第48回「鍋一杯の柚子ジャム」《ハシ坊と学ぼう!⑪》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
夫倒る歪な柚子に爪を立つ
日吉とみ菜
夏井いつき先生より
「夫が脳梗塞で救急搬送され、入院。ひとりキッチンに立っていろんな覚悟をしました」と作者のコメント。
大変なことでしたね。このような大きな出来事を十七音に入れ込むのは、とても難しいのです。が、「柚子に爪」と書けば読者に十分伝わりますので、残りの音数で、何ができるかトライしてみて下さい。
大変なことでしたね。このような大きな出来事を十七音に入れ込むのは、とても難しいのです。が、「柚子に爪」と書けば読者に十分伝わりますので、残りの音数で、何ができるかトライしてみて下さい。
太陽のフレア多き余炎かな
海泡
夏井いつき先生より
「今年(2024年)と来年(2025年)は黒点周期で太陽活動が活発な年。マスコミは特に気温と太陽活動の関連をレポートしてくれないので、せめて俳句に残しておきます」と作者のコメント。
以下、二点について再考してみて下さい。
① 季語をどう捉えたらよいのでしょう。
② 中七が一音足りないのですが、中七は極力七音にするのが定石です。
以下、二点について再考してみて下さい。
① 季語をどう捉えたらよいのでしょう。
② 中七が一音足りないのですが、中七は極力七音にするのが定石です。
子を産めばおんな肥りし水蜜桃
レディ咲瑠恋
夏井いつき先生より
中七を「肥りぬ」とすれば、人選。
あたたかやたんぽぽ薬局へファクシミリ
永華
夏井いつき先生より
たしかに「ファクシミリ」なんですが、中七下五がもたつくので、「たんぽぽ薬局へFAX」とすれば人選。
たしかに「ファクシミリ」なんですが、中七下五がもたつくので、「たんぽぽ薬局へFAX」とすれば人選。
柚子ジャムや二の腕のネジ開け放つ
黛素らん
夏井いつき先生より
中七下五の表現は、面白いですね。「柚子ジャム」は、季語としてはちょっと弱いので、中七下五とバランスがとれる季語を探してみましょう。佳い句になりそうです。
中七下五の表現は、面白いですね。「柚子ジャム」は、季語としてはちょっと弱いので、中七下五とバランスがとれる季語を探してみましょう。佳い句になりそうです。
柚子の香やレコード針を取り替へり
アツヒコ
夏井いつき先生より
下五を「取り替へて」とすれば、人選です。
下五を「取り替へて」とすれば、人選です。
三日目の柚子湯の柚子を嗅ぐ子かな
おさむし
夏井いつき先生より
実際には「三日目」だったのかもしれないが……。「二日目」ぐらいなら許容できて、人選。
実際には「三日目」だったのかもしれないが……。「二日目」ぐらいなら許容できて、人選。
蛍になるなんて夕焼を煮詰めれば
牧野冴
夏井いつき先生より
こういう発想は嫌いじゃないです。ただ、「煮詰めれば」という語感と「蛍になるなんて」との間に、微妙な齟齬があるように感じています。「虚」を成立させるには、一片の「実」が必要。その一語を砥いで欲しい。
こういう発想は嫌いじゃないです。ただ、「煮詰めれば」という語感と「蛍になるなんて」との間に、微妙な齟齬があるように感じています。「虚」を成立させるには、一片の「実」が必要。その一語を砥いで欲しい。
星の恋や鍋のジャムにしゃもじの道
牧野冴
夏井いつき先生より
語順を一考すれば、すぐに人選へ。
柚子一つ転びをりなほ転びをり
いくたドロップ
夏井いつき先生より
表現したい場面はよいと思います。描写の精度をあげる工夫をすれば、一物仕立ての句として人選が目指せます。
表現したい場面はよいと思います。描写の精度をあげる工夫をすれば、一物仕立ての句として人選が目指せます。
魔女の秘薬のごとく練る薔薇のジャム
千暁
夏井いつき先生より
この「薔薇のジャム」が、季語としての力を発揮するか否かは微妙なところですが、中七を工夫すると、いい感じで明確な季語が入るかも。その場合は、直喩ではなく隠喩になるかな。
この「薔薇のジャム」が、季語としての力を発揮するか否かは微妙なところですが、中七を工夫すると、いい感じで明確な季語が入るかも。その場合は、直喩ではなく隠喩になるかな。
無花果のジャムの香赤きオリエント
ジョルジュ
夏井いつき先生より
「毎年秋に、まだ青い無花果が売り出され、我が家も砂糖たっぷりで煮ます。青い無花果の砂糖煮は、宮城周辺の風習のようです。煮ると深い赤のジュースが鍋に溢れ、ヨーロッパの色とは違うギリシャやトルコの色や匂いを思い出します」と作者のコメント。
「無花果」と「赤きオリエント」という言葉の出会いが新鮮です。今回の兼題写真から離れて、再考してみましょう。
「毎年秋に、まだ青い無花果が売り出され、我が家も砂糖たっぷりで煮ます。青い無花果の砂糖煮は、宮城周辺の風習のようです。煮ると深い赤のジュースが鍋に溢れ、ヨーロッパの色とは違うギリシャやトルコの色や匂いを思い出します」と作者のコメント。
「無花果」と「赤きオリエント」という言葉の出会いが新鮮です。今回の兼題写真から離れて、再考してみましょう。
柚子ジャムの香ほのかや心療内科
高山佳風
夏井いつき先生より
「心療内科」なので、ひょっとして、ここに通っている子供たちを受け入れる場所があって、子どもたちと柚子ジャムを作っているのかも……と想像しました。もしそういう場面ならば、季語としての鮮度もなんとか保てるかも。
添削例
心療内科柚子ジャム煮ゆる香のほのか
「心療内科」なので、ひょっとして、ここに通っている子供たちを受け入れる場所があって、子どもたちと柚子ジャムを作っているのかも……と想像しました。もしそういう場面ならば、季語としての鮮度もなんとか保てるかも。
添削例
心療内科柚子ジャム煮ゆる香のほのか
柚子ジャムの匂い保名湯ら辺から
西田武
夏井いつき先生より
「保名湯」? 固有名詞?
「保名湯」? 固有名詞?
柚子を煮るまはす杓文字の重さかな
花はな
夏井いつき先生より
「『柚子ジャム』とすれば、季語ではなくなりそうなので『柚子のジャム』か『柚子を煮る』で迷いました。『柚子ジャム』ではやはりだめでしょうか? 今まさに柚子を煮ているということで季語に。煮詰まっていくと、杓文字がだんだんに重く感じられる感触を詠みたかったのですが」と作者のコメント。
完全なる加工品(例えば、宿のモーニングについてる小袋の柚子ジャム……とか)になるとちょっと辛いのですが、「柚子を煮る」「柚子ジャムを煮込む」とかならば、柚子のナマの手触りはありますね。この句の場合は、作者コメントにある言葉そのままが臨場感になりそうです。
添削例
柚子を煮る杓文字だんだん重くなる
「『柚子ジャム』とすれば、季語ではなくなりそうなので『柚子のジャム』か『柚子を煮る』で迷いました。『柚子ジャム』ではやはりだめでしょうか? 今まさに柚子を煮ているということで季語に。煮詰まっていくと、杓文字がだんだんに重く感じられる感触を詠みたかったのですが」と作者のコメント。
完全なる加工品(例えば、宿のモーニングについてる小袋の柚子ジャム……とか)になるとちょっと辛いのですが、「柚子を煮る」「柚子ジャムを煮込む」とかならば、柚子のナマの手触りはありますね。この句の場合は、作者コメントにある言葉そのままが臨場感になりそうです。
添削例
柚子を煮る杓文字だんだん重くなる
桃一列ウルトラマンの像の下
東ゆみの
夏井いつき先生より
「円谷英二ゆかりの福島県では、サービスエリアにウルトラマンの像があります。その下では、桃を一列に並べて売っています」と作者のコメント。
なるほど、売ってるのか! 売ってることが分かる工夫が欲しいです。
「円谷英二ゆかりの福島県では、サービスエリアにウルトラマンの像があります。その下では、桃を一列に並べて売っています」と作者のコメント。
なるほど、売ってるのか! 売ってることが分かる工夫が欲しいです。
鍋の揚げ詰め手伝いて運動会
蕃茄
夏井いつき先生より
「運動会等の行事のある時に、母が私達子供の好きなお稲荷さんを手作り。油揚げの味を染み込ませて、翌日ご飯を詰めたり、お弁当箱に詰めたり、手伝いをした思い出です」と作者のコメント。
なるほど、お稲荷さんの「揚げ」ですか。ちょっとそこまでは読み切れませんでした。最後の「運動会」で、借り物競争? とか思ってしまった……。
「運動会等の行事のある時に、母が私達子供の好きなお稲荷さんを手作り。油揚げの味を染み込ませて、翌日ご飯を詰めたり、お弁当箱に詰めたり、手伝いをした思い出です」と作者のコメント。
なるほど、お稲荷さんの「揚げ」ですか。ちょっとそこまでは読み切れませんでした。最後の「運動会」で、借り物競争? とか思ってしまった……。
鯲鍋着地見たくて焦げた呼呼
骨の熊猫
夏井いつき先生より
「オリンピックの体操競技を見ながら調理していました。潰しの効かない焦げた鍋を作ったことを詠みました」と作者のコメント。
なるほど、「着地見たくて」が俳句だけでは、分かりませんでした。
「オリンピックの体操競技を見ながら調理していました。潰しの効かない焦げた鍋を作ったことを詠みました」と作者のコメント。
なるほど、「着地見たくて」が俳句だけでは、分かりませんでした。
柚子の香や料理のランク上がるなり
の菊
夏井いつき先生より
「料理のランク上がるなり」が説明になっています。どんな料理に添えた柚子なのでしょうか。映像が欲しいところです。
「料理のランク上がるなり」が説明になっています。どんな料理に添えた柚子なのでしょうか。映像が欲しいところです。
辛党の妻の柚子ジャム食ますけり
山尾政弘
夏井いつき先生より
「食ますけり」とは? どんなニュアンスを伝えたいのか。
「食ますけり」とは? どんなニュアンスを伝えたいのか。