写真de俳句の結果発表

第49回「ブルガリアの道路」《ハシ坊と学ぼう!⑤》

ハシ坊

第49回のお題「ブルガリアの道路」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

雪日の渋滞パンを配りし人

風の母

夏井いつき先生より
「兼題写真の動けない車を見て、数年前、福井方面が豪雪で車が立ち往生し、そのまま夜明かしした時のことを思い出しました。あの時、同じく立ち往生していたパンメーカーの方が、積み込んでいたパンを皆さんに配布したことを思い出しました」と作者のコメント。

こんなニュースありましたね。上五を「雪の日の」としてはどうでしょう?
“参った”

息白しベゴのゲップもCO2

猫おっと

夏井いつき先生より
「川柳でもハシ坊狙いでもありません! どんな牧歌的な田舎にも温暖化の原因はあるという思いを『息白し』に込めました」と作者のコメント。

事実を書いてはいるのですが、詩情に欠けるのが問題です。
“ポイント”

賀茂祭牛車争い辱め

しなやか

夏井いつき先生より
「源氏物語第九帖『葵』の章からヒントを得ましたが、『賀茂祭』という季語に対して下五はアンバランスでしょうか? 六条御息所のプライドを傷つけられた切ない気持ちを詠みたかったのですが、チーム裾野の私には、まだハードルの高すぎる題材でしょうか」と作者のコメント。

こういう句材に挑むのが悪いわけではありません。が、すでに物語として書かれている場面をそのままなぞっただけでは、創作として物足りません。まずは、実体験を言葉で切り取るトレーニングから始めることをお勧めします。
“参った”

長崎を駆け抜ける蛇(じゃ)よ秋の声

ぱんだ社長

夏井いつき先生より
「ブルガリアの道路を塞ぐ牛から長崎くんち(長崎伝統の秋祭り)に発想を飛ばし、蛇踊りを詠んでみました」と作者のコメント。

「蛇踊り」という言葉をしっかりと入れたほうが良いと思います。長崎くんちの「蛇踊り」ならば、地域の季語として成立するんじゃないですかね。
“参った”

光たる牛の瞳や螽斯

小林 昇

夏井いつき先生より
一句に生き物を二つ入れるのは、バランスが取り難くて、むずかしいのです。この書き方だと、季語「螽斯」よりは「牛」が目立っています。
“ポイント”

ドア前に横たふ置き配冬牡丹

沢拓庵

夏井いつき先生より
「『何かが何かを通せんぼしている』マンションの隣のドアに立てかけてあった宅配の小荷物が、次に見たときに倒れていた場面を思い出し、上五中七でその後半部分を切り取ってみました。佐渡ヶ島めく宅配荷物です(笑)。二物衝撃の句で後から季語を選ぶとき、自分は二物が近くなりがちで、ほどよき距離感がなかなか掴めません。この句は近いでしょうか」と作者のコメント。

取り合わせる季語の考え方としては、ドアのあたりに置いてある鉢物の植物は、悪くないと思います。が、「冬牡丹」がベストかどうかは、悩ましいところ。もう少し俗な感じの鉢物でもよいかも。
“ポイント”

山霧の牛の散歩の優先路

津野田コウ

夏井いつき先生より
上五を「山霧や」とすれば、人選です。
“ポイント”

短夜や駅の寝床を段ボール

千鳥城

夏井いつき先生より 
第46回『深夜のドライブイン』の〈ダンボール開く短夜の寝床かな〉 を推敲しました。助詞を『の』か『を』で悩みましたが、段ボールそのもので終わるのではなくて、段ボールで寝床を作っている人を詠んでもらいたいと思い、動作が表れるように『を』を選びました」と作者のコメント。

「短夜」「駅」「段ボール」で、一句には十分の材料が揃っています。「寝床」と書かなくても、寝床にするのかも? と読者は想像してくれます。残りの音数をどう使うのが効果的か、考えてみましょう。俳句は言葉のパズルです。
“ポイント”

道路標識は「牛馬優先」夏の雲

ばちゃ

夏井いつき先生より
「道路標識に『牛馬優先』と書いてあるところがあるそうです。牧場などが近いところであろうと想像できるので、季語は牧場の青空に湧き上がる『夏の雲』を選びました。『浅間山とコスモス』の句で《レベル2の山道ヘルメットに蝶〉は『警戒レベルならば、そう書いた方が良い』とご指導いただいたことを思い出し、『標識は』としていたところを『道路標識は』といたしました」と作者のコメント。

俳句というのは、全てケースバイケースです。
今回の場合は、「標識は」でよいと思います。なぜなら「牛馬優先」という措辞で、道路の標識だと分かるからです。「レベル2」の場合は、山の難易度としてのレベル? と読まれる可能性があるからです。
“ポイント”

のどけきやリアスのやさし時刻表

詠華

夏井いつき先生より 
「~や」の切字、「~やさし」の終止形、下五の名詞止。典型的な三段切れです。一か所をつなげば、問題は解決します。
“ポイント”

暖房は強し牛舎の牛眠る

えとうま448

夏井いつき先生より 
「牛舎の暖房が強力すぎて、牛たちが眠ってしまいました」と作者のコメント。

牛舎の暖房について、知識がないので、「暖房は強し」と言い切れるほど、暖房が利くものなのか。そこが、ちょっと判断不能です。
“ポイント”

髪抜けて積もる如くに落葉降る

飛燕

夏井いつき先生より
「『化学療法後』と前書。初案は〈落葉降る如くに髪の抜け落ちる〉ですが、季語を立てるために逆にしました。化学療法中は冬の季節、脱毛は落ち葉のようなもの。治療が終われば、芽吹くようにまた髪も生えてくると考えています」と作者のコメント。

「化学療法後」を前書きにするのではなく、この「髪抜けて」が治療の副作用であることが分かるような書き方はできないでしょうか。このような辛い経験をしているのですから、一句でも二句でも佳句を手に入れてやらないと悔しい。もうひと踏ん張り、考えてみましょう。
“参った”

落葉雨G線上のドライブは粛々と

琳青

夏井いつき先生より
「降りしきる落ち葉の中を、G線上のアリアを聞きながら運転していると、姿勢良く背筋を伸ばしたくなります。映画の一シーンの中にいるような気分です。『ドライブ粛々』とすれば語調は整うのですが、『ドライブは粛々と』とした方が厳かな気分が表現できるように思い、あえてこちらにしました。『G線上』だけで曲名とわかってもらえないかもしれませんね。助詞も『に』『を』にするか迷いました」と作者のコメント。

そうですね。「G線上」だけで曲名とは分かり難いでしょう。下五「粛々と」は不要ですから、そこも含めて再考して下さい。
“ポイント”

牛啼ひて冬靄ぶんと震へけり

三尺 玉子

夏井いつき先生より
動詞「啼く」が、助詞「て」に接続すると、「啼きて」になります。ここを直せば、人選。
“参った”

かの牛舎揺れる尾に飛ぶ赤蜻蛉

西城 典子

夏井いつき先生より
「揺れる尾に」だと、赤蜻蛉は「飛ぶ」というよりは、「尾に」とまっている感じになります。助詞と動詞の関係を再考してみましょう。
“参った”