写真de俳句の結果発表

第49回「ブルガリアの道路」《ハシ坊と学ぼう!⑨》

ハシ坊

第49回のお題「ブルガリアの道路」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

羽ほしき市場の牛の追ふ冬蝶

文月蘭子

夏井いつき先生より
「兼題写真の牛の目線の先に、蝶が飛んでいるように思えました。同時に『ドナドナ』の歌も思い浮かびました。『もしも翼があったならば〜』あのくだりです。翼の無い市場へ連れて行かれた牛は、その後どうしたのかと考えました。冬蝶の弱々しい羽すら羨ましく『僕も羽が欲しいよ。飛んで牧場に帰りたいよ』とでも言っているかのように、後を追いかけてきたのではないかと思いました」と作者のコメント。

「冬の蝶」との取り合わせで、一句の奥にそれを匂わせることができます。上五「羽ほしき」は、書かないほうがよいと判断すべきでしょう。
“ポイント”

風立ちぬ牛と遭遇時とまる

夏井いつき先生より 
下五「時とまる」は要一考です。これは、作者の感想になります。映像を描写するのが俳句の基本です。
“ポイント”

おとんじょろの抱えたりけむ木の実かな

楽和音

夏井いつき先生より
「おとんじょろ」調べてみました。面白い句材です。下五の季語「木の実」に対して、中七の「抱えたりけむ」という措辞が、作者の表現したい内容に合っているのか。つかみかねています。
“ポイント”

翅をもぎ脚むしる子や昼の月

俊恵ほぼ爺

夏井いつき先生より
「子供の持つ、好奇心という名の残虐性。 それは幼き頃の私の内にも」と作者のコメント。

「や」が、「~子」への詠嘆になっている点が、バランスを崩しています。逆でしょう。

添削例
昼の月翅もぎ脚をむしる子ら
“ポイント”

星月夜ショプスカ三つの国旗色

美湖

夏井いつき先生より 
「ブルガリアのソウルフードについて調べたら、ショプスカサラダが出てきました。サラダが鮮やかで美しい様をそのまま素直に詠みました」と作者のコメント。

「ショプスカ」がサラダであるということを、書いたほうがよいのではないかと思います。ちょうど七音ですし。これがどんなものかを知ってる人にとっては、「三つの国旗色」が説明に感じられるかもしれませんので、「星月夜」と「ショプスカサラダ」で一句。更に、ブルガリアの国旗の色でもう一句と、切り分けて作り直してみましょう。
“ポイント”

山の道蒙霧升降牛歩む

きらら

夏井いつき先生より 
「七文字にしたいので、『蒙霧升降(ふかききりまとう→もうむしょうこう)』と音読みで読んではいけないのでしょうか?」と作者のコメント。

それは、あまりにも強引です。そのまま「深き霧まとえる牛や」とすれば、普通に意味は伝わります。「まとう」という動詞は、再考の余地がありますが……。
“ポイント”

廃校の彫刻の額照紅葉

北国はな

夏井いつき先生より
「北海道・美唄市の郊外に、廃校を活用した彫刻の美術館があります。秋に訪れた時、大きな長方形の中がくりぬかれた像から見た紅葉が美しかったのを詠んでみました」と作者のコメント。

なるほど、そういうことですか。上五中七の表現で、そこまで読み取れるかどうか。少々ビミョウです。ひとまず、「廃校」を活用しているという情報は外して、「大きな長方形の中がくりぬかれた像」というモノを上五中七で表現できればベスト。その場合、季語ももう少し広々とした光景として描いたほうがよいかもしれません。
“参った”

ワインから立ちのぼる湯気月さやか

錆鉄こじゃみ

夏井いつき先生より
この「湯気」は、ホットワインの類? 香りの比喩? 「月さやか」との関係が気になりました。
“ポイント”

葵祭の牛車過ぎ清掃びと来

藤田ほむこ

夏井いつき先生より
「葵祭では、牛馬の後には糞始末係がちゃんと平安時代の衣装でやってきます。ちょっと嬉しいです。で、人ではなく『びと』としました」と作者のコメント。

