写真de俳句の結果発表

第49回「ブルガリアの道路」《ハシ坊と学ぼう!⑭》

ハシ坊

第49回のお題「ブルガリアの道路」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

 

牛を追ふ杖より生ず冬銀河

ひな野そばの芽

夏井いつき先生より
「夜に牛を追う牛飼いはいないよなーとは思いますが、牛飼いの振り上げた杖の先に、しらじらと天の川が凍てついている情景を想像してしまいました」と作者のコメント。

「牛を追ふ杖」と「冬銀河」の取り合わせがとてもよいです。「~より生ず」とするとファンタジーになってしまうのが、勿体なく思います。
“ポイント”

ひっつめ髪ほどく肉増し蕎麦の夜食

森ともよ

夏井いつき先生より 
「兼題写真の牛が、美味しそうでした。文字数を調整しようと思いましたが、『ひっつめ髪』と『肉増し』という言葉にこだわりました」と作者のコメント。

語順を再考してみましょう。「ひっつめ髪」から「肉」へいくと、登場人物の肉体の「肉」を思わせるので、「蕎麦」が美味しく思われ難くなります。
“ポイント”

塞く車瀬踏みし白眼の秋思かな

鶴喰 照

夏井いつき先生より
「『塞く(せく)』、『白眼(さめ)』=白毛の牛、『秋思(しうし)』でお願いします」と作者のコメント。

一語一語の意味は分かりますが、全体を通すと、意味が分からなくなります。写真を見てない人にも分かるような描写から、練習を始めましょう。
“ポイント”

和やかな地球温暖化同志募集

紗翁

夏井いつき先生より
最後の「同志募集」が、詩というよりはポスターになった感じで……。
“ポイント”

霧晴れて峠に現る珍客や

和草雪月

夏井いつき先生より 
その「珍客」が何なのか。それを描写して欲しいです。
“ポイント”

八月の帰途あか牛曳く指に父

空豆

夏井いつき先生より 
「熊本の陸軍幼年学校に寄宿していた父。終戦となり、家族が身を寄せていた祖父の実家へ帰る途中、山で道に迷いました。あか牛を曳くおじさんが現れて、『むっちゃんの息子か?』と聞かれ、『はい長男です』と答え、道を教えてもらい大変助かったと聞きました。戦死した祖父の故郷で会った温もりを思いました」と作者のコメント。

良いエピソードですね。このようなエピソードすべてを、十七音に入れ込むのは至難の業です。一場面ずつを細かく切り取っていくことをお勧めします。
“ポイント”

宵闇へ今は昔となりにけり牛車

喜悦

夏井いつき先生より
「想像の翼を広げて、平安時代へとタイムスリップしました」と作者のコメント。

「牛車」というモノを登場させた段階で、「今は昔となりにけり」という表現自体が不要になります。
“参った”

雨後の夕道端に揺る花薄

ミワコ

夏井いつき先生より
「~揺る」が「花薄」にかかるのであれば、「~揺るる」となります。が、そもそも「雨後の夕べの花薄」と書けば、その揺れ方は自ずと想像できます。再考してみましょう。
“ポイント”

「チェスティート!」錆びたる柵を放つ東風

乃咲カヌレ

夏井いつき先生より
「先月のベルリン旅行中に、冷戦時代に東と西に住民の暮らしを引き裂いていた壁の存在を感じました。 この兼題写真でも東欧革命のことを思わずにいられず、ブルガリアの共産主義体制崩壊のことを詠みました。『1989年11月10日 ジフコフ失脚後に街を歩く人達が「チェスティート(おめでとう)」と連呼しており、民主化されるのだと実感した』との前駐ブルガリア大使・小泉崇氏の奥様、友子女史の手記を読み、句にしてみました」と作者のコメント。

「チェスティート(おめでとう)」の意味が分かると、句意が理解しやすくなります。気になったのは……、「柵を放つ東風」という書き方に違和感がありました。
“参った”

