第48回「鍋一杯の柚子ジャム」《ハシ坊と学ぼう!⑦》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
季語なし
ジャム煮れば夫もあらはるキッチンに
藤子
良い場面です。明確な季語を入れてみましょう。
季語なし
もう作らない鍋一杯のあんこ
風乃杏
「あんこ」が季語?
季語なし
ルバーブはコスモス色のジャムになり
糸桜
「ルバーブ」は季語としては認識されてないかな。「コスモス」は季語ですが、「コスモス色」と比喩に使うと、季語としての鮮度は落ちます。
季重なり
カレー煮る鍋に西日の夏休み
令子
「西向きの台所で、熱いカレーの鍋にさらに西日が差し、お腹を空かせた子供が今か今かと夕食を待っている。料理が好きではない私には、夏休みの台所仕事は正直苦痛でした。三十年近く昔のことですが……」と作者のコメント。
「西日」と「夏休み」どちらも季語ではあります。「夏休み」を外して、再考してみましょう。
季重なり
運動会金木犀と早生みかん
こたま
季語が三つ入っています。どれが季語か、歳時記を開いて確認してみましょう。
季重なり
柚子味噌は冷蔵庫にて冬眠中
かよいみち
「柚子味噌」も「冷蔵庫」も季語ではありますが。
季重なり
庭に出で柚子もぎ取るや冬の鍋
電脳庵
「柚子」「冬」どちらも季語ですね。まずは、歳時記を一冊お手元において、歳時記と仲良くなりましょう。
季重なり
故郷の柚子湯使うて冬銀河
電脳庵
「柚子湯」「冬銀河」どちらも季語ですね。
季重なり
飛行機雲と柚子の実と秋の空
雅
「柚子」「秋の空」それぞれ季語ではあります。
季重なり
実る秋鍋でコトコト柚子香る
たらお051646497
「秋」「柚子」どちらも季語ではあります。
季重なり
幼子の抜いた甘薯に蟻一匹
にゃんちゅう
「甘薯」も「蟻」も季語ではありますが。
季重なり
柚餅子蒸す晩秋の村なお寂静
迦楼羅(かるら)
「柚餅子とは、お菓子にもありますが、ここは一種の保存食としてのそれです。柚子の実をくり抜き、味噌や柚子果肉、胡桃な松の実などをつめて蒸した後、乾燥させる。お酒のツマミにも乙なものです。その柚餅子を作る寒村の晩秋に思いを馳せて……」と作者のコメント。
「柚餅子」そのものも、晩秋の季語です。
季重なり
衣替え清しき朝や柚子を練る
峠の泉
「秋も深まり、衣替えをしてセーターを着ました。空気も清々しく、採れたての香り立つ柚子を煮ると、ますます清々しい空気が漂いました」と作者のコメント。
確かに、秋にも衣替えはするのですが、「更衣(ころもがえ)」は夏の季語になっています。
柚子ジャムの日付シールのペンのはね
すみっこ忘牛
二句目がコメント欄に入っているようです。一句目は並選。二句目は人選です。
柚子ジャムを苦いと思ふ月曜日
深山ほぼ犬
「『柚子ジャム』は季語だと信じて投句したのですが、どうでしょうか?」と作者のコメント。
加工品になってしまったものは、季語としての力は弱いです。が、今、まさにジャムを煮ている、という場面ならば、季語としての手触りはありますね。この句の場合でしたら、「柚子ジャムは苦し」と前半を整えれば、「と思ふ」の四音が節約できます。この四音を使って、「月曜日」あるい「月曜」という日に季語を絡ませることは可能です。俳句は言葉のパズル。色々やってみましょう。取り合わせのトレーニングになります。
ぷくぷくと煮込まれてジャム蟻地獄
ひよこ草
ひょっとすると、この「蟻地獄」は比喩として使われているのではないかなあ……。
柚子のジャム「男のクッキング」満員
あまぐり
今回の兼題写真にとらわれず、上五に明確な季語を入れてみましょう。すぐに人選になります。
自家製の柚子茶片手にクリスティー
彼理
「①『柚子茶』が季語になるのか ②『クリスティー』ときたらアガサ・クリスティーは共通認識か。以上二点が心配ですが、今回は他に作れませんでした……」と作者のコメント。
「柚子茶」「柚子ジャム」のように加工品になっているものは、やはり季語としての鮮度は落ちますね。勿論、何らかの工夫をして「柚子茶」「柚子ジャム」だけど、そこに季感を醸し出すことは、できなくはないので、一概に全部ダメともいえません。
そして、もう一つの疑問。「クリスティー」に関しては、全員が全員分かってくれるかどうかは分かりませんが、「片手に」としているので、本かな? と気づいてくれる可能性は十分にあります。念押しするのであれば、「クリスティー読む」と補強する手もあります。いずれにしても、明確な季語を入れることを再度考えてみてはどうでしょう。
Todoのよぎる柚子ジャム塗つてゐる
源早苗
「パンに柚子ジャムを塗りながら、今日するべき事を頭で考えている私の日常を詠みました。ジャムを手作りしている友人知人に話を聞いて、何句か作ってみましたが、私の句らしくない気がしました。自分で感覚を掴めていない句を作っても、夏井先生には見抜かれてしまうと思いました」と作者のコメント。
「柚子ジャム」はすでに加工品になってしまっているので、季語としての鮮度が落ちるという意見はあります。そのうえで、「柚子ジャム」に季節感を添えるというアプローチもあることはあるのです。
① この句を、このまま無季句として成立させる。
②「柚子ジャム」に季感を補強する。
③ 明確な季語を入れて、再考する。
この三択で考えてみて下さい。
柚子ジャムや三年越しのブラームス
雀子
上五を「柚子煮るや」とでもしてもらえたら、季語としての手触りがギリギリ出てくるかなと思います。
母さんの柚子のジャム太陽の色
風羽
母さんが柚子を煮込んでいる場面として「太陽の色」という表現を使うと、季語としての鮮度が少し保てるかと。
柚子ジャムの糖度計算「きぼう」来ぬ
一寸雄町
「ジャムの糖度計算は複雑です。分子(柚子の糖度×柚子の重量と砂糖の重量)/分母(ジャムが出来上がった時の重量)。『きぼう』は国際宇宙ステーションの実験棟『きぼう』です」と作者のコメント。
「柚子ジャム」から、宇宙ステーション「きぼう」への展開は、ちょっと読み解けませんでした。言葉同士の距離が少々離れすぎたか。