写真de俳句の結果発表

第49回「ブルガリアの道路」《ハシ坊と学ぼう!⑬》

ハシ坊

第49回のお題「ブルガリアの道路」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

知床の原野に罪なき鹿を撃つ

祥子

夏井いつき先生より
中七の「に」は不要です。「知床の原野」で、意味上の切れをいれて、後半を整えましょう。「罪なき」と説明しなくても、「鹿を撃つ」だけで、作者の言いたいことは伝わります。残りの音数は、描写に徹して下さい。
“ポイント”

髪切るや妻は臨月爽やかに

なんくる

夏井いつき先生より 
語順を一考してみましょう。
“ポイント”

蜉蝣の骸の油道染めて

京都さくら

夏井いつき先生より
「この季節、近くの橋に蜉蝣が大量にやってきて、自動車が思わず轢いていきます。その体から油がしみ出し、スリップし、交通事故も起こるとのことです」と作者のコメント。

このような光景を描こうとする時に、下五「染めて」のような表現はよく目にします。ここの描写が一句の眼目になります。再考を。
“ポイント”

シベリアの森へ溶けゆく秋の蝶

くつの した子

夏井いつき先生より
「秋蝶が秋色の大森林に紛れ込んで、見えなくなるのを『溶けゆく』と表現してみました」と作者のコメント。

このような光景を描こうとする時に、中七「溶けゆく」のような表現はよく目にします。ここが、最後の勝負どころ。あなたなりの表現を探して下さい。
“ポイント”

リラ湖凍つサファイア銀の泡纏い

青猫

夏井いつき先生より 
下五の「纏い」という動詞だけ再考してください。人選は目の前です。
“ポイント”

我もっか日系の街星月夜

それから

夏井いつき先生より 
「パラグアイに行った長女からはほとんど連絡がなく、大学のインスタで消息を知るだけです。そこで、日系の街の宿で、久しぶりにみそ汁などの日本食を食べてほっとしたとありました。『我』と『もっか』両方いらないかと迷ったのですが、忙しい中、家族へ心の中で報告してくれているであろう気持ちと、日系の方との交流により、その歴史に想いを馳せたであろう気持ちをこめて両方使ってみました」と作者のコメント。

上五「我もっか」の意味が、つかみかねているのですが……。
“ポイント”

ヨーグルトに匙立ちにけり野分跡

弥栄弐庫

夏井いつき先生より
「牛、ブルガリアときたらヨーグルト! という発想なのですが、飛ばし過ぎでしょうか? ブルガリアについて調べると、やはりヨーグルトにこだわりのある国で、脂肪分によっては固めのヨーグルトがあるとのことでびっくりしました!」と作者のコメント。

上五中七のフレーズはよいです。中七の描写、よく書けています。ただ、下五の季語が動きそうです。佳き取り合わせとなる季語を探して下さい。
“参った”

目の優し車道の牛や秋の暮れ

敏庵

夏井いつき先生より
「~優し」の終止形、「~や」の切字、下五の名詞止め。それぞれ切れる三段切れになっています。
“ポイント”

朝霧や連れて行っよ東京へ

魔理野

夏井いつき先生より
「行っよ」は入力ミスでしょうか。全体が三段切れになっているので、そこも一考して下さい。
“参った”

尻押すややさし牛の眼稲光る

春木

夏井いつき先生より
「尻押すや」で上五ですよね。「やさし牛」と繋がるのならば、「やさしき」と連体形になります。全体的に語順も再考してみましょう。
“参った”

炎昼の痩せたる牛は神の使者か

希々

夏井いつき先生より
「灼熱のインドで、陽炎の中で道路に横たわる痩せこけた牛。神の使者として大切にされている牛は道路も我が物顔。でも、痩せこけているんですよね。大切にされているのかいないのか、なんとも複雑な気持ちになった場面を詠みました」と作者のコメント。

句材はよいですね。語順が普通の文章になっているので、そこを一考してみましょう。
“参った”

届けたし病の友へバラの香を

よしえ

夏井いつき先生より 
「今、病の床にいる友人は旅好きで、ブルガリアに一人で行きました。お土産に小さな木の入れ物に、さらに小さなガラス瓶に入ったバラの香水を買ってきてくれました」と作者のコメント。

香水なのですね。植物の「薔薇」も季語ですが、「香水」も夏の季語。この場合でしたら、「香水」を季語として書くべきです。「病の友へ」とあれば、「届けたし」と説明しなくても、読者には十分伝わります。
“ポイント”

路傍の牛に流るる時間寝待月

福間薄緑

夏井いつき先生より 
「季語『寝待月』に挑戦するのは、初めてです。数々の俳人が挑んできた月の季語の機微をどれだけ捉えられたか、どう評価していただけるか、楽しみです」と作者のコメント。

このように、意欲をもって新しい季語に挑んで下さるのは嬉しいことです。
この句「路傍の牛」と「寝待月」を取り合わせは、ちょっとした挑戦です。寝待月がのぼってくる頃に、作者もまた「路傍の牛」と佇んでいるのでしょうか? だとすれば、なぜそんな夜更けに? という疑問の先に立ってしまいます。中七「~に流るる時間」という表現も含めて、再考してみて下さい。
“ポイント”

早朝の乳清甘し愁思酸し

かときち

夏井いつき先生より  
季語「秋思」は、「愁」ではなく「秋」ですね。ここを直せば、人選です。
“ポイント”

厄日や車と牛のにらめっこ

みほ

夏井いつき先生より
「厄日」は「やくび」、三音の季語。上五が「厄日や」と四音になっているのが、気になります。
“ポイント”

売れ残る牛とねむりし雪の果

ナノコタス

夏井いつき先生より
今、一緒に眠っているのならば「~ねむりぬ」とでもするべきでしょう。「~ねむりし」は過去の意味になり、「雪の果」に意味がかかってくるので、季語も過去の意味? となれば、季語の鮮度が落ちます。
“ポイント”

八月の罅割れてゐるアスハルト

黒田栗まんぜう(芹が谷栗まんじゅう改め)

夏井いつき先生より
「ヒビ割れて放置された道路と、八月の季語が合うように感じました」と作者のコメント。

おっしゃる通りですね。下五は「アスファルト」とすれば、人選です。
“ポイント”

秋の空ブルガリア道路で迷い牛

もっさん

夏井いつき先生より
中七の調べが、もたつきます。語順を一考してみましょう。
“参った”