写真de俳句の結果発表

第48回「鍋一杯の柚子ジャム」《ハシ坊と学ぼう!⑭》

ハシ坊

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評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

銅鍋にジャムぷすぷすと秋深し

巴里乃嬬

夏井いつき先生より   評価    人 
「……と思いつつも、置きに行ってるような。一応、視覚と聴覚と嗅覚はいけたかなぁ?! と思っていますが、どうなのでしょう。季語自体に情感があるので、描写のみで攻めてみました」と作者のコメント。

これで、人選レベルは確保できています。更にやれるとすれば、「ぷすぷすと」の五音でしょうか。季語「秋深し」を信じて推し進めるとすれば、「ぷすぷすと」の五音を使えば、まだやれることがあると思います。攻めは、ここから。
“ポイント”

上り月空き瓶といふ可能性

秋野しら露

夏井いつき先生より
「空き瓶といふ可能性」という詩語を大事にしたいのだと思います。ならば、季語は動きそうです。
良き

亡き母の庭の柚子3つ煮る夜更け

はま木蓮

夏井いつき先生より
俳句における数詞は、特別な意図がない限り、漢数字で書くのが定石です。
“ポイント”

夕凪やジャムの先に帆を上げて

湖仙

夏井いつき先生より
「ジャムの先の海に、ヨットが帆を上げていて風待ち」と作者のコメント。

「ジャムの先に帆を上げて」という句意が、明確に読み解けませんでした。作者コメントを読んでみると、全体が比喩? 空想? ということなのでしょうか。
“ポイント”

夕焼を煮詰めてゲルニカへかけよ

青井えのこ

夏井いつき先生より
「私なりの反戦句になりました」と作者のコメント。

「夕焼を煮詰めて」という詩語と「ゲルニカ」の取り合わせはよいです。ただ、最後の「かけよ」によって、一句の詩の純度がやや浅くなってしまうのではないかと。是非、最後の着地を一考して下さい。
“ポイント”

豊の秋鍋の果皮見てにたり顔

高橋 誤字

夏井いつき先生より
「豊の秋」と「鍋の果皮」の取り合わせを許容したとしても、「見てにたり顔」という説明はいただけません。一考してみましょう。
“参った”

柚子ジャムやA型かもな上司作

玄子

夏井いつき先生より
「果皮の切り方が均一で美しかったので」と作者のコメント。

「A型かもな」は、映像ではなく感想です。「果皮の切り方が均一で美しかった」ことを描写したほうがよいですね。
“ポイント”

遺された柚子味噌レシピ真似てみる

釣女

夏井いつき先生より
「母が亡くなって五年。母のレシピにあった柚子味噌を作ってみるけれど、いまだ母の味にはならず真似事のままです」と作者のコメント。

下五「真似てみる」は、書かなくても想像できる部分です。
“ポイント”

暇つぶしチャカチャカ青き走り柚子

舞矢愛

夏井いつき先生より
「高校生が屯している様子を表現したかったのですが……。(本当に忙しないんです! 立ったり座ったり、携帯をイジっては大人しくなったと思えば、喋りだしては笑いだしたり……。お箸が転がるだけで笑う年頃をうまく表現したかったです)」と作者のコメント。

うーむ……これはちょっと無理かな。一読、「青き走り柚子」の擬人化だと思いました。高校生だと分かるような描写が必要ですね。
“ポイント”

トパーズのため息柚子の皮を煮る

七森わらび

夏井いつき先生より
「トパーズのため息」というフレーズに既視感があって調べてみたら、尾崎亜美さんの歌に「黄玉(TOPAZ)の溜息」というのがありました。勿論、俳句のような短詩系文学では、こういう偶然の類似はしょっちゅうブツかる問題です。ひとまず、この情報を踏まえた上で推敲してみて下さい。「トパーズのため息」を生かして、残りの音数で、季語のリアリティを追求するか。この感覚を全く別のやり方で表現するか。俳句作りが面白いのは、ここからの知的作業です。
“参った”

小瓶の残り香は甘し漱石忌

夏海 凛

夏井いつき先生より
「ジャムの瓶は洗っても甘い香りがします。漱石は甘党で、中でもジャムが好きなため『我輩は猫である』にジャムのくだりがあります。季語としました」と作者のコメント。

この「小瓶」は、香水? と読む人もいるかもしれません。「漱石忌」で、『我輩は猫である』を思い出す人もあれば、『それから』を思い出す人もいるので……。明確に「ジャム瓶」と書いたほうがよいかも。

添削例
ジャム瓶の残り香甘し漱石忌
“ポイント”

柚子ジャムや呟きをぶつぶつ掬う

湖七

夏井いつき先生より
上五を「柚子煮るや」とでもしてもらえると、人選です。
良き

柚子ジャムの鍋掻き分けてゐるモーゼ

佐藤ゆま(歯科衛生子)

夏井いつき先生より
「うーん。最近思うように句ができません。モーゼって! って思いながらも、時間切れになるので投句します。サボっているわけでも、イヤイヤ期になったわけでもありません。楽しいです。 ただ、発想が湧かないだけです(笑)。 組長、バッサリお願いします」と作者のコメント。

楽しいのは、何よりです(笑)。長い俳句人生ですから、「思うような句ができる、できない」はさておき、楽しんでまいりましょう。
さて、この句ですが、発想としては苦し紛れに出てきた「モーゼ」は面白いです。こうなってくると、「柚子ジャム」の必然性が薄くなります。「ジャム鍋の底」と「モーゼ」を繋いで、別の明確な季語を入れる。こうすると、生き返ると思われます。健闘を祈ります。
“とてもいい

みささぎへ実生の柚子をみづのをく

トウ甘藻

夏井いつき先生より
上五中七はとてもよいのですが、下五悩みました……。「をく」。「置く」は「おく」なので、「をく」となる動詞を探してみると……
お・く〔をく〕【▽招く】
[動カ四]まねく。呼び寄せる。
がありました。陵に実生の柚子がなったのは、水が招いたからだ、みたいな意味なのでしょうか……? まさか、「みづ」=「水」ではない可能性もあるのか。「瑞」=瑞祥? 「水の尾」が来る? 色々悩んだけど、下五ギブアップ。作者の意図を、また教えて下さい。
良き