もーいいかい?まだだよ待って煤払い

北村桜優

夏井いつき先生より
「今回の兼題写真がまずもって難しいと言いますか(汗)。とりあえずモーと鳴かせてみました。かくれんぼと『大掃除できてないのに年末来た』というのと、『煤逃』という季語もあるので、その対比もできないかなとか。三段切れ? 散文的? なんとなく座りの悪い感じです……」と作者のコメント。

お気持ちは分かりますが……(苦笑)。句意が分かり過ぎるのが、難点か。
“参った”

かの国や冷蔵庫に見るブルガリア

帷子川ソラ

夏井いつき先生より
中七下五は、「ブルカリアヨーグルト」ってこと? 「かの国や」という大袈裟な感じは面白いけど……(笑)。
“参った”

放射の風任を解かれり田搔牛

泉幸

夏井いつき先生より 
「原発事故で立ち入りが出来なくなったことをどう表現するか迷い、『放射の風』となりました。」と作者のコメント。

「放射の風」で、その意味を伝えるのは無理がありそうです。大きなテーマを描く時は、場面を小さく切り取っていくしかありません。
“ポイント”

星月夜仔のとりあぐる獣医かな

太刀盗人

夏井いつき先生より 
良い場面を描こうとしています。「仔の」の助詞「の」が、作者が伝えたい意味に合致してるのかどうか……?
“ポイント”

「ブル」が「リア」軽口の上司夜業かな

慈庵風

夏井いつき先生より  
うーむ……上司の軽口の意味が、イマイチ分からない。「ブル」が「リア」??
“ポイント”

北欧の冬ざる道や牛悠然

桃華

夏井いつき先生より
「冬ざる」が「道」に接続すると、「冬ざるる」と連体形になります。
“ポイント”

農耕後牛冷やすのか欧州も

小川 茜園

夏井いつき先生より
「『兼題写真から季語が浮かばない』と、ずいぶん苦労しました」と作者のコメント。

全体が散文になってしまいました。つまり、「農耕(の)後(に)牛冷やすのか欧州も(と思いました)」という普通の文章になってしまっています。まずは、YouTube『夏井いつき俳句チャンネル』の「【初心者でもカンタン!?】日記から俳句を作ってみよう!」などを参考に、最初の一句の作り方から、始めてみましょう。 『世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所)を読んでもよいです。
“ポイント”

凍土なる国境を越え牝牛の身重

天弓

夏井いつき先生より
「ブルガリアと牝牛で検索すると、何処かで『身重の牝牛、国境を越える』という記事を見ました。兼題写真の風景は凍ったブルガリアの道のように見えたため、凍った大地をずっと歩いて国境を越えた身重の牛を詠んでみました」と作者のコメント。

気になるのは二点。一つは、「~を越え」は不要。「凍土なる国境」とあれば、想像できます。もう一つは、「牝牛の身重」は語順が逆でしょう。以上を考慮して、全体を整えてみましょう。人選は、目の前です。
“ポイント”

運動会EV時代の牛歩戦

三日余子

夏井いつき先生より
「兼題写真を見て“スローモウ”という言葉がまず浮かびましたが、十七文字で表わすことが難しかったです。また、季語がなかなか浮かびませんでした」と作者のコメント。

ということは、「運動会」は、取り合わせた季語ということかな? 比喩なのかなあ? 兼題写真を見てない人には、この句の状況がイマイチ見えないでしょう。
“参った”

ハイウェイ牛も車も紅葉狩り

大和明希子

夏井いつき先生より
「人間だけが紅葉を愛でるとは限らない。仲良く譲り合って、秋のひと時を過ごすのもオツなものかと……!」と作者のコメント。

お気持ちは分かるのですが、「牛も~紅葉狩り」は、少々強引。牛が紅葉狩りをしているみたい、ということを書きたいのならば、逆に「ハイウェイ」「車も」などの情報を外して、「牛」と「紅葉」の取り合わせで勝負すべきでしょう。
“参った”

冬の山牛だって困る鉢合わせ

れもん

夏井いつき先生より
写真の説明になっています。写真de俳句は、写真を説明するものではありません。写真を発想のジャンピングボードとして、自由に作って下さい。
“参った”