俳句deしりとりの結果発表

第31回 俳句deしりとり〈序〉|「らく」②

俳句deしりとり
俳句deしりとり〈序〉結果発表!

始めに

皆さんこんにちは。俳句deしりとり〈序〉のお時間です。

出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
“良き”

第31回の出題

兼題俳句

万物に心臓ベゴニア痛そうに開く  澤村DAZZA

兼題俳句の最後の二音「らく」の音で始まる俳句を作りましょう。

 


※「らく」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。

園めける慰霊の森や黒揚羽

伊藤 恵美

園や夕陽朝陽を見る花野

メグ

園は消えて西瓜の残さるる

けーい〇

園の園丁になりたし秋の薔薇

中岡秀次

楽から始まる一般名詞シリーズ。美しい憧れや幻想を伴う「楽園」はいろんな場面でお目にかかる表現ですが、かなり使い方が難しいと感じています。自分で句にしてみようとしても、上っ面だけになりがちというか、ねえ……。どんな「楽園」なのか作者と読み手の間に明確なビジョンを共有しにくいことが原因なのかもしれないなあ。その点、《中岡秀次》さんの句は空想と現実のバランスがちょうど良い塩梅。現実に存在する丹精込めた秋の薔薇の美しさと、同じくらい満ち足りた薔薇が園全体に無数に広がっているような空想を許容してくれる「楽園」という言葉の懐の深さがグッド。ずっとその空間を愛し続けたい意志の表れとしての「園丁」も素朴で素敵な願望。  
“良き”

天の署名微醺の夏の月

くるぽー

実は利用したことなくて自信がないのですが、楽天ってあの大手ショッピングサイト? 署名運動とかやるのかなあ。web署名的な? あるいは、楽天の荷物が届いたのでほろ酔いのまま玄関にサインをしに出ていって……という読みも成立しますか。そっちの方が読みとしては自然な気はする。その場合、「楽天の」が悩みどころではあります。かといって誤読を防ぐために「受け取りの」とか「宅配の」としてしまうと「楽天」の字面が持つなにかしら良いものな印象が損なわれてしまうし……うーん、悩ましい。 
“ポイント”

市へ舟の通いし湖や春

阿部八富利

市楽座仔馬の列の砂埃

澤村DAZZA

市楽座目の赤くない兎

とひの花穂

「楽市楽座」は戦国時代から近世初期にかけて行われた商業政策のこと。新興商人の自由営業を許し、領地を繁栄させました。学生時代に習ったよねえ、懐かしい。《阿部八富利》さん、《澤村DAZZA》さんが楽市楽座への導線の光景を水陸から描写しているのに対し、《とひの花穂》さんは当時の町人になりきったような語りが意外な切り口。見世物小屋とまではいかないけど、珍しいモノが市に並んでるのをざわざわと見に集まってくる人のざわめきの中心に「目の赤くない兎」がいるんじゃないかしら。

“とてもいい“

焼の後の紅焔秋の宵

くさもち

陶器のひとつである「楽焼」の製造は千利休の指導によって長次郎が創始したそうです。茶の湯とかかわりの深い陶器なんですねえ。……と思ったら、素人が趣味などでつくる低い火度で焼いた陶器の指す言葉でもあるそうな。うーん、この句の場合どっちかなあ。前者で読めば高雅な職人の風情だけど、後者だと個人の素朴な満足感といった感じ。「秋の宵」はどっちの解釈も許容するだけに、悩みが深い。 

“ポイント”

ラクレットチーズとろりと冬の窓

古都 鈴

ラクレットどばどば初夏の紙皿へ

雨野理多

ラクレット艶々とろり纏う薯

のりのりこ

ラクレット蕩ける愛の日の女子会

天雅

美味しそ~……。ラクレットチーズはスイスのチーズです。半分に切ったラクレットチーズの塊を斜めに構え、切り口を炙ってとろけた部分をいただきます。パンにも野菜にも合います。見た目にも迫力があってまさに、映え、ってやつ。 

私事ながら10月1日よりわたくしダイエットしておりましてですね。チーズ。食べたいね。すごく。
“とてもいい“

酸菌摂れば快腸処暑の節

牛乳符鈴

うーん、君はいったいナニモノだ? 「育む」とか「快腸」とか、なにがしか良い働きをしてくれそうな菌の類ではありそうだけど。ざっくりと調べたところ、酪酸菌は人の大腸内に生息する善玉菌の一種なのだそうです。腸内で酪酸菌が作り出す酪酸なるものが諸々の健康に良いのだとか。ふーむ、今のわたくしに必要そうなモノでありますな。処暑は時候の季語なので「の節」はなくても意味が通りそうなのがややもったいない。
“良き”

ラクトースオペロン取捨選択の夏

夜汽車

………(調べてる間)………………うん、調べたけどわからん!! 高校の生物科目で学ぶナニカであり、「遺伝子の発現調節」に関するものだけなのはわかった!! 句としては進路か科目の取捨選択が背景にあるんだろうとは理解できるんだけど、どこまで「ラクトースオベロン」が効いてるかが判断つかないなあ……すまぬ……。
“ポイント”

ラクに水ボドルム染める大夕焼

はま木蓮

これも知らないなあ。「ラク」もわからなければ「ボドルム」もわかりませんワ。 調べてみると「ラク」はトルコ生まれの蒸留酒、「ボドルム」はトルコの都市の名前だそうです。ラクはよく飲まれるお酒のひとつで、水割りが基本のスタイル。ラクを水で割ると白く濁るんですって。ほほー、面白い! なにが起きているか理解できると、ラクの白と大夕焼の茜色との対比も鮮やかでいいですねえ。 

“とてもいい“

雁の型は瓢や秋麗

渥美こぶこ

雁を四条通りに求む秋

若山 夏巳

雁のざらざら待宵の痛み

あなぐまはる

雁のほろほろほろぶ雪蛍

三浦海栗

よく見知ったお菓子のひとつであります「落雁」。形の工夫も見ていて楽しいのですが、独特の崩れていくような食感も特徴です。《三浦海栗》さんは食感の「ほろほろ」を「ほろぶ」という別の動詞へとスライドさせていく音の仕組みも楽しい。「雪蛍」の頼りなさや白い粒のような姿も、口の中で崩れていく落雁の姿とイメージがつながります。上手い。 
“ポイント”

雁を割る母せわし実家かな

源早苗

雁を手に持ち供え仏壇に

雁のほろほろもう暮れてしまった

絵夢衷子

ちょっと扱いの微妙な例もありました。夏の季語に「麦落雁」がありますが、これは新麦を使うため。となると、一年中存在する通常の「落雁」にどれだけ季感があるか、季語と認識して良いか? と考えると個人的には疑問が残ります。「でも歳時記に載ってました!」という声もあるかもしれませんが、歳時記に載ってる「落雁」は動物の「雁」の傍題なんじゃないかなあ。もしお二人の句が動物の雁だとしたら、北へと帰っていく雁をとっ捕まえて割ったり手づかみで仏壇に供えていることになるわけで、ちょっと、いや、かなりコワイ。 

《絵夢衷子》さんも「落雁のほろほろ」としていることを考えると、お菓子の落雁を意識しているものと思われます。ちょっと変則的な形ではありますが、冬の季語「暮早し」を「もう暮れてしまった」と変化させて使っているのかなあ。

“ポイント”

柿舎の灯りともれり納め句座

このみ杏仁

柿舎や蓑笠あれと去来の忌

ゆきえ

「落柿舎(らくししゃ)」と読みます。芭蕉の門人である去来が住んだ庵であり、現在も京都の史跡・名所として知られています。検索すると現在の写真もたくさん出てきます。こじんまりしていい雰囲気の場所ですねえ。句会できたら気持ちよさそう。  
“とてもいい“

魄の大関の引く夜鳴蕎麦

清瀬朱磨

二文字目は魂魄とかの魄ですね。あんまり普段目にしない言い回しだなあ。「落魄」は「らくはく」または「らくばく」と読みます。衰えて惨めになること、落ちぶれることを意味する言葉。また、形容動詞として使った場合には気持ちが大きく物事に拘泥しないこと、ほしいままにふるまうこと、という意味になるようです。ほう、ずいぶんニュアンスが変わるんだなあ……。この句の場合は前者の意味で使われていますね。かつては大関まで登りつめた力士が今では夜鳴蕎麦の屋台をひいているとは、栄枯盛衰でありますなあ……。夜鳴蕎麦が冬の季語であることを考えるといっそう侘しさが増します。 
“ポイント”

胤の朝顔藍の深すぎて

津々うらら

身分の高い男性が正妻以外の身分の低い女性に生ませた子を「落胤」といいます。歴史小説などでは見かける表現だけど、現実だとセンシティブすぎてあまりお目にかからない言葉。個人的には「朝顔」で一度切れると読みました。九音+八音の句跨りのリズムが正式な子として扱われないやりきれなさのようなものを表現したいのかな、と。 
“ポイント”

印を押されし我が身秋蛍

閑陽

印がなんだ私の風青し

春野つくし

印の落款赤し落第子

風早 杏

印やめらりめらりと葉鶏頭

三尺 玉子

印業火バラナシは油照り

おりざ

焼いた金属の印を物に押し当ててつけるのが「烙印」。かつて罪人の印として額などに押し当てたことから、汚名を受ける意味の「烙印を押される」という慣用句もあります。《閑陽》さんの句はまさにこの用法ですね。一方で《春野つくし》さんが烙印をはねのけるように明るいのもギャップとして愉快。《おりざ》さんの「バラナシ」はインドの都市の名前。ヒンドゥー教最高の聖地であり、たくさんの寺院が並ぶほか、商業や鉄道の要地でもあるそうです。そうなると気になるのは「烙印業火」の部分。歴史的にそういった文化があったりしたのかなあ……。

《③へ続く》 
“ポイント”