第32回 俳句deしりとり〈序〉|「びる」③
始めに
出題の句からしりとりの要領で俳句をつくる尻二字しりとり、はじまりはじまり。
第32回の出題
兼題俳句
不機嫌な石鹸玉ほど生き延びる ぞんぬ
兼題俳句の最後の二音「びる」の音で始まる俳句を作りましょう。
※「びる」という音から始まれば、平仮名・片仮名・漢字など、表記は問いません。
びるるると凩のスズランテープ
西野誓光
びるるんと草笛鳴らぬいもうとと
ナノコタス
びるるんと蓋剥ぐプリン冬隣
源早苗
びるびると撓む革砥(かわと)や秋の昼
杏乃みずな
緬甸出港鸚哥は虹のうなさかへ
葦屋蛙城
「ビルマビリヤニメッチャタキマス」敗戦忌
白沢ポピー
ビルマの月蒼し迷い猫ぐるる
立田鯊夢
稀少な漢字でのしりとり例。「緬甸(ビルマ)」はミャンマー連邦共和国の旧称です。カタカナ表記での投句は他にもあったのですが、見比べてみると文字の印象がもたらす効果は大きいですねえ。漢字中心の表記の《葦屋蛙城》さんと、カタコトめいたカタカナ表記の《白沢ポピー》さんでは、目指している世界観がキッパリと違ってきます。あえて旧称の「ビルマ」を使うことで変革の渦中にあった当時を表現する狙いもあるでしょうか。《立田鯊夢》さんの「迷い猫ぐるる」の殺伐とした唸りが物騒な路地めいてコワイ。
毘盧遮那よ鹿寄せの音に耳澄まさん
栩々 万波
「毘盧遮那(びるしゃな)」は毘盧遮那仏、毘盧遮那如来とも呼ばれる仏のこと。サンスクリット語で「輝くものの子」を意味するバイローチャナからきており、太陽や光との関わりが強い仏様です。光と鹿の組み合わせといえば「照射(ともし)」というマニアックな夏の季語もありますが、「鹿寄せ」は光とは無関係な秋の季語。角を切るために鹿を呼び集める行事です。現在はホルンの音色で鹿を呼び寄せるのを観光できるところもあるとか。「耳澄まさん」はその場にいる人物や鹿の様子であるとも仏像を擬人化しているとも読めます。
第34回の出題
鼻涙管といふ暗渠や秋さびし
芦幸
涙はどこから生まれてどこへ消えていくのか。実は涙を排泄するための通り道となるのがこの「鼻涙管」なのです。目頭にある小さな穴から骨の中を通り、鼻腔へと抜ける小さな管です。自身の内側に埋まっている管を「暗渠」と呼ぶのは自らの肉体を客観視しているとも受け取れますが、どこか冷たく突き放すような印象も与えます。ひょっとしたら作者はもう長いこと涙を流していないのだろうか。喜びも悲しみもない日々、感情が汲み上げる涙が流れるはずの我が鼻涙管は乾いた暗渠に成り下がっているよ。「秋さびし」はそんな自嘲の思いを受け止め、一層増幅しているのです。
ということで、最後の二音は「びし」でございます。
しりとりで遊びながら俳句の筋肉鍛えていきましょう!
みなさんの明日の句作が楽しいものでありますように! ごきげんよう!