よいところに目をつけましたね。語順を一考してみると、面白くなりそうです。「清掃びと」がベストかどうかも含めて。

“参った”

行く秋や明日売られる雌牛かな

亀子

夏井いつき先生より
一句に、「や」「かな」の切字が重複するのは、感動の焦点がブレるということで嫌われます。どちらか一つを外しましょう。
“参った”

澄んだ眼の幼い牛の秋愁い

美川妙子

夏井いつき先生より
季語としては、春の場合が「春愁」、秋の場合は「秋思」となります。
“参った”

夏暁や深い前傾パリの坂

草栞

夏井いつき先生より 
三段切れっぽくなっているので、中七を「前傾深き」として下五に繋げれば、人選になります。
“ポイント”

蝶唄い牛山羊笑う平和死守

こころ美人

夏井いつき先生より 
「映画『戦雲』を観ました。ミサイルをつんだトラックの傍らには蝶、牛、山羊の暮らしがあった。この平和を守らねば」と作者のコメント。

その映画の内容を十七音に詰め込むのは、無理があります。そのうちの一瞬の一場面を切り取る。そこから練習してみましょう。
“ポイント”

凩や最後の一葉父の息

あらまち一駒

夏井いつき先生より  
「嫁の父親が余命宣告受けた三月に、オー・ヘンリーの『最後の一葉』を思い出して、凩吹く日まで生きてる奇跡を詠みました」と作者のコメント。

「最後の一葉」という小説の題名をそのまま使っているのは、少々損です。例えば……「凩の一葉や」とでもすれば、最後の一葉のイメージは構築できるのではないかと。
“ポイント”

冬の蠅止まる日当たり牛も尚

はなハチコ

夏井いつき先生より
「先日、多度津町での句会ライブに参加させて頂き、大変楽しい時間を過ごさせていただきました。その時頂いた季語集の中から引用させて頂きます。小さな蝿と大きな牛の対比で、大きさは違えど日当たりが好きなのは同じだろうなと思い、詠みました。夏井先生がおっしゃった『毎日五分、俳句の時間』を実践したいと思います」と作者のコメント。

句会ライブから、こちらに入会して下さったのですね。ご一緒にコツコツ学んでまいりましょう。
さて、この句ですが、やろうとしていることはよいのですが、句意が明確に伝わりにくい部分があります。「小さな蝿と大きな牛の対比で、大きさは違えど日当たりが好きなのは同じだろう」これを伝えたいのならば、「~止まる日当たり」と説明しなくても大丈夫。「冬の蠅」と「牛」を映像として描写してみましょう。いきなり、「描写」といわれて戸惑うかもしれませんが、人選以上の句を丁寧に読んでいくと、そのヒントが掴めますよ。
“ポイント”

むくり起き去る羆や車潰れる寒き朝

モト翠子

夏井いつき先生より
「ニュースでドライブレコーダーに撮影された場面を見ました。軽自動車とヒグマがぶつかり、軽自動車の前方は潰れたのですが、ヒグマはその衝撃にものともせず起き上がって、雑木林の向こうに去って行きました」と作者のコメント。

ニュース全体を一句に入れてしまうのは、無理があるので、場面を切って、丁寧に一句一句に仕上げてみて下さい。
“ポイント”

獣棲む山なだめるや木の実雨

桐山はなもも

夏井いつき先生より
「昨今さまざまな要因で人と熊や猪など野生動物との遭遇・被害がニュースになっています。人間の被害はもちろん心が痛むばかりですが、動物の方も餌を求めているだけで、何とか良い共生の仕方がないものかと思います。当初は『山に棲む獣なだめる~』としたのですが、説明的で季語と近すぎると思ったのと、内容的にも獣だけの問題ではなく、山をはじめ自然全体のことだと思い、このように詠みました」と作者のコメント。

この内容でしたら、文語で統一した方がよさそうです。中七を「なだむるや」とすれば、人選です。
“ポイント”

朝陽さすいがぐりふわと青々と

そーめんそめ女

夏井いつき先生より
「朝陽」とあれば、すでに差しています。たった二音ですが、俳句では大きい二音です。
“参った”