第31回 俳句deしりとり〈序〉|「らく」①
始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第31回の出題
兼題俳句
万物に心臓ベゴニア痛そうに開く 澤村DAZZA
兼題俳句の最後の二音「らく」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「らく」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
楽な方を選んで生きて秋の蝿
十月小萩
楽になる薬や鵙の贄となる
紅紫あやめ
「楽になる薬」=麻薬など不穏なものと読むと偏った鑑賞になるけど、持病を抑えたり、基礎体調を整える漢方薬などを想定するとだいぶマイルドになります。とはいえ、「鵙の贄」の生々しい死が不穏寄りの読みにつながりやすくしてはいます。作者の狙いはやっぱり不穏ラインかねえ。
楽々と跨ぐ昼寝の三途川
ガリゾー
待て待て、それ渡ったらアカンやつや!!(笑) 飄々とした言葉のチョイスが醸し出す俳諧味がいいねえ。「楽々」や季語「昼寝」ももちろんだけど、「跨ぐ」も何気にいい仕事をしています。跨げちゃうくらいの規模の小さい三途の川。
らくらくホン苛つく父の夏の昼
小花風美子
らくらくフォンを固辞せし我や雲の峰
あま門
らくらくホンを滑らかに指生身魂
ユリノキ
高齢者層向けの製品として展開されているらくらくホン。アイコンが大きくて押しやすかったり、機能がシンプルでわかりやすいのが売りみたいです。とはいえ、らくらくホンへの印象は句を見る限り三者三様のようですねえ。いらつきや固辞が夏の力強さと取り合わされる一方、《ユリノキ》さんの「生身魂」は涼やかな賢人の手つきのようで妙にかっこいい。
らくらじと楽書きノート百日紅
トウ甘藻
ラクスルの俳句名刺や小鳥来る
一井かおり
楽のみのみづたおやかに震災忌
笑笑うさぎ
らく呑みの口の茶渋や秋湿り
すみっこ忘牛
楽隠居したいしたいと蝸牛
あねもねワンヲ
楽隠居するはずでした稲穂波
茂木 りん
楽隠居見果てぬ夢となる晩夏
落花生の花
楽隠居なる夢見ては百日紅
槇 まこと
みんなの憧れ、楽隠居。そりゃあできるもんならしたいよねえ。近年はFIREなんていう経済的な自立と早期リタイアを目指す生き方も注目されるようになりましたが、楽隠居すらできない世の中で早期リタイアだァ!? けっ!! てならない? なるよね? 見果てぬ夢として明日もともに生きていきましょう、えいえいおー。
楽隠居はじめましたと夏見舞
佐藤さらこ
楽隠居緑の奥に茄子の花
九月だんご
楽隠居磊落爺の鹿踊
里山まさを
ワタクシの浅ましい羨望? やっかみ? はさておき、《里山まさを》さんの展開の仕方は上手い。磊落は気が大きくおおらかで、小さいことにはこだわらないこと。楽隠居しつつ、集まりがあれば出ていって地域の鹿踊のお世話役したり、自分自身手本に踊ってたりするのかもしれませんなあ。「楽」「磊落」と「ら」の音で韻を踏むのも技あり一本。
楽寝なる老後資金はなく酷暑
さ乙女龍チヨ
楽寝はのんびりと気楽に寝ること。クーラーだの電気代だの考えると冷房もかけづらいし、そうなるとおちおち昼寝もできやしない。嗚呼、厳しきかな酷暑。嗚呼、世知辛きかな老後資金。楽寝に置き換えつつ、昼寝という季語の実態を現代的に描いているという点でも興味深いですね。なぜ「昼寝」が夏の季語かというと、夏の日中の疲れを凌ぐために昼寝をしたことから。酷暑の昼にぐったりと横たわる我々はまさに季語の中で生きているのですなあ……。
楽助の女物なる汗拭い
朗子
《②へ続く》