
こはる
この「自然」とは何でしょう? 具体的に書いてみましょう。
老いぼれの膝とコスモス晴るゝなり
白沢ポピー
「と」という助詞が気になります。
添削例
老いぼれの膝やコスモス晴れわたる