第31回 俳句deしりとり〈序〉|「らく」③
始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第31回の出題
兼題俳句
万物に心臓ベゴニア痛そうに開く 澤村DAZZA
兼題俳句の最後の二音「らく」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「らく」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
ラクシュミー祈りを込めて星月夜
高辺知子
ラクシュミの抱擁のごと石鹸玉
ヒマラヤで平謝り
ラクシュミを担ぐ僧侶の夏の雲
亘航希
ラ・クンパルシータ色なき風と音
ひでやん
ラ・クンパルシータ燃えて絡むカンナ
山羊座の千賀子
ラ・クンパルシータ麦踏めどまた立つや青
緑萌
ラ・クンパルシータ夕菅踊りたさう
湯屋ゆうや
楽日のアンコール秋灯のアリア
末永真唯
楽日(らくび)処暑トリは女性講談師
よはく
楽日の喝采生ビール五杯目
めいめい
楽日より中日が好きよ秋扇
たきるか
千秋楽の日、興業の最後の日が「楽日」、あるいは「楽」と呼ばれます。オペラのアリアや講談など幅広く想定されますねえ。なかには大々的な千秋楽よりも中日が好き、なんて秋扇を構えてる人もいるのかもしれない。こういう劇場公演系の場ってほぼ行ったことないんだけど、自分だったら《たきるか》さんの句みたいなスタンスになりそうだなあ。
落語家の楽屋で被るパナマ帽
太刀盗人
落語家の手拭いスマホとなる春夜
もりたきみ
落語会まるで笑はぬサンドレス
深山むらさき
楽さんの「早すぎるんだよ!」吊忍
白発中三連単
楽さんの歌さんいじり夏夕べ
伊呂八 久宇
楽さんの美しき紗袷江戸むらさき
摂田屋 酵道
楽太郎の「死神」永き夜に未完
ノセミコ
「らく」から落語、さらには楽さんこと三遊亭円楽さんに発想が広がります。これもまた追悼句でありますねえ。お元気に『プレバト!!』に出演されていた頃が懐かしい……。
「死神」は古典落語の演目のひとつで、死神とであった男がその力を利用して金儲けをするものの、最後は自らの寿命のロウソクの火を継ぐ羽目になっていく……というような話。失敗して男が死んでしまうバージョンで覚えていたんですが、演じる人によってはいろんなサゲがあるみたいですね。楽さんの映像もあるのかな。今度探してみよう。
落第や目玉焼きにはソースだよ
白沢ポピー
落第の兄の鞄の軽さかな
夏村波瑠
《夏村波瑠》さんの句は読み方次第。落第した結果、今までがんばってぎっしり参考書を詰めていた鞄が軽くなってしまったのかもしれない。あるいは、もともとろくに教科書すら持って行かないような学生生活を送っていた兄かもしれない。後者だとしたら、落第よりも目玉焼きになにかけるか議論に夢中になってそうだよな~(笑)。
落選のニュース早くてとろろ汁
白石 美月
落選の国会議員秋近し
白いチューリップ
落選の事務所終いや夏の蝶
佐藤儒艮
落選の達磨どんどへ放り投ぐ
前田
落札のこけし待てども来ぬ秋思
木ぼこやしき
落札のまさか贋作木の実雨
冬野とも
ここ十数年で入札形式のwebショッピングサービスもさらに一般化しましたね。メルカリとか。落札したものが贋作だったり、似ても似つかないまがい物が届くこともあるかと思うと怖くて二の足踏んじゃうなあ。《冬野とも》さんは「木の実雨」にしてるけど、自分だったらもっとショック受けそう。
らくだいて鳥取砂丘の山登り
石津 さくら
らくだ乗りモロッコの地を楽ちんだ
へばらぎ
ラクダと吾の深き足跡夜の秋
がらぱごす
らくだ行くまつげエクステ五月晴れ
大地緑
ラクダ乳灼く砂逃れヒヴァの街
八一九
駱駝から受けし唾や夏の空
江口朔太郎
駱駝から落下たんこぶに落花
俊恵ほぼ爺
駱駝らくだ鳥取砂丘はかげろひて
大月ちとせ
駱駝乗る鳥取砂丘汗まみれ
南全星びぼ
駱駝瘤しがみつく吾子夏帽子
若林くくな
駱駝のこぶにストローの口あり
丘るみこ
駱駝の瘤食む口内に立夏かな
馬場めばる
意外と多かったのが「駱駝」です。ラクダに夢中になるあまり季語の入ってない句から、ラクダとともに五感で季語を体験している句まで。個人的には動物園でみたことしかないんですが、駱駝に乗った経験ある人って多いのかしら。《俊恵ほぼ爺》さんや《南全星びぼ》さんは完全に乗ってるもんねえ。 知識として驚きなのは《丘るみこ》さんと《馬場めばる》さん。いざとなると砂漠の貴重な食料になる、って話は聞いたことありましたが、こぶだけを食べたりするの? 「こぶにストローの口あり」って……ストローを直接こぶに刺してる……ってコト!?
らくだ色の遺品整理や秋の夜
せんのめぐみ
落石のごと向日葵こんなにも崩る
鰯山陽大
最後まで次回兼題にしようか悩んでいた句のひとつがこちら。比喩を使った広義の意味での向日葵の一物仕立てです。「落石」が枯れ具合・朽ち具合の比喩としてまず秀逸。大きい塊から、ほんの少しこぼれ落ちていく欠片まで、崩れていく向日葵がどれくらいの段階ににあるのか、良い意味での想像の余白を残してくれています。語順も良かったですねえ。まずは上五の字余りで読者に想像の余地を与えておきつつ、後半では「こんなにも」と主観的な感慨を打ち出します。それによって、読者は自分の想定よりもさらに崩れた向日葵へと脳内の映像に補正をかけていきます。さぞ見事な向日葵であったのでしょう。崩れぶりも俳人の心を惹きつけてやみません。
第33回の出題
落雷の木に落雷を待つ少年
ツナ好
「落雷の木」はかつて落雷に遭った木、と理解しました。落雷で裂け、一部は燃え跡も残っているかもしれない。その場面を偶然見ていたのか、あるいは大人から伝え聞いたのか。季語「落雷」の鮮度を高くする読みを採れば、前者かなあ。一瞬の圧倒的な光と轟音、空気のふるえる衝撃。そういったものに魅了されてしまった少年はそれから何度も、落雷にまた会いたくて木の傍へと出かけていくのでしょう。木と向かい合う少年。その頭上には雷を生みそうな黒雲が唸り始めているのかもしれません。
ということで、最後の二音は「ねん」でございます。
しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう!
